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32.新人戦 弐

「一条、次の相手は?」

「千里ヶ浜ってところ。去年は全国七位」


 開清高校のコンピュータ室にて、彼らは部活動をおこなっている。

 新人戦に参加している多くのチームは、過去の大会からチームの傾向を洗い出すことがおおく、一樹もまたその一人だった。

 参加するチームのメンバーは大会ごとに変われど、学校ごとに特色がやはりある。そして、一樹はそれを参加者の誰よりも分析していた。


「……なんか二回戦も一回戦も聞いてて思うけど、なんで知ってんの?」

「だから二年分、全部の高校見たんだって」


 琴音は拒否感をしめすようにげっそりした顔をする。


「なんだよその顔」

「真面目というか、やっぱなんかの分野で頂点を取れるやつって変人なんだなって」

「お前も頂点を取れるやつだと思うけど」

「それは私が変人って意味か?」


 一樹はパソコンをいじってテキストエディタを開き、そこへ千里ヶ浜のチームメンバーの名前を書くと、みんなを呼ぶ。


「まずこいつ、チームのスナイパー」


 tedという名前をさす一樹。


「こいつは反応速度が相当早い。といっても、美咲よか遅えけど。だからL96対策の動きをこれから二日間ぶっ通しで教える」

「他の練習は?」


 今田の不安気のない声色は、一樹への信頼をあらわしている。


「いらない。tedってやつ頼みで作戦とか動いてるから、こいつがラウンドの最初に死んだり、こいつの調子が悪いと一気に弱くなる。そこつけば勝てる」

「へえ、じゃあtedに殺されさえしなければ勝てるってこと?」


 隣の席でbot撃ちをしながら、琴音はたずねる。


「正解。L96対策はいろいろあるけど、まず操作技術から教える。その次に、L96からの守り方、攻め方。明日は専用の作戦も伝えるから」

「毎度のことながら、すっげえ練り込んでんな」


 *


 東京の会場は、とあるネットカフェを借りて改造したもので、他の参加者をそこへ集まっている。

 一樹はその雰囲気になつかしさを覚えていた。


 ”こんなこじんまりした感じから、ゲーム大会ってのがはじまってたんだよな”


「一条、早くしろよ!」


 大部屋の入り口で設備を見ていた一樹は、琴音に呼ばれて実況席にまで行く。


「ということで、マップはinfernoになりました。コイントス、表か裏をお選びください」


 一樹は表と、海野は裏と決める。

 結果は裏となり、海野がAT側――つまり攻め側から選択した。


「あー……dust2がよかったのに」


 一樹が実況席が離れてメンバーのもとへ行く途中で、琴音がぼやく。


「そうでもねえ。相手チームのinfernoの攻めは弱いからな」

「そういえば、攻め側が不利なんだっけ、infernoって」


 彼はうなずき、改めてメンバーへ作戦の確認と、指揮のやり方について確認を取る。



「海野、予定通りの攻め方で、いいな?」

「うん。真正面から戦ったら、あのaquaに勝てるわけない。できる限り設置を中心に狙っていって、河口にL96をもたせる。いつもより消極的だけど、いいね?」


 千里ヶ浜のメンバーは一様に真剣な眼差しで海野を見ると、全員がそっと腕を伸ばす。

 円陣を組み、互いを鼓舞する。


「海パワー、見せるぞ!」

「おう!」


 高らかな声は、相手チームの開清にまで届く。



「一条、私らもやるか?」


 琴音はちらりと千里ヶ浜側を見ると、そう投げかける。橙色の髪に染めているのは、集団のなかでたった一人で、すこし目立っている。


「円陣か。いや、どうでもいいだろ。やりたいならやろうか?」

「冷めてるな、お前」

「気合や思いで、勝敗なんて変わらないよ」


 一樹は誰よりも早く席につくと、目を閉じて、精神統一をする。


 ”勝つ。勝つ。勝つ。勝利以外に価値はない、負けは許されない、勝たなきゃいけない”


 暗示にも似た、一般人の思想からかけ離れた執念にも近い思いが、彼の没頭具合をあげていく。


 彼は、一時的な百パーセントに近い集中状態を、超集中状態と呼んでいる。

 日本大会ではじめて優勝したときから、彼はその暗示によって、超集中状態に入ることができるようになっていた。

 スイッチの切り替えは1on多数の状況、もしくは、使わなければ負けに大きくつながると思ったときに入る。


 彼が、忌み嫌っている感情や思い、それらで結果が変わらないということは、彼自身が否定していたのだった。


「負ける気がしねえ」


 小声が届いたのは開清側だけで、それらを聞いた美咲以外のメンバーは、ただの人間に対して寒気を覚えていた。

 そして、同時に圧迫感を美咲と琴音、そして河口だけが感じる。

 圧倒的な強者による支配の感覚が、その会場における才能ある人間を飲み込む。


「行くぞ、集中しろ」


 返事はない。言われなくともわかっているという意味ではなく、恐怖政治にも近い感情だ。

 この場に、一樹の理解者はいない。


 それぞれがパソコンの電源を入れたあとゲームを起動し、個人の設定を導入する。そして、運営側が用意したサーバーへとつなげる。


 試合がはじまるまで、あと十秒。

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