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軌跡はきっと繋がる  作者: 烏賊の竜田揚げ
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第八話 都市ナレージャ

本日は、第七話と第八話の二話投稿です。

「まいどありー」


 昨日の夜、適当に入った宿屋からチェックアウトする。


 これからナナシとカイトは冒険者ギルドに向かうつもりだ。

 そこで作れるギルドカードが身分を証明するものだということなので、昨日の夕暮れ、門番の男に言われたことを実行するようだ。


「とはいえ、もうちょっといい宿に泊まればよかったね」


「何言ってんだ?ベッドなんて贅沢できたんだぞ。

 かなりいい宿だったじゃないか」


 カイトとナナシの会話が衝突する。


「ナナシは何も分かっちゃいない!

 確かに、あの場所の寝床よりは随分とましだったよ。

でもあんな硬いベッドじゃ、気持ちよく寝られるものも寝られない!」


「ど、どうしたんだ?ちょっと落ち着けよ」


「一度ナナシもふかふかのベッドで寝てみるべきだ。

 こんな硬いベッドじゃ――」


「ん"っん"-、そんなにうちのベッドはご不満でしたか?」


 振り返ると青筋を浮かべたご婦人が仁王立ちしている。

 女だというのに腕には筋肉がしっかりついていて、まるで格闘家のような硬さであろう。

 この方の夫はさぞ、普段から尻に敷かれているのだろうと推測できる。


「い、いや、そんなわけじゃ……」


 カイトがどもりながら遠ざかっていく。


「すまなかった。ほらカイト、行くぞ」


 とりあえずここは俺が謝っておく。普段のカイトからこういう時のとるべき姿は少し学んだ。


 そしてこの場から早く去るために足取りを早める。


 しばらく早歩きをして


「さっきはごめん」


「いいや、気にするな。これから冒険者ギルドだろ。それまでに他の宿も見てみたらどうだ?ふかふかのベッドというのも気になる」


「ありがとう。じゃあ探してみるよ」


 そういって吟味するようにゆっくりと歩く。

 大通りを歩くとそこには多くの人がいた。あの町チューリッジでは見かけなかったほどの人の数。都市という名に恥じない昼間から賑わってる活気は、この都市周辺にある町の人々を魅了する。


 串焼き屋、アクセサリー店、武器屋などの屋台や店も多くあり、目が回りそうなほどだった。あの町チューリッジでは辺りは耕かされていて農村だったが、ここでは機械工学などの近未来的な物がある。暗い室内では、蝋燭ではなく電球、カチカチと時間を刻む時計、魔力を込めると温度を一定に保つことの出来る箱なんて物まである。


『最近、ここの近辺でゴブリンを見かけたんだ』

『へぇ、そりゃ珍しい。アイツら滅多にここじゃ姿を現さなかっただろ?』


『ここが言っていたチーズケーキが美味しいお店ですの?』

『一応宿屋のようです。食堂は一般開放されているようですよ、お嬢様』


『飲んでよし、かけて良しの回復薬、いかがですかー?』

『今日のはどれぐらい良いのが入ってるんだい?』

『そうですね、梅ぐらいです!』

『へぇ、そりゃあ良い、買った!』


『そこのお姉さん、これから俺らと一緒にちと来てくれや』

『嫌よ、放して!』

『ぐへへ、そういうなよ。こんなべっぴんさん放っておけねぇって』

『あら、べっぴんさんだなんて……いくぅ』


 様々な会話が聞こえる。その中でも少し興味深い内容があった。


『おい爺さん、頼むよ、直してくれよ~!!』

『フンッ、爺って歳でもないわッ!!まだ96だ!』

『もう爺さんじゃないかよ~、そんなことよりこの剣みてくれよぉ~、もうボロボロなんだ、研ぎなおしてくれって頼むからよぉ~!』

『そんなこととはなんだ、そんなこととは!!

 ……って何だこの剣は?もう買い変えるしかないぞ』

『そんな金ないんだって』

『じゃあよそへ行った、シッシッ』


(へぇ、武器屋か。覚えておこう)


「ねぇ、ナナシ。あれが冒険者ギルドじゃないかな?」


 そう声をかけられてその建物を見る。

 周りよりも一回りも、二回りも大きい建物で、出入りする人のほとんどが剣や弓、杖などの装備をしていて、いかにも冒険者やってます、という感じである。


「ここがそうだろうな」


 そう答えて冒険者ギルドに入る。




 冒険者……素材の採取、魔物の討伐はもちろん、街にあるちょっとした依頼や護衛、はたまた犯罪事件の調査など、いわゆる何でも屋のような職業。


 子供の頃なら誰しもは一度は耳にする『ドラゴンスレイヤー』や『魔王討伐』の話。


 前者は超一流の才能あふれた冒険者が、血反吐を吐いてそれでもたどり着けない頂。


 後者は勇者と呼ばれる世界に認められる守護者のみが成しえるとされる伝説のおとぎ話。


 誰しもが夢を見る、自分こそが特別な人間だと。武勇を轟かせ、全世界に認められる人間なんだと。


 誰しもが夢を見る、冒険者になって贅沢な暮らしをしたいと。


 しかしそんな人間のことごとくを、洗礼という形を持って、残酷にも砕かれる。


 それでも冒険者という言葉は、人々を魅了する。まるで呪いのように。


 ならず者から貴族に至るまで、その誰もが憧れを抱き、冒険者になることも少なくない。


 その仕事を派遣する一つの冒険者ギルドの扉を、二人の少年が、今、開く。


「な~んつって~」


 急に目の前に現れた口元に頭巾をマスクみたいに覆って、フードを被った高身長の男が語りだした。


(俺たちが入ってきた瞬間に、たらたら、と喋りだしたと思ったら、どうやら弄りたいだけだったみたいだな)


 ナナシとカイトは無言でカウンターまで向かおうとする。


「シカトすんなよぉ? 悲しいじゃねぇか」


 その口調と、マスクを通してくぐもった声だが誰かはわかる。


「はぁ。なんだよ、ヴェ――」


「おっと、ここででは『ゼロさん』って呼んでくれ」


 ナナシがヴェロインの名前を呼ぼうとするとそれをさえぎって二人に耳打ちをする。


(なん……ッだよ!今の、全く初動が見えなかったぞ……)


 そこにまた、ひょろりぬらりとした物腰の男が接近する。頭に特徴的な白の頭巾を被っていて、手に嵌めたグローブは、甲の部分が硬い材質でできたも物だ。


 類は友を呼ぶとは正しくこのことなんだろう、この二人の人物は少し似ている。


「ゼロさん、コイツらなんなんです?」


「おー、フル、良いところに来た。

 俺ちょっとまたしばらくここを留守にするからさぁ、コイツらのこと面倒でも見てやってくんねぇか?

コイツらにそんな価値ねぇんだったらほっぽっても構わねぇぜ?」


「ゼロさんが言うなら見てやっても良いですけど、このチビ達はそんなに優秀なんです?」


「いんや、ぜんっぜん。ただ期待はしてる」


「へぇ、そうですかい」


 吟味するようにこっちを見てくるフルという名の男。


「なぁ、ヴェ――」


「んー?ゼロさんに何の用かなぁ~?」


 ヴェロインと呼ぼうとした途端にすぐ、ナナシの口を塞ぐ。


(今の動きも全く見えないんだが……)


「フガフガフガガブッ」


「いたッ」


 ナナシに噛まれ手を放すヴェロイン。


「別に俺たちは冒険者になるつもりはないぞ」


「まぁ、ここに来たのも身分証のためだしね」


「そんなことか?

 お前らに渡した武器とか食料とか金とか、本来結構な金額するんだけどなぁ。

その金を払うためにも、冒険者になっておいて依頼ならなんやらで金を稼ぐってのも手だと思うぜ?

もし仮に、次会った時に払えなかったら、地の果てまで追っかけるからなぁ。

逃げられると思うなよ?」


(こ、コイツ……あれタダでくれたんじゃないのかよ、汚い)


 ナナシは今日、只より高い物はないと知った。


「はぁ、不本意ながらやるしかないか。カイトはどうする?」


「うん、このままだとお金も厳しいしね、僕もなるよ」


「お利口さんだ」


 ヴェロインはそう言ってポンポンと頭を叩く。

 イラついたので蹴りを放つが


「ハハハハハ、その程度じゃ俺に攻撃は当たんねぇよ。フル、後は頼んだぞ~」


 笑いながら去っていく。


「まぁ、お前らが冒険者になるのは自由だがよ。ゼロさんに言われてんだ、とりあえずお前らの実力を見せてみろ」


 フルがナナシとカイトに向かって言う。

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