復讐1話
「勇者様!」
「勇者様ぁ〜!」
「勇者様!!」
「こっち向いて〜!」
「キャー! いま目が合ったわっ!」
「いいえ私と目があったのよ!」
「いいえ私よ!!」
黒神 結人は凱旋パレードをしていた。
魔王を討伐し、この世界を脅かす脅威から人々を救った勇者として、結人は知られている。
容姿は非常に整っており、異世界人の彼でも、周りの女性は全然放っておかなかった。
人望も厚く、何より人柄がいい。
人を疑わず、誰も彼もを愚直に、純粋に信じる。
危なっかしいと言われるが、それでも彼は人を信じ続けていた。
剣術の才能も驚異的で、数万年に一人の天才だと言われている。
まさに、非の打ち所がない。
「姫さま、やはりユイトの人気は絶大ですな」
「そうですわね。ですが、彼は私のモノ。たった一人の大事な恋人ですわ」
アリシャ姫はユイトにウインクをした。
ユイトはそれを見ると、恥ずかしそうに笑った。
それを見た女性ファンから再びピンク色の悲鳴が上がる。
「ユージン、ごめんな。護衛なんかさせちゃって」
「良いって事よ。親友だろ? 今度かわらそばってやつ食わせてくれたら嬉しいなー」
「はいはい」
ユージンは、ユイトの親友で、勇者パーティでユイトと並ぶ前衛だ。
剣の腕もユイトに次いで凄じく、戦闘面ではまさにトップクラスの天才だ。
「疲れてない? ユイト」
「リーリア。うん、大丈夫。心配してくれてありがとな」
リーリアは勇者パーティで遠距離支援行なっている。
彼女の持つUS《幻想創世者》は、魔法を必要とせず、強力な攻撃が可能だ。
MP要らずで戦い続けるその様子から、エンドレスウェポンなんて呼ばれていたりいなかったり。
ちなみにアリシャはヒーラーだ。
この国では聖女と呼ばれている。
由来は、USの《聖ナル治癒者》から来ている。
「ユージン、凱旋が終わったらどこに行くんだったけ?」
「えーっと確か………王城だ! 王様がお前を呼んでいるらしいぜ。お師匠さんも来てるんだと」
「えっ、師匠も!? うわぁ、嬉しいなぁ」
師匠の名はグレイブ。
未だ純粋な剣の腕では誰もが肩を並べたことのない、事実上最強の剣士。
ユイトは、剣神と呼ばれた彼からの手ほどきを受けているのだ。
「でもなんで呼ばれてるのかわかんないんだよなぁ」
「褒美だろ、ほーび。ついに姫と結婚か? あっはっはっは!」
ユージンが大声で笑うと、後ろでアリシャが真っ赤になっていた。
積極的な彼女も、改めて指摘されると照れるのか、と微笑ましい気持ちになったユイトであった。
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ここは、ユーフィリア王国の王城にある玉座の間。
ここには今までであった人たちがたくさんいた。
皆、ユイトの仲間だ。
部屋の奥にある玉座には、国王が佇んでいた。
「勇者ユイトよ。よくぞここ魔王を倒してくれた。改めて礼を言おう」
「はっ、もったいなきお言葉」
ユイトは跪いて、頭を下げた。
「面をあげよ。今日はそなたに折り入って頼みがあってここへ呼んだのだ」
「!」
ついに来た、とユイトは思った。
これで漸くアリシャと結ばれる。
そう思うと、つい胸が踊った。
「このユイト、何なりと承りましょう。して、 その頼みとは………」
「うむ、実はな………いや、それはアリシャ本人から聞くべきだろう。アリシャよ、伝えるが良い」
「はい、お父様」
アリシャはユイトの目の前まで来ると、にっこりと微笑んだ。
「ユイト、目を瞑って下さい」
「は、はいっ!」
ユイトはグッと目を閉じた。
ようやく………ようやくだ!
命を張ってまで魔王を倒してよかった!
あんなUSでも受け入れてくれた仲間達のお陰で、今俺は、彼女と結ばれるんだ!
ゆっくり顔が近づいて来る様子がわかる。
彼女の吐息を感じる。
「ユイト………」
———————————————ゾッ………!
「!!」
いきなり目の前に現れた殺気を感じ、ユイトは咄嗟に後ろに飛びのいてしまった。
「殺気………? 姫、気をつけてください! 刺客がいるかも………………姫?」
「あーあ、殺し損ねちゃいました」
刺客でもなんでもなかった。
殺気を放ったのは、目の前でナイフを弄っている彼女だったのだから。
「………あ、りしゃ?」