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45.辛い現実

 ESWCとIEF……これから先の日本では、この二つが主に世界大会への出場権を握っている。

 しかし、その予選はまだない。日本はマイナーリーグだ。この時代の人口は、これから十年ぐらい先のプレイヤーが想像するよりもずっとすくない。

 世界大会の出場権すら、日本にはまだないんだ。


 今年、2007年にはその二つはやっていないから、ようやく来年になって世界へと出場できる。


 もちろん、自費で海外へ行って、予選の予選の予選とかから勝ち進めば、理論上は可能だ。だが、どこにそんな金がある?

 最低でも百万は用意しないと、大会期間中、ずっと宿無し飯なしで生活することになるし、まず親の許可が到底取れるわけない。二ヶ月は海外に滞在することになるだろう。日本予選から出場すれば、だいたい二週間から三週間で済む。


 すくなくとも2008年からだ。2008年にようやくESWCの日本予選が出てきて、おれの世界だとzipp0のチームが優勝する。当時は圧倒的な強さだった。 

 メンバーが単純に強いという理由もあるが、付け加えてスウェーデンに留学した彼が、技術と知識を持って日本に帰ってくるのもでかかった。


 まずは今年、腕試しだ。

 本気で戦いに行くけど、勝率はだいたい三十パーセント。

 とりあえず、このメンバーでどれだけのポテンシャルがあるのかを図りたい。


 


「FBの仕様について教える、見といて」

 

 NAのテクニック、技術を優也とエレナへ教える。

 琴音と美咲には既に伝えていた情報だ。


「まずFBの仕様、自分に対して九十度の位置なら効果時間が短くて済む」


 つまり、真後ろを向いて避ける必要がない。それを知らないやつは無駄にマウスを動かして時間を無駄にする。

 いかにギリギリでFBを避けられるかで、その後の行動が短時間に移せる。


「……おー、本当だ」

「あとスモーク。下を向いたら透けるから」

「え、なに言ってるんですか?」


 いいからやってみろ。とおれはつづける。


「え、え。本当だ、透けてます!」

「照準を下に向けてるから、とっさの打ち合いには弱くなる。でも先に見つけたほうが強いって状況なら使えるから」


 ゲームの仕様は、きちんと理解すれば大きな力になる。

 昔のおれは、自分だけが持つ情報をよく公開していたけれど……。世界で戦うようになってからはやめてしまった。


 それが強さの差になるのだから。


「今日から三日間かけて主要なマップの知識はすべて伝えるからよく覚えておいて。必要なら自分たちで動画を取って保存しておくこと」

「了解です」

「aqua、試合って本当に一週間後からしかやらないのかい?」

「やらんよ」


 楽しむためには『ゲームをしたい』だろうよ。

 でもさ、勝利を求めだすとどうしても地味で楽しくない『練習』になるんだ。


 ごめんな。

 楽しい練習にしてやる技術は、まだ持ってない。




 チームの結成から二週間が経った。とりあえず練習試合をしてもいいと思うぐらいには知識と作戦、そしておれの指揮について説明を終えた。

 練習試合をとりあえず片っ端から頼み込んでいき、一日に平均三試合ほどする。


 チーム結成後、はじめての試合は幸先悪く、勝てなかった。これぐらいは想定通りだし、はじめから勝てるのは強いやつを集めたときぐらいだ。おれを中心に反省会を何度もつづけ、とにかくおれの考えを全てトレースさせていく。


 それが強くなるから? そうだ。

 勘違いしてほしくないのは、強くなると言っても個人技の部分ではないということ。

 おれのチームで、おれの指揮に合わせるのだから、おれの考えをトレースして欲しいってだけだ。


 ――――まあ、もちろんおれの思考方法で少なくとも世界八位は取れるわけだが。

 一概に正解なんて存在しないし、おれもそんな気はない。だから、反省会でもだいだい決まって「おれならこうする」って文言で通す。実際、おれが一番強いわけだから、みんなも正解って認識ではいるだろう。けれど、直接的に言うのと間接的に伝えるのではメンタルの持ちようが違う……と、勝手に思っている。


「全然勝てませんね」

「そんなもんだ」

「いやあ。ぶっちゃけ、もうちょい余裕だと思ってました」


 んなわけあるか。


「なんだかんだうちの構成って、日本最強と、それが認める天才、美少女ゲーマー二人と引きこもりですよ?」

「僕だけ悪口だよね」


 野球やサッカーと同じで、もちろん大会に出ないようなチームだったり、大会に出てもあんまり成績がよくないチームならあまり強くない。

 そのぐらいなら高校生大会の四位ぐらいまでと同格だったりもする。


「おれがお前らの動きを縛ってるからな。ごめんな」

「あぁっ、そんなつもりじゃないですよ! これから頑張って、aquaさんの指揮に沿えるように動きますから、ご心配なくっ!」

「僕もまだまだ、aquaの言ってるレベルの報告技術に全然達してない。正直、今までやってきていたチームプレイとは別格過ぎて、脳が追いついてない」


 みんなの本来出せるパフォーマンスを、おれの要求が足かせとなって落としている。

 だが、これは一時的だ。

 これを乗り越えれば、その強さが手に入ると信じている。


 今までに、何度もこの足かせが原因で抜けていったメンバーを見てきた。

 自分が弱いことを受け入れられないから、自分の信じてきたことを否定されるから、漠然とした先行きのなか……敗北ばかりが積もるから。


 信じてくれ、導いてみせる。




 ネカフェ大会まであと二日。

 cloverが覚醒した、満足の行く強さになって現状floraよりも総合的には強い。candyは撃ち合いの面は置いといても、状況把握がよくできている。絶対に理論上取れるラウンドは取ってくれる、十分な成長だ。


 勝てる確率が、三十五パーセントぐらいにまであがった。

 

 floraはおれを除いて、日本で二番目か三番目に強いL96使いになった。もちろん一位はchiffonだ、あれはちょっと強すぎる。

 Magicもチームプレイの面では今のところ頭一つ抜けていて、信頼できる安定感がある。


 次の大会で勝てなくてもいい。来年までに日本一を取って、その次はもちろん世界――――。


 無理だ。


 ――――勝てないなら、メンバーを変える。

 当たり前の話じゃないか。

 勝つだけが楽しさじゃない、それを思い出したまではいい。


 落ち着けよaqua。お前は仲良しこよしのためだけにNot Aloneをやってたわけじゃないだろ。

 現実は厳しいんだ。本当に必要なら、やるしかないだろ。仲がいいだけで勝てる世界なんて、あるわけねえよ。


 自分の目標を忘れるな。

 忘れるな。




 彼らは踏み台だ。

 世界へ通じるのは美咲と……エレナ。彼女を見つけられただけ儲けもんだ。


 琴音もセンスは悪くない。でもあいつは、おれらとゲームをやるのが好きなだけだ。世界に届くのに必要な一番の要素は、そのゲームを愛しているのかどうか。彼女に、それはない。彼女では、世界に届き得ない。優也も、日本一にはなれる。世界八位ぐらいはいける。だが、一位の勲章は限りなく遠い……。

 おれですら、届くかどうか不安なのに。


 最近、どうかしてた。


 次の大会で負けたら、水面下でおれはチームを探そう。

 美咲と一緒に別のチームを探す。


 見つかったなら、チームは解散だ。

 ……もし、彼女が。もし、美咲が断ったのなら……。どうする。


 琴音の予測では、近い将来なにか違和感が訪れる。おれの補足では、それはおそらく敵として戦うことになる。

 そいつが、なにを望んでいるのか。


 おれとの対戦だけならいい。

 もし、美咲も含めた二人での対戦を望んでいるなら……。


 このチームで世界を取ることになるのか……?


 ……かんがえたくない。

 いまは、まだ。


 考えるのをやめよう。

 まずは、目先のネカフェ大会で優勝だ。

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