表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/70

41.必勝法

 当たりも当たり、大当たりだ。

 四葉 優也のゲーム名はcloverで、彼はNot Aloneの次回作であるNot Alone:originで有名だった。といっても、おれはoriginのプレイヤーじゃないし、移行もしなかったから詳しい話は覚えてないが……おなじ高校だったのか、全然しらなかったぞ。


 それも当然か。だって不登校だったんだから。


 NAOは2004年に発売されて、2006年ぐらいに大会数がNAより増えたって歴史があったんだが、どうも世界的には受けなかったみたいで何年かすると消えたんだよな。

 NAが2012年まで大会が開催されてて、2011年ぐらいまでそれなりに盛り上がってたけど、NAOはどうなんだろ。あんまり活気づいてなかった記憶しかない。

 だいたい、cubeもNAOからこっちに移行してきた人だったしな。

 ああ、そうだ。cubeのチームメイトだったんだっけ、cloverってたしか。


 つうことは2008年ぐらい……? 来年にはこの人NAOで日本大会優勝しちゃうのか。いいね、教える前からそれなりに強そうで。


 これでチームメンバーは確定。

 あとは、時間の問題だ。

 

 *


 こうして十一月になった。

 一月におれたちははじめて国内大会に出場する。cloverはすでに参加したことがあるらしいけど。


 まだ一ヶ月しかたっていないが、チームの完成度はまあまあ高い。そもそも美咲と琴音はチームメイトだったのもあってコミュニケーション面は楽だ。二人とも頭がいいし。

 エレナはもともと美咲並の個人技があったのと、高校生大会で全国二位の高校にいたこと、そして中学生大会の優勝経験もあって、チームプレイは二人よか上手だ。正直、おれの目線では二人以上にチームにいて心強い存在になっている。

 そして今回のキモになるclover。このレベルを野良で探そうと思ったら大会入賞経験を前提しないと見つからないぐらいには強かった。基本的になんでも卒なくこなせるが、どうやら昔は指揮官をやっていたみたいで、FPSというゲームジャンルに対する理解度がそこそこ高かった。


 今のおれたちでどこまで通用するのかが見ものだ。


 ちょっと前ならこんなこと思っていられなかったな。負けるのが怖かったってのも、もうだいぶ薄れてきた。美咲のおかげだ。

 

 一ヶ月の練習、と言ってもおれは普通のチームの練習法とは違う。まず最初の二週間はおれの知識をひたすらに授けることと、作戦の暗記、おれの指揮の概念。要所要所で問題を出して、チームプレイの概念を伝えた。

 そこいらのチームの練習法ってのはとにかく試合を回すことと、個人でプロの動画を見たりゲームをする程度のものだ。

 それじゃ効率が悪い。


 なんでゲームをうまくなろうとする過程で単純にゲームをするのかが昔から分からない。

 先にインプットをしなければアウトプットもできないだろう。

 練習したことを出すのが試合であって、試合を回して練習をするのなんて本末転倒だ。


 ――――それすら教えてくれないのが日本のe-sportsという業界なんだよな。

 マイナーな市場で、マイナーな盛り上がりで、これからあと何年経てばこの業界は進化するんだろう。




「次の大会で注意すんのは一チームだけ。zipp0たち率いるSpeedStar。ここが場違いレベルに強いから、こいつらの対策を今から伝える」


 ”出た。aquaのチーム対策講座”


 と、言うのは琴音だ。高校生大会からずっとやってるからな、この対策講座。

 前の世界でも、一番最後の世界八位を取ったときはこれをやっていた。


「とりあえず、先に言っとく。ゲームの技術面において、こっちが弱点を付ける部分はない」


 例えば、高校生大会のときは単純に下手な人がチームに一人ぐらいはいたもんだ。もしくは強い人が二人ぐらいいて、他の三人は普通とか。

 そんな、プレイヤーに対するアンチ行動ってのが取れるレベルはもう終わった。


 まあ、zipp0に関してはおれが癖を知っているってのはあるが……他の四人は癖までは知らないな。


 ”え、じゃあどうするんですか。チーム全体での動きでしか対策できないと”


「まあ待て。最初にプレイヤーの紹介から入るから」


 一人目、チームリーダーのchiffon、弱点はない。チームの指揮官かつスナイパーで、AIMの技術は日本レベルなら常に最強クラス。今の段階なら美咲がこの人に勝てる部分は一つしかない。反応速度を活かした、相手の出待ち。これなら唯一倒せる。

 そしてchiffonの強み、操作技術の高さとAIMの強さからくる時間稼ぎ。


 ”時間稼ぎですか?”


「時間稼ぎってのはお前らにも教えた通り、これができるプレイヤーがいるといないじゃチームの安定感がまったく違う」


 dust2の坂下で守っているDF側が、Aトンに対してどれだけ時間稼ぎができるかでA側の配置を色々と変えれるし、作戦の種類も増える。

 ロング攻めが来たら辛い作戦をしようと思っても、このchiffonみたいなやつを坂下におけばその作戦の成功率がめちゃくちゃに上がる。


 ”aqua的にL96の技術はどう思っているんだい”


 そうたずねるのはcloverだ。おれが教える前にちゃんと動画を見て研究してんのね。感心、感心。


「強みはたしかにL96もある。こいつはとにかくAIMに関して右に出るものが本当にいねえぐらい強い。だからL96もマジで当ててくる」


 ”それってfloraよりも?”


 琴音は意外そうに言った。

 この時代の美咲はおれよかAIMで弱いんだ、当たり前だろ。


「反応速度ならfloraのほうが上だよ。ただ撃ち合いだったり、判断のレベルなら話にならないぐらい差がある」


 日本にいた、世界に届きうる人物の一人だ。

 この人はzipp0がチームから抜けることで……日本の環境に嘆いて引退する。


「次、zipp0。説明するまでもないけど、現日本で最強。判断速度、AIM、操作技術、そして読み。すべてにおいて高水準の神」


 ”聞けば聞くほどに絶望感あふれますよね”


「弱点はchiffonよりは見つけやすい……というより、おれがchiffonと違って元から知ってる。自分の得意な動きというか、信頼をおいてる戦術があるから、それに結構たよる」


 ”例えば?”


 琴音の問いに対して、おれは思い出す。

 そうだな、infeとか説明しやすいか。


「zipp0はinfeのB守りを担当してるんだけど。普通の時間よりもちょっと遅らせて味方にFB入れてもらう、そこからバナナを勝負してくる。大体のプレイヤーは情報収集だけして逃げるのが多いけど、zipp0はそこで連続キルを狙ってくる。成功率が高いからやってくるんだけどな」


 そこを突く。おれたちはFBを最初から避けるか、食らったままでもBの入口に向かって真っ白な画面のまま弾丸をぶち込むわけだ。

 zipp0が出てくることを決めつけて……。これが一試合中に一回は刺さる。


 ”は? 一回だけなの?”


「お前な、仮にも日本最強だぞ。あの人はそういうミスを繰り返さねえ」


 ”弱点になってねえじゃん”


「弱点だよ。まずそこをついて一ラウンドを取る。そうするとzipp0は次に勝負してこない。逆にそれを活かしてB攻めに見せかけたA攻めをするとか、Aの情報を取りに来たやつを出待ちするとかな」


 相手はバナナの情報を取りに来なくなる。なぜならおれたちがアンチをしたから。

 じゃあ相手はどうする? B側の情報を取らないなら、今度はA側の情報を取りに来る。そうすればB攻めかA攻めか分かるからだ。

 表裏一体なこの配置。B側が引けばA側で前に出ざるを得ないし、逆もまたしかり。


 そうしなければinfeのDF側は、AT側に作戦を使われ放題だからな。


 だからこそ、A側の情報を取りに来るやつを殺すか、もしくはBをフェイクしてAを攻める。


「わかった?」


 ”……相変わらず寒気がしますね、aquaさんの読みというか、戦術の組み立て方は”


 おれからすると普通のことやってるだけなんだけどな。

 まあ、おれのは師匠の受け売りというか、あの人がベースだから褒めるならあの人にしてやってほしいね。


 ”他の三人は?”


「zipp0の話はまだあってさ。強みは圧倒的な判断速度。これに関しては人間のスペックというか、息をするかのように敵の位置を予測してんだろうな」


 あまりにも早すぎるから、味方が報告したはずの位置からすんげえ離れたところで出会う。


「例えば、dust2のAT側でzipp0が強いからって理由で別のところを攻めようと思うじゃん。それでBトンの味方が、Bサイトにzipp0がいたって報告するじゃん」


 それでチーム全体でA側に攻めようと思ったら、すでにzipp0はT字にいました。みたいな感じ。


 ”……報告が当てにならなくなるってこと”


「そういう意味じゃないな。相手の情報をゲットしてから、こっちが強い戦法を使おうとしたら、すでにzipp0がアンチ行動を取ってくるみたいな感じ」


 ”ヤバすぎる。aquaの言ってたスタンダードの概念が崩れるじゃん”


「イメージな、イメージ。あと、AIMが鬼のように強いところと、1on多数の状況が強い。要するにチームのエースプレイヤーかつ相手の行動の予測と対策もできる」


 ”言ってることがさっきから脅かしにしかなってないよ……”


 cloverは落ち込んでいるようだ。

 プレイヤーの紹介だけで言えばそういう次元の人だから仕様がない。


「あと三人は正直そんなに特徴がない。けど、どうしても挙げるなら三人ともAIMが強い。ravoはAIMがとくに強い、chiffonやzipp0並にね。zenmaiはL96がうまくて、stromはバランス型のクラッチがうまいやつ」


 長々と語ると、琴音が呆れた口調で言い返してくる。


 ”対策講座じゃねえの? お前さっきから強いってことしか言ってないぞ”


「だって強いんだから仕様がねえじゃん。次の大会とかこいつらが圧倒的すぎて、おれらがなんとかしないならSpeedStarが絶対に優勝するから」


 cloverは訝しげにおれへ質問する。


 ”よくそんな情報しってるね。高校生大会に出ながら、野良チームで彼らと対戦したのかい?”


「そんなところだ」


 ごまかすのって難しくない?


「そんで対策だけど、おれの話をしてたことに共通点があった。なにか分かりますかfloraちゃん」


 ”……個人個人のAIMが強いとは言っていたけれど、チームとして強いとは言ってない”


 はい正解。


「そのとおり。ぶっちゃけ他のチームに比べたらうまいんだけど、それでも結局日本レベルだ。おれがチームの戦い方について教えるから、それをうまく活かしきれればチーム力でちょっと劣るぐらいには持っていける。ここがまず一つ目」


 高校生大会のときに比べたら、その持っていくすらとんでもない難易度になってるんだけどな。


「加えて、向こうは指揮の能力が正直大したことない。まだ指揮によって勝つという概念を知らないんだよ。SpeedStarは強いプレイヤーをかき集めて作って、そこからさらに練習して練り上げたタイプ。集めた人たちは撃ち合いの技術が高い人たちばかりで、チームの連携力はたしかに日本レベルだとダントツで高いけど、試合に勝つための指揮と、チームの連携ってのはまた違う話だ」


 端的に言えば、チームとしての完成度が高い脳筋プレイヤーたち。とも言える。

 だが、そんなSpeedStarに日本はずっと勝てなかった。


 その理由はなにか。


「それだけ、FPSにおいて撃ち合いってのは絶対的なんだ。おれがどれだけ優れた指揮能力を持ってても、撃ち合いで勝てなきゃ意味がない」


 ”aquaさん、全然勝てそうな雰囲気じゃないんですけど”


「対策なんて高尚なもんじゃねえが、手は三つある」


 だって穴がいねえんだもん。全員強い。

 だから、今回の対策ってのは、対策にならない。


「それがチームプレイの完成度をひたすら練り上げることと、おれの指揮についての理解、そして――」


 爆破ルール型FPSの真髄を、これから伝える。

 これは対策なんかじゃない。

 FPSってのはどうやって勝つのかを教えるだけだ。


 教科書通りの、基礎を伝えるだけ。

 あと、どこまで成長するのかは彼ら次第だ。

 彼らの才能にかける。


「爆破ルールの必勝法を教える」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ