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53.初動

 この世界は、俺の知っている今までの世界とは似ても似つかない。と、言うと語弊があるな。それなりに異なっている、ぐらいに表現しよう。


 まずNot Aloneについて、どうやらパソコンで遊ぶゲームではないらしい。パソコンは観戦画面を出したりチート対策をしたりと大会の運営に必要らしいが、Not Alone自体は両手に持つ棒状のコントローラーがゲーム機になるようだ。

 ああ、そうだ、自分で言ってて意味が分かりづらい。形状はそうだな、ヌンチャクや縄跳びに近いだろうか。棒をつないでいる紐部分は存在しないから、ほんとうにただの二つの棒でしかないが。


 棒の内部には電波の受信機と送信機が内蔵されていてそれのおかげでサーバーを介さずとも同時対戦が可能となっている。底部にはソフトを差し込む挿入口があるみたいだ。

 それと、謎の太めの首輪。ピップエレキバンより太いぐらいだな、これが脳波を受信する機械らしい。


 んで、極めつけが脳内VRもどきだ。

 ゲームをプレイ中は眼を閉じるのが基本で、脳内に浮かび上がるゲーム画面を見ながらプレイする。実際にプレイヤー自身が登場人物になりきるわけではなく、俺が知っているようなマウスやキーボードでプレイするような性質だった。

 眼は開けられるぐらいに意識はハッキリしているが、ゲームプレイに利点がないから誰もしないだろう、憶測でしかないが。


 俺の家にも、そのゲーム機はちゃんとあった。

 一度だけプレイしてみると、不思議な感覚はあるものの確かにそれはNot Aloneのままだった。

 

 次にesportsの発展具合についてだが、桁外れだった。

 外になんて殆ど出ていない俺ですら知り得る情報だ、スポーツで例えるならサッカーぐらいには普及している。プロゲーマーの数も多いようだし、ゲームで飯を食うってのは一般的な行為みたいだ。望むなら、この世界へ先に来たかったかもしれない。


 そして、時代背景が俺のいたあの頃ぐらいだった。要するに2016年ぐらいってこと。

 ゲームはコンシューマーよりスマホゲーの方が流行っているが、ただesports分野のゲームだけは格が違うようだ。

 さっき言ったゲーム機は、いわゆるコンシューマーゲーは一切ない。色んなハードで出されてきた評価の高いesportsゲーだけをかき集めたようで、まさにこの時代にうってつけの魔法の道具だ。


 公園ではゲームをしている子どもたちが社会問題になっているようで、誘拐騒ぎがそれなりにあるようだ。脳内でプレイしていることから聴覚や視覚も失っているわけではないが、それでも危険なことに変わりはない。

 まあ、よくできた世界だ。


一樹「まだ休みたいところだが……。どうせ美咲が待ってるんだろ」


 どれだけ疲れようと、眠かろうと、腹が減ろうと、美咲が一人ぼっちで待っているというのなら、俺は動くしかない。

 あいつは俺の原動力だ、生きる理由でもある。


 帰らなきゃ。

 早く。

 家に帰らなきゃならない。


 そう思えば、ぐちゃぐちゃな心は――――ぐちゃぐちゃなまま突き進ませてくれる。

 壊れても問題はない。

 美咲が動かしてくれる。


 臆するな、留まるな。

 頭を動かし、身体を働かせろ


 心は、きっとどうにかなる。

 きっと――――。


 *


 ほんとうに、なにからなにまで違う。

 町並みも、学校も、商店街でやってるニュースの内容も、俺の知っている学生時代じゃない。


 行ったことのない場所でもそれなりに下調べすれば大丈夫だと高をくくっていたが、教室の場所はさっぱり分からんかった。

 おかげで遅れて入ることになっちまった。変に注目を浴びているが、人目につくのは慣れている。

 あんまり恥ずかしいとか、思わなくなってきたな。老人化が進行しているぜ。


一樹「……先生、自分の席ってどこですかね」


 人影が多すぎてよく分からんな。

 だいたい俺の名前的に窓際の黒板側が空いてそうだと思ったのに、そんなことはないらしい。


 先生は戸惑いながらも指をさして教えてくれる。――――ど真ん中ですか、ずっと喋りかけられそうで最悪ですね、ありがとうございます。

 そう思いつつ、教室の後ろ手から中へ入り三歩ほど進んだところで分かった。


 廊下側の中央の席に、美咲がいた。

 そっか、同じクラスか。そりゃ好都合ですね、まるで運命みたいだろう?


 どっかの誰かがそう仕組んでるわけですが。


楓「おー、来たか不登校」

一樹「いつぞやの不法侵入者」

楓「失敬な、ギリ入ってないっつうの」


 俺の後ろの席にそいつがいた。名前は楓だったか、どうだったか。これは美咲よりも先にこいつとフラグを立てるんだろうな。

 それなりにNAが上手ければ助かるんだけど……ガチャすら引かずに手に入る初期メンバーはどれぐらい強いんですかね。ちゃんとレアリティをマックスにしないと強くならない大器晩成型は好みじゃないな。最初から強い天才型が望ましい。


 もう俺の解説なんぞなにもいらないぐらいに強いやつだけが集まってきてくれ。

 まあ、そうもいかないんだろうが。


 先生がいなくなったタイミングで、後ろにいた楓がなにやら口元をニヤリとさせながら俺の背中をつついてきた。


楓「ぶっちゃけ聞くわ、あんたNAどんぐらい強いの?」


 どんぐらい、どんぐらいか。前の世界とは違う、ここは俺の知らない世界だ。

 未来が見えていた世界ではない。干渉しても問題はない。


一樹「お前よりは」

楓「へー、言うじゃない。私、結構うまいんだけど」


 そういや、この世界のNA文化をまだ知らないな。どのぐらい進んでるんだろうか。

 下手すれば俺が一番弱いって説もなくはない、か。


 どのぐらい強いかどうかはさておき、俺がしたい質問はどこが目標なのかってこと。別に現状がどんな強さとか、知識量とかそういう話は後でいいんだ。教えれば済むし、実力は時間がある程度まで解決してくれる。

 ただどうしても克服できない問題はモチベーション……つまり、やる気だ。


 このやる気ってものだけは特別で、全員が同じだけの量を持っていないと”100%その集団は崩壊する”。


 一人が突出してもダメなんだ、そいつの熱量にみんなが追いつけないから。

 一人が無気力でも意味がないんだ、そいつの熱量にみんなが落ち込まされるから。


 二人でも、三人でも、熱量に差があればそこには目標への原動力が変わる。練習量に乖離が生じる。となれば当然、実力へつながってしまう。それから徐々に落ちていくのが信頼感だ。


 モチベーションの低下は信頼を失う。

 信頼を失ったチームは、存続そのものが危ぶまれるんだ。


 それじゃ意味がない。

 だから、この質問が必要なんだ。


一樹「お前、どこを目指してる?」


 俺は振り返ってそう言った。


楓「世界」

一樹「いいね、目標はでかくないと」


 ――――期待できそうじゃないか。

 行動力の固まりか、お前。お前みたいな奴こそが、すべてにおいてチャンスを生むかもしれない。


楓「この前あんたの家に行ったときの面子で三人。あと一人、校内で宛てはない?」

一樹「とびきり強い奴がいる。同じ一年だ」

楓「……へー。ちなみに誰?」


 美咲だ。

 と、言いたいところだが。


一樹「また後で言う。先生、来たし」

楓「タイミング悪っ……!」


「タイミングが悪いとは何事か」と、一限目の教師に聞こえていたようだ。


 実際の理由は美咲の名前を言ったら不自然過ぎるからだけど、上手く誤魔化せたな。

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