リスさんのうそ
コマドリさんの歌声が羨ましくて、嘘をついてしまったリスさん。リスさんはその嘘が自分を苦しめるとは思いもしませんでした。
木漏れ日の中、リスさんは美しい歌声を聴きました。森に響くその歌声はたくさんの動物さんたちに安らぎを与えました。歌声を子守歌にして、すやすや気持ち良さそうに眠る動物さんたち。しかし、リスさんだけは違いました。
(なんて、耳障りな歌声だ。こんなにうるさいのでは眠れない。そうだ。いいことを思いついたぞ)
ふふっと口に手を当てて笑うリスさん。楽しそうに美しい歌を歌うコマドリさん。リスさんは木の枝にとまるコマドリさんに近づきこう言いました。
「やあ、コマドリさん。とてもきれいな歌声だね」
その言葉にコマドリさんはとても喜びました。
「ありがとうリスさん。わたし歌うことがとても好きなの」
上機嫌なコマドリさんにリスさんは困ったような顔をしました。それを見たコマドリさんは不思議そうに首を傾げます。
「リスさんどうしたの?」
リスさんはコマドリさんの耳に手を当ててヒソヒソと話しました。
「食いしん坊のヘビさんがお腹を空かせているんだ。君は僕と同じ大きさだろう?だから、歌声を聴きつけて君のことを食べてしまうかもしれない。悪いことは言わないから歌うのはやめた方がいいよ」
それを聞いて目を丸くするコマドリさん。リスさんの言うことを信じて頷きました。
「ヘビさんがそんな動物さんだとは知らなかったわ。リスさん教えてくれてありがとう。とても悲しいけれど、歌わないことにするね」
「僕も悲しいけれど、仕方がないね。君の役に立てたなら僕は嬉しいよ」
悲しそうなコマドリさんにリスさんは満足そうに頷きました。
(本当は嘘だよ。ヘビさんは僕達なんて食べやしないさ)
リスさんはコマドリさんに嘘をついたのでした。
歌うことができないコマドリさんは落ち込んでいました。そんなコマドリさんにアライグマさんが木を登って近づいてきました。アライグマさんは何やら怒っている様子でした。
「せっかくコマドリさんの歌声で気持ち良く寝てたのに、どうして歌わないのコマドリさん?」
それにしくしくとコマドリさんは答えました。
「ヘビさんに食べられてしまうから歌えないの。アライグマさんごめんなさい」
この言葉にアライグマさんはここにいないヘビさんに怒りました。
「そうだったのか。ヘビさんにおいらから話してみるよ」
ぷんすかとアライグマさんはヘビさんを捜しに行きました。
真っ赤なりんごがなる木の下で、ヘビさんはりんごをおいしそうにむしゃむしゃと食べていました。するとアライグマさんがぷんすかとヘビさんのところに来ました。アライグマさんの様子にヘビさんは首を傾げました。
「どうしたんだいアライグマさん?お腹が空いているのかい?」
アライグマさんはぷんすか怒りながら首を振ります。
「それは、ヘビさんだろう。ヘビさんはコマドリさんを食べるつもりだろう?ひどいじゃないか。おかげでおいらのお昼寝が台無しだ」
この言葉にヘビさんは目を丸くして驚きました。
「俺はそんなことはしないさ。俺はりんごが大好きなんだ。こんなにいっぱいのりんごがあるのに、コマドリさんを食べやしないさ」
真上にあるたくさんのりんごを見て、今度はアライグマさんが首を傾げます。
「おかしいな。それだとコマドリさんは嘘をついてることになる。どっちが正しいのかわからない」
考えこんで目をぐるぐる回すアライグマさん。ヘビさんも考えて閃きました。
「それならコマドリさんの話をもう一度聞きに行こう」
「なるほど、それがいいね」
アライグマさんは手をぽんと叩いた。
コマドリさんは枝の上でしくしくと泣いてました。するとアライグマさんとヘビさんが木を登ってコマドリさんに近づいて来ました。それを見たコマドリさんはますます泣いてしまいました。そんなコマドリさんを見て、ヘビさんはあわてて後ろに下がりました。アライグマさんが二匹の間に立ちました。
「コマドリさん聞いてくれ。ヘビさんは君のことを食べないと言っている。コマドリさんはどうしてヘビさんが君を食べると思ったんだい?」
コマドリさんは泣きながら、リスさんの話をしました。
「リスさんがヘビさんがお腹を空かせているからリスさんと同じ大きさのわたしは食べられてしまうと言いました。それで歌うのはやめといた方がいいと言われました」
ヘビさんは全く身に覚えがないので驚きました。
「コマドリさん俺は君を食べたりはしないさ。俺はりんごが大好きなんだ。リスさんも食べたりはしないさ」
今度はコマドリさんが驚きました。リスさんの言っている事と違ったのです。
「リスさんが嘘をついたのでしょうか?」
アライグマさんはまた考えこんで目をぐるぐる回しました。ヘビさんがいいことを思いつきました。
「それなら、リスさんを連れて根っこ広場に行こう。そこなら誰が嘘つきかわかるさ」
根っこ広場で嘘をついたら根っこにつかまる。アライグマさんもリスさんもヘビさんの言うことに賛成しました。
どんぐりを頬袋につめていたリスさん。コマドリさん達を見て驚きます。コマドリさんとヘビさんが一緒にいるのはリスさんにとってまずい事でした。
(どうしよう。コマドリさんに嘘をついた事がばれるぞ。困ったぞ)
焦るリスさんは頰にぱんぱんに入れたどんぐりを全部吐き出します。それを見たコマドリさん達は首を傾げます。先に口を開いたのはヘビさんでした。
「リスさんが俺がコマドリさんやリスさんを食べてしまうって言ったのは本当かい?」
リスさんは首を振ります。目が泳いでます。
「ち、違うよ。そんな事は言ってないよ。コマドリさんが嘘ついたんだよ」
コマドリさんは怒りました。
「何を言ってるのですか。リスさんが言ったのですよ」
アライグマさんはまたまた考えこんでぐるぐる目を回しました。
「だ、誰が嘘ついてるんだ?」
「やはりここは根っこ広場にみんなで行こう」
ヘビさんの言葉にリスさんはあわてます。
(まずいぞ。根っこ広場に行ったら僕が根っこにつかまるじゃないか)
「ぼ、僕は悪いけどこれから大切な用事があるんだ。だから、一緒に行けないよ」
コマドリさんはリスさんに目を釣り上げます。
「大切な用事とは何ですか?」
リスさんは頭をガシガシかいて考えます。
(まずいぞ。用事なんてないよ。どうしよう。あっそうだ。怖がりのクマさんならちょっとおどせば協力してくれるに違いない)
リスさんは口に手を当ててふふっと笑いました。
「これからクマさんと遊ぶんだ。クマさんを待たせる訳にはいかない。じゃあねみんな」
手を振り走り去るリスさん。コマドリさんもアライグマさんもヘビさんも「待ってよ!」とリスさんを止めますがリスさんは気にせずに去って行きました。
クマさんはコマドリさんの子守歌で気持ちよく眠っていたのに、歌が止まって残念に思っていました。しぶしぶ自分のどうぐつの寝床でお昼寝するクマさん。そんなクマさんの寝床にリスさんはやって来ました。
「クマさん遊ぼー!」
クマさんはリスさんの声でぼんやり目が覚めました。まだ寝足りないクマさんはリスさんの申し出を断りました。
「まだ寝足りないから、遊ぶのはまた今度にしよう」
クマさんはスヤスヤ眠りました。リスさんはそんなクマさんの耳元でささやきました。
「今すぐ遊んでくれないと友達じゃないよ。良いのかなぁ?」
クマさんは目をぱっちり開けました。
「え?」
クマさんはリスさんを見つめます。リスさんは口に手を当ててふふっと笑いました。
「今すぐ遊ばないと友達やめちゃうよ?いいの?」
クマさんは困りました。怖がりなクマさんにはお友達がリスさんしかいません。お友達がいないと寂しくなってしまいます。そう思うとクマさんはあわてました。
「わかった。遊ぶよ」
リスさんは自分の思い通りになり喜びました。
リスさんとクマさんはオンボロ橋に来ました。そこは森を半分にわける大きな川にかかった吊橋です。今にも落ちそうなくらいボロボロになっています。オンボロ橋の綱の部分を渡るリスさん。怖がりのクマさんは橋の手前で立ち止まっていました。リスさんはそんなクマさんをくすくす笑います。
(大きい身体なのに怖がりだなんて可笑しいの。僕はこんな橋へっちゃらさ)
困ったクマさんはリスさんに言います。
「僕には無理だよ。渡れないよ。この橋の先じゃなくても遊べるよ」
そんなクマさんにリスさんは首を振ります。
「だめ。この先じゃないと遊ばない」
(本当はクマさんの反応が面白いから、からかってるだけだけどね)
リスさんは口に手を当ててふふっと笑いました。クマさんは恐る恐る橋を渡ります。半分ほど渡れたときでした。強い風が吹いたのです。リスさんは綱にしがみつきます。クマさんも橋の板にしがみつきますが、足を滑らせてしまいます。バランスを崩してしまったクマさん。そのままオンボロ橋の下に流れる川に落っこちてしまいました。クマさんが川に落っこちてしまいリスさんはあわててクマさんが落ちた川に自分も飛び込みました。クマさんにしがみつきリスさんはクマさんと一緒に川に流されました。意識を失った二匹。リスさんが気がつくと岸にクマさんと一緒にたどり着いてました。リスさんは岸に上がって、気を失ったままのクマさんを引っ張りましたが、小さな身体のリスさんには大きな身体のクマさんを引き上げるのは無理でした。クマさんの下半身は川の水に浸かったままです。このままでは風邪をひいてしまいます。クマさんに呼びかけるものの、反応が返って来ませんでした。
(まずいぞ!クマさんが病気になってしまう!誰か呼んで助けてもらおう!)
リスさんは助けを求めて走り出しました。
しばらく森を走るとコマドリさんが木の枝に止まっていました。リスさんは地面からコマドリさんに助けを求めました。
「コマドリさん大変だ!クマさんが川に落ちてしまったんだ!引き上げるのを手伝ってくれ!」
必死なリスさんにコマドリさんツンとした態度で言いました。
「リスさんはわたしに嘘をつきました。わたしはもうリスさんを信じません」
リスさんはあわてて謝りました。
「あのときは悪かったよ!僕が悪かった謝るよ!」
リスさんが謝ってもコマドリさんは許しませんでした。もっと早く嘘を認めていたら、許してくれたかもしれません。コマドリさんはリスさんを知らんぷりして飛んで行きました。
次にアライグマさんに会いました。アライグマさんはリスさんを見ると砂をかけてきました。リスさんは目に砂が入ってあわてて顔を手で拭きました。
「何をするだいアライグマさん」
アライグマさんはぷんすか怒ってました。
「どこに行ってたんだリスさん!どうせクマさんと遊ぶだなんて嘘だろう」
リスさんは必死に説得します。
「本当だよ!そんな事よりもクマさんが大変なんだ!」
アライグマさんはぷいっと顔をそらします。
「もう騙されないよ。リスさんは嘘つきだ」
アライグマさんはどこかに走り去って行きました。アライグマさんは嘘つきが嫌いでした。
今度はヘビさんに会いました。ヘビさんはりんごの木の下でりんごを食べてました。しかし、リスさんに気づくと食べるのをやめてどこかへ行ってしまいます。
「ヘビさん待ってよ!大変なんだ!」
ヘビさんはちらりと後ろにいるリスさんを見てこう言いました。
「俺は君に何かひどい事をしたかい?なのにあんな嘘をつくだなんてひどいじゃないか。俺はしばらく君に会いたくない」
ヘビさんの姿はとうとう見えなくなってしまいました。リスさんはヘビさんの心を傷つけた様です。
(みんな僕のせいだ!僕が意地悪な嘘をついたからいけないんだ!でもクマさんは関係ない。僕の大事な仲間なんだ!)
リスさんは誰かいないか必死になって探しました。
最後にお人好しのキツネを見つけました。リスさんは一生懸命キツネさんにお願いします。
「クマさんが川に落ちてしまったんだ!お願い助けて!」
「それは大変だ!すぐに行こう!」
キツネさんはリスさんの言う事を信じました。
川の岸に着いたリスさんとキツネさん。クマさんを引っ張りますが、2人では引っ張っても動きませんでした。
「もっと動物を呼ばないと!」
キツネさんの言うことにリスさんは自分が嘘をついた所為でみんなに信用されてないと打ち明けました。キツネさんはなるほどと考えてリスさんに言いました。
「君はもう反省してる。ならもう大丈夫。クマさんを助けたいって君の気持ちを僕がかわりに伝えてあげる」
キツネさんはそう言うと森の中に消えました。
しばらくすると、キツネさんがコマドリさんアライグマさんヘビさんを連れて戻って来ました。戸惑うコマドリさんアライグマさんヘビさんはクマさんが川に浸かっているのを見てあわててクマさんを引っ張りました。キツネさんもリスさんもそれに続きます。
「「わっしょい!わっしょい!」」
何とかクマさんを岸にあげることが出来ました。クマさんは気がついてくしゃみをしました。
「へっくしょんっ!」
クマさんは鼻水を垂らしました。みんなは大変だ!と木の葉を集めてクマさんにかけたり、落ちた枝を集めて焚き火をつけました。暖かくなったクマさん。
「みんなありがとう。おかげで助かったよ」
みんなに感謝するクマさん。リスさんはもうし訳ない気持ちでいっぱいでした。
「ごめんねクマさん。僕が意地悪したんだごめんね。ごめんねみんな僕が嘘ついたからこんなことになったんだごめんね」
リスさんは泣きながら、みんなに謝りました。それを見てクマさんはいいよと許しました。
「リスさんは必死に僕を助けてくれた。それに僕の大事な友達だから、許してあげる」
にこっと笑うクマさん。リスさんはクマさんの優しさに嬉しくなりました。
「ありがとうクマさん。もう意地悪しないよ。僕達はずっと大事な友達だよ」
そんな様子を見たアライグマさんヘビさんもリスさんを許しました。
「もう嘘つかないなら、許してあげる。今度嘘ついたら許さないからね」
「優しいクマさんで良かったね。俺もリスさんを許してあげる」
「ありがとう!アライグマさんヘビさん!もう嘘をつかないよ!」
コマドリさんはリスさんに聞きました。
「どうしてわたしにあんな嘘をついたのですか?」
リスさんは素直に自分の気持ちを話しました。
「僕は君の美しい歌声がうらやましかったんだ。僕には君のように美しく歌えない。だから、つい意地悪な嘘をついてしまったんだ。ごめんなさい」
頭を下げるリスさんにコマドリさんは不思議そうにしました。
「何を言ってるんですか。わたしもリスさんもみんな違うんです。それぞれ、良いところもあるし悪いところもあります。わたしはリスさんのように食べ物を一度にたくさんほっぺたに入れて運べません。わたしはそんなリスさんが羨ましいです」
リスさんは驚きました。
(コマドリさんが僕を羨ましいだって!?そんなふうに思ってたんだ!)
リスさんは照れました。コマドリさんは呆れました。
「仕方がないですね。てっきりわたしはリスさんに嫌われたと思ってました。悲しかったです。だから、もう嘘をつかないで下さい」
リスさんは頷きました。
「しないよ!もう嘘をつかないよ!悲しませてごめんね!」
コマドリさんはいいですよと美しい歌を歌いました。みんなその歌に耳をすましました。キツネさんがおや?と空を指さします。そこには立派な逆さまの虹がかかってましたとさ。
おしまい。