46.なんのために
おれらのチーム名は”カツカレー”と超適当だった。必要になれば名前を変えればいいというおれの発想だが、正直冗談のつもりだった。まあ、冷静に考えてみれば美咲は肯定も否定もしないし、琴音もチーム名なんてまったく興味ないやつだ。他の二人はなにか言いたげだったが、いい案が浮かぶわけでもないので、そのまま決定した。
メンバーは大会に慣れている者ばかりで、あまり緊張はない。一月の道中は肌寒かったが、楽しく談笑をしながら目的地を電車でめざしていた。
最寄り駅に到着してからは、最終的な確認に入っていた。強敵となるであろう敵チームの構成、特徴、対策。自分たちの心構えや、パソコンのセッティング方法、寒さに対する対策など話し合いは順調に進み、いい流れだった。
大会開催地に指定されているだけあって、向かっているネカフェは大きめのスーパーぐらい。中に入ってみれば、見知った顔が何人かいた。みんな若い顔だ。
師匠もいたし、zipp0も、chiffon、他にも懐かしい顔がたくさんいる。高校生大会で見たことあるやつといえば、monolithがいた。確か、個人プレイが目立つやつだった。
まあ、誰が出場するのかはネットで公表されてるから知ってるんだけど、久しぶりに会うと感慨深い。
SpeedStar以外に負ける気、しないな。
うん、やっぱり好きだな。
Not Aloneも、大会も、ゲームを真剣にやっている人たちも。
さあ行こう。
誰が最強か教えてやる。
一つ勘違いしていたことがあって、おれたちの前評判はかなり良かったみたいだ。出来合いのチームを評価なんてできないと思っていたが、日本NA界では、おれの存在はかなり異質らしい。所詮は学生レベルだと高をくくられると思っていたが、わりと見る目があるんだな。いや、zipp0たちみたいな上位勢がどこかで評価しているのをみんな聞きつけたりしたのだろうか。
全部で十六チームが出場、四回勝てば優勝だ。初戦から二回戦は圧勝。三回戦目に出会ったのは、2003年頃から2005年ぐらいにかけて日本を圧倒していた伝説のチーム、3dNから三人のメンバーが出場しているダークホース枠だ。
まあ、余裕ではないが普通にボコった。十六ラウンド対七ラウンドだから、結構な差だと思う。普通におれの対策が刺さって、どうしようもなさそうだった。
そんで……主役といいますか、本番といいますか。決勝戦はBO3といって、三マップで戦うことになる。
問題のSpeedStar戦に入るわけですが……。
勝てないよね、そりゃ。一マップは相手が取って、二マップはおれたちが取った。
最後の結果は十二対十六で、見た目は惜しいようにみえるけど実情は全然違う。
内容はおれか美咲が爆発的な強さを出したラウンドが中心の勝利。
最終試合はおれのクラッチシーンが五ラウンド、美咲が二ラウンド……。こんなの前代未聞の試合だったはずだ。1on4や1on3で勝ちまくる、異常な形式だった。
こうなってしまった原因は分かっていたとおり、撃ち合いでまったく勝てなかった。
途中で向こうが気づいてしまった。こっちの弱点に。
おれたちは集団になったときの連携はそんなに悪くなかった。だが、個人の動きはまだ強くない。
その、個人技が弱点となる。
作戦を行う前に、まずはおれたちは散らばらなければならない。
色んな方向から同時に攻めて、引いてを繰り返すことで相手の隙を突くのが基本だ。
例えばinfernoでおれたちがAT側だとしよう。DF側であるSpeedStarは、こんな風に散らばっているところを一瞬で潰しにかかる。
こうなると、本来ならcatにいた赤1は後ろに下がったり、仮に死んだとしても残りの赤2から4のやつらがロングを取ってB挟みに行くのが定石だ。
それが上手く行かない。
この後、実際におれたちはB挟みをしてみせた。
B挟みをするためにグレネードを使う、もちろんBサイトが取れる。ここまではいいよな、順調だ。
しかし、そこでほとんどのグレネードを使っているおれたちは、青1や青2がまだ使っていないFBやSGに対処ができず、負けてしまう。グレネードをほとんど使い切ったおれたちVSまだグレネードが余っているSpeedStar。Bサイトと、その周辺に引きこもっているおれたちは袋のネズミってわけだ。
さあ、なぜこうなった?
一番の理由は?
個人技だ。
そもそも、このNot Aloneというゲームは理論上『これらの個数のグレネードと人数』があれば、だいたいエリア確保ができる――――というように研究されている。
だからおれたちは実際にエリア確保――――つまり爆弾設置までは持っていけた。
そう、理論上できるからな。でも爆弾設置しても勝ちが確定するわけじゃない。
問題は『グレネードを使わせる行為ができない』ということにある。
本来、個人技が同等であれば好きに撃ち合いをしてみたり、好きなタイミングで相手をおちょくってみたりと、色々と『情報とグレネードの交換』をし合える。
しかし、おれたちは美咲を含めて四人が個人技で劣っている。
この『情報とグレネードの交換』が成立しないんだ。もし実行しようとすれば、こっちは撃ち合いで劣るから固まって人数差を活かさないといけない。
その人数差を活かせば? 他のエリアが盗られる……。
個人技で劣るということは、それすなわち最後の詰将棋の状況で負けるのだ。
必然だった。
分かっていた。
悔しくは、なかった。
さて、さて……。
新しいチームはどうしよう。
はは、分かっていたことじゃないか。うなだれるな、前を向け。
進みつづけろ。後悔なんて、してる暇はない。
戦うしかないんだ。
心を無にしろ。
勝ちを求めたんだろう、aqua。
転移最初のほうが、よっぽど分かってたじゃないか。
さあ、声をかけにいこう。
動け、動け。
SpeedStarに、声をかけにいけ。
引き抜くか? 引き抜かれるか?
なあ、動けよ……。
まだ心の奥底に、この五人で戦いたいって気持ちがあるのか? 馬鹿か、お前は?
琴音と美咲を交えて屋上で話したあのときから、なにか勘違いしていないか。勝つことだけが楽しさだけじゃないって、思い出しただけでいいんだ。
自分の目標を忘れるな。
忘れるな……。




