01.乙女ゲームのヒロインでした
ビシャッ、ゴン!
頭部への衝撃に、私の視界、一瞬チカッと光って、真っ白になった。
ジャッ、ガン、ガララララ・・・ビシャアー
視界はすぐに戻ったけど、立っていられなくて、ゆっくりと手を床に触れるように体勢を低くする。
水浸しの床。
転がるバケツ。
近いけれど少し遠くに聞こえる、クスクスといった笑い声。
「うそ・・・」
と口に出てしまったのは仕方ない。
ゆっくり顔を上げ、痛む頭を手で押さえながら、周囲を見る。
バケツが直撃したみたい。痛みで涙目。
だけど、水も被っているから、泣いていても分からないはず。
「あら、みっともない事ね」
ご令嬢の一人が現れた。私を笑う。
「そんな状態ではとてもここにいられませんわね? もうお帰りになられたら? いっそもう来られなくてよろしいのよ」
「・・・モモ・ピンクー様」
茫然とお名前を口にする。
私の様子に、モモ様は高笑いをなさった。
「オホ、オホホホホホ! オホホホホホ!」
私は震えた。
「『ミラクル☆セレブレーション』・・・」
今、思い出した。私は、この世界について知っている、って。
***
『ミラクル☆セレブレーション』というのは、乙女ゲーム。
ストーリーはよくあるもの。
平民の女の子が、特待生となって、貴族の通う学院の生徒になることができて。
その中で、イケメンたちと仲良くなって、最後は1人とハッピーエンド。
だけど、ライバルのご令嬢たちから色々苛められる。
それを攻略対象であるイケメンのご令息たちが庇ってくれる。
庇ってくれることで、イジメがどんどんエスカレートするのだけど。
一方、ヒロインには辛い設定もある。
父が、病気の母と子どもたちを残して急死。
亡くなった父は、貴族の子どもを助けるために死んでしまった。
それもあって、国からの救済措置の一つが提案されて、ヒロインはそれを受けた。
試験にパスしたら、貴族の令息令嬢たちが通う学院の特待生になれる。成績が良いほど、国から生活費支給を受けることができる。
どんな設定だ、と思うけど、色々アバウトな世界観だ。
とにかくヒロインはいじめが酷くても、母と弟と妹のために勉強を続けたくて頑張る。
苦労してるけど、根性はあって、性格は素直で明るくて愛らしい。
そんなヒロインに惹かれていく人たち・・・。
ヒロインが、幸せをつかんでいくお話。
一方、先ほどの、バケツがあたった衝撃で私が思い出したのはそれだけじゃなくて。
私は、前世日本人だった。
病院で、乙女ゲームを楽しんでいて。
時間制限もあったし、きちんとプレイできたのは気に入った1人だけ。次の1人をプレイ中に悪化してゲームどころじゃなくなったけど。
私・・・病気で死んで、乙女ゲームに転生しちゃった? 小説みたいに?
ちなみに、小説やマンガも読んでいた。
『乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった!』というのが流行っていて、いくつも楽しんでいて・・・。
結局、ヒロインは常識知らずで、悪役令嬢に濡れ衣を着せようとまでするから、逆に悪役令嬢に転生した主人公が、ヒロインの嘘をばらして恋を勝ち取る、というお話。
思い出した日本人の記憶と、今までの『キャラ・パール』として生きてきた記憶とが合わさってちょっと吐きそうです。
ねぇ、これは夢?
ま、待って・・・ヒロインだよね、私、今・・・。
あ。死んだ直後、女神さまに会ったの、思い出した!
女神さまは光りながら、私をものすごく気の毒がって・・・。
願いを聞いてあげる、と言われたから、私は正直に希望を告げた。
17歳で死んだ私は、最後の4年間、病院生活だった。
ゲームや小説で憧れていた。
「元気で、楽しくて、両想いの彼氏もいてて、まるで乙女ゲームみたいにミラクルな人生が良いです」
『あなたの希望は分かりました。だけど、私にもできることとできないことがあるのです。そこは理解してくださいね。乙女ゲームのようにミラクルな、ですね。分かりました、叶えましょう』
今、私はショックを受けている。
願ったよ、願ったけど・・・!
女神様は、私が、前世で唯一やった乙女ゲーム『ミラクル☆セレブレーション』に転生させてくれた!
それは嬉しいけど、だけど・・・。
ヒロイン!?
このゲームに、攻略対象者それぞれに別のライバル、悪役令嬢がいたはず。
とにかく、私の他にも転生していて、悪役令嬢になってる人、いたりしないの?
もしいたら、私はヒロインだから、目の敵にされて、フルボッコにされてしまうんじゃ?
牢とか処刑とか絶対嫌ー!!
あと、それに。切実な問題として、イジメが本当に毎日で、ご令息方の助けがなかったら、もう心が折れそう・・・。
女神さまー!!
わーん、頭の痛み以外で涙出そう。