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13.嵐

 おれと美咲はいっしょにパソコン室まできた。

 パソコン室が部室らしいが、使っている機材は学校のパソコンだけじゃない。最奥の列の窓際側に配置されているモニターはどうみても学校の備品には見えなかった。おそらく、大会出場メンバーだけが使える高級品ってやつだろう。


 感想としては想像以上に環境が整っている。おれの知っている世界のパソコン室とは違って、学校の設備ですらゲームができるぐらいの性能はしているようだ。


「えーっと、一条だっけ? NAをやってるって鳴宮から聞いてるけど、どんぐらいやってんの?」


 部長だか、副部長だか知らないが、三年生らしきやつがそう言った。


「まあまあやってますね。この部のなかで一番にうまいぐらいには」

「へ、へえ……」


 なんかキモい。

 いや、まあ当たり前っちゃ当たり前なんだけど……。この部活にいるやつらが、すっげえオタク感ある。

 普通はちょっと怒って挑発を仕返してくるか、笑いながら”言うねー”とでも返してくるだろ。なんか、いや……やめよう。


「じゃ、じゃあBOT撃ち分かる? うちは三十分やって、そのあとに部活内のサーバーでデスマッチ三十分、とりあえずそこまでやってもらうんだけど……」


 歯切れの悪いしゃべり方で、先輩は伝えてくれる。


「サーバーのIPはホワイトボードに書いてあるやつですよね」

「そうそう。なんだ、マジで結構やってるんだ」


 その三年生は他の部員たち、といっても上級生に限定してるが、おれに貸すデバイスについて話をしている。


「まだデバイスって余ってる?」

「あー、あるけど動作不良調べてない」

「とりあえずそれつか……」


 おれは口をはさむ。


「持ってきてるんで、大丈夫っすよ」

「あ、ほんと? じゃ、じゃあ、余ってる席に勝手に座っといて。あ、こっち側ね、廊下側。窓側は三年だから」


 どうやらパソコン室は、廊下側と窓側、そして中央で学年わけをしているようだ。総勢で部員数は八十人とちょっといるらしいが、パソコンを使わないゲームの人たちと、使う人たちで教室をわけているらしい。


 おれは紙袋のなかからPS/2接続のREALFORCEと、IMOを取り出す。それぞれキーボードと、マウスだ。マウスパッドは海外から輸入したQcKと呼ばれている製品。どれも高校一年生の子供が持つには過ぎたものだが、勝つためには必要な投資になる。


 未来のおれが使っていたデバイスはこの時代にはまだ販売されていない。だから妥協として、昔の時代に使っていたものや、使っていたものの過去型を使うことにしたんだ。買いそろえたのはここ最近、転生したばかりのころ、自室にあったデバイスはマウスの他にはすべて使いものにならないと感じた。


 それらをすべてパソコンへつなげ、準備は整う。隣の席には美咲がいた。


「てきぱきと準備できてる」

「慣れてるからね」


 USBメモリを接続し、学校のパソコンへ自分の設定を移行する。これはいつの時代も変わらない。

 自分のパソコンから設定をUSBメモリへデータ保存、そしてそれを別のパソコンにさしてデータを移すのだ。


「デスマッチまで終わったら、たぶん紅白すると思う」

「おけ」


 美咲はおれに教えると、すぐ自分の練習に戻った。どうやら校内サーバーで一人対一人の模擬戦をやっているようだ。


 bot撃ちとは、要するにコンピュータと対戦をすることだ。一人対五人で、狭い部屋と多くの障害物のなかで、それを今回は三十分間の撃ち合いをつづける。まあ、単純なマウスさばきの調整だ。


 おれが中級者だった頃は、一日に二時間のbot撃ちを自分に義務付けていたな。中学生から、高校一年生ぐらいまで。

 コンピュータ相手に何時間もただおなじ作業をやりつづける。よくよく考えてみれば、かなりイカれた集中力と根気だったなあ。

 もちろんそれが楽しいと思える日はあるけど、それと同等に楽しくないと思う日もあった。それでも、強くなるには単純で、地道な練習が必要なんだ。

 それが苦しくて、前の世界ではやめたわけだが。


 マウスを操作し、画面を動かす。モニター中央に描かれている照準を、相手の頭にあわせて、クリックする。一部の武器をのぞいて、敵の頭へ向けて銃を撃つと、ヘッドショットといって一発でたおせる。身体へ撃てば、四発は必要になる。


 その弾数の差は、時間的な意味で大きい。だからこそ、撃ち合いの技術は常日ごろから向上、もしくは維持をするようにつとめなければならない。


「上手ね。本当に部員のなかで一番にうまい」


 美咲は自分の練習を終えて、おれの画面をのぞきこんでいた。


「そうか? ただのbot撃ちだぞ」

「これでは実力なんてわからないって、よく言うけれど、一樹のは見てわかるわ」


 うーん、bot撃ちなんて、敵を倒す技術しかわからないと思うんだが……。

 いや、違うな。敵を倒す技術しか見るものがあまりないと考えているということか? いやいや、いくらなんでも美咲がそこまでアホなわけがない。


「なんでわかるんだ」

「ストッピングの早さと、AIMを合わせるのときの動かし方。水平な動かし方もそうだけど、置いている位置がていねいだと思う」


 ガチ解説きたな。


 Not AloneことNAは、ほかのゲームにはない大きな特徴がある。それが、ストッピングだ。


 このゲームは止まっているときにしか弾が真っすぐ飛ばないという仕様がある。走りながらだと当たらないというわけだ。つまり、このゲームは撃つ瞬間に止まらなければならないから、例えば――右に動いているなら左に一瞬だけ動いて、移動速度をゼロにしなければならない。


 そして、初心者と上級者では、このストッピングの速度とやり方にとんでもないぐらいの差があるわけで、AIMの技術、例えばヘッドショットを狙うマウスさばきは変わらずとも、ストッピングの速度の差によって撃ち合いの強さに大きな差が出たりするわけだ。


「ふうん。美咲はこの部じゃどのぐらいの強さなんだ」


 美咲は小首をかしげながら、悩んでいる。


「そうね、たぶん……AIMだけなら一番かしら。総合的に見たら五番目ぐらい」


 まあ、昔から美咲は敵に狙いをつける能力だけはダントツだったからなあ。総合的に見てもまだ五番目もあるのか、もっと低いかと思っていた。

 本当にこの時代の美咲は、報告の能力が足りていない。見つけた敵の位置を報告するぐらいしかできないからな。


「へえ。あとで1on1(ワンオンワン)やってみる?」

「うん。時間があまってたら、やりたい」


 やがて、おれはbot撃ちを終えると、校内サーバーに接続して、デスマッチをやることになった。

 デスマッチこと通称DMは、味方なしで自分ひとり対全員という形式になっている。撃ち合いの技術をみがくにはもってこいのルールだ。

 これを、どうやら十六人ほどいるサーバーで、大きなマップで遊ぶようだ。



 いっちょう、元世界八位の腕を見せてやりますか。



「つっよ!」


 二年生側の席から、その言葉は飛んできた。おれが瞬殺したタイミングで聞こえてきたことから、そういうことだろう。

 調子は上々、普通よりちょっといいぐらい。これならフラグ一位は余裕だな。


 おれがサーバーに入ったタイミングで、美咲も合わせて入ってきている。


「美咲、どっちがキル数で勝つか競争しよう」

「うん」


 だれかが百キルを取るか、三十分立てば戦績が一度リセットされるようだ。残りの時間は二十二分ということから、おれたちはリセットされてから八分後に入ってきたということになる。


「いや、つっよ! だれこれ!?」


 今度は三年生側からそれが聞こえてくる。”aqua”という見慣れない名前がサーバーにいるから、誰かわからないんだろう。

 そりゃそうだ、新部員だからな。


「早い、もう真ん中ぐらいまで行ってる」

「わりとこのゲームうまいからね、おれ」


 わりとじゃねーけどな。


 美咲も本当に、この部だと強いみたいだな。キルを取る速度から見て、おれがいなければこの二十二分でフラグ一位突破できるんじゃないか。


「デスマッチ、自信あったのに」

「次1on1やるから、そこでがんばれ」


 三年生側でひそひそと話し声が聞こえる。


「部長、このaquaって子だれ? 一年だよね」

「……たぶん、時間的にさっきの子だと思うけど」

「新しくきたやつ? こいつ馬鹿強いよ?」


 ちょっとおもしろくなってきた。

 顔がにやけそう。


「一樹。ほめられてる」

「そうだね」


 おれはあっという間に百キルをたたき出し、そのサーバーの戦績をリセットさせた。

 まあ、出だしは好調だ。


「じゃあ、美咲。1on1やろう」

「うん。一樹は、本当に上手なのね。もっと早くからやればよかったのに、そしたら新人戦も出られたわ」

「冬の大会、あるんでしょ? それに出るよ。きっとね」


 六月下旬の夏の大会、そして十二月下旬に冬の大会があるらしい。時期的に、もうおれは新人戦に出ることはかなわないが、次はおそらく出られるだろう。

 おれはゲーム内でUSBメモリから持ってきた1on1専用の部屋設定を読み込むと、その部屋へ美咲を招待する。


「1on1の設定、持ってるのね」

「まあな。美咲はやり方知らないん」

「部活でみんなに渡される設定があるから。自分で持ってる人見たのはじめて」


 おれと美咲が1on1をやろうとしたところで、さっきまでおれに部のことを案内してくれた三年生がやってきた。


「一条、これからあと五分ぐらいで紅白やるんだが、みんなの画面をプロジェクターで映しながらやるんだ。今日、お前の画面を中心に写すかもしれないんだが、いいか?」


 わざわざ許可取る辺り、律義だな。


「いいっすよ」

「わかった。お前、NA歴は?」


 十三年って言ったらたまげるんだろうなあ……。


「四年ですね」


 中学一年生からはじめたから、実質ウソにはならない、と思う。ウソをつくのが苦手すぎて、美咲に感づかれてそうだ……。

 おれはちらりと美咲のことを見ると特に反応はしていないようだったが、それがいつもの表情だからかなんとも言えない。


「そうか。うちの部でもかなりトップクラスだな、一番長いやつで四年だから」

「へえ」


 おれは会釈をして、美咲との1on1に戻る。


 まあ、当然結果はおれのボロ勝ちだ。いくら美咲が日本1on1最強とはいえ、それはこの時代の話ではない。


「つよい」

「そうだろう」


 なんか美咲に1on1で勝てるのが嬉しいな。前の世界だといつも泣かされてきたから。

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