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軌跡はきっと繋がる  作者: 烏賊の竜田揚げ
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第五話 脱出

「オイィィィイ!誰に向かってその汚ェ口開いてんだよォォ!!」


「ゥッ……目の前にいる子豚に向かっていっ――」


「ボケが!ぶっ殺すぞ!」


 わざわざ挑発するように言い放つカイト、馬鹿にされたことが何よりも堪えられないといった様子で何度も暴行を加える豚。

 カイトが気を引いている内にガリガリ、と作業を続ける。


「はぁ、はぁ、クソが……なんで俺がこんなことしなきゃならねェんだよォ。

 本当なら今頃王都に向かってるはずだったのによォ~」


「ケホッ、ケホッ、そんなんで……終わりなのか、貴族のボンボンも……大したことないなあ。

……いや、その体型だからもう、体力が切れたのか……?」


「うるせぇなア!オラ、オラ、オラ!!」


(耐えてくれよ……あと少しだから……ッ!)


 カイトにまたも挑発されて、追加とばかりに蹴る、殴るを繰り返す。

 そこでふと、豚の動きが止まった。


「ヒッ、ヒヒヒッ、そうだ……これはよォ~、そろそろ痛覚系統に耐性がついてきた頃だろうってことで新しく用意したモンなんだがよォ……。

 本来はそこの観察対象のために用意してたんだがよォ……ヒヒッ、お前が母上のコレクションだっていうからこんなんで手加減してやってたんだがなァ。

そういう態度とるんだったらもうヤッてもいいよなア!!!」


 興奮しながら取り出したのは、金属でできた輪であった。

 内側に針が無数に、乱雑に飛び出ており、刺さったら大怪我で済まない代物。


「これはよォ、一種の首輪みたいなもんでよォ、着けたらこれに認識されてる主人の命令を聞かねェとなァ!

 少しづ~つ締まっていってやがて首が針で串刺しになるようにできててな……しかも奥まで刺さっても喉を突き抜けないように出来てて、窒息死しねェようになってんだよォ!………そうだ、【動くな】」


「ぐっ、……ガァ………ッ!?」


 急にカイトの動きが止まる。まるで豚に命令されたことを守っているかのように。


「へへへッ、こりゃあ便利だなァ……お前が繋がれてるその鎖も、繋がれたヤツが主人の命令を聞かねェと、強制的に働かせる効果があんだよ。

 母上のコレクションだからなァ、逃げられたり、反抗されたりしたら、面倒だからそういう措置がされてんだよ。

観察対象は、壊れたおもちゃみてェに動かなかったから使ったのは今日が初めてなんだがよォ、便利なもんだロ?」


 もう話はおしまいだとばかりに豚は手に持った凶器をカイトに装着させようとしたその時――


「【書き換え(リライト)】!!!!」


 ガチャリ


 対象とした二つの者と者の位置が入れ替わる。


「ハハハッ!これは……最期に笑わせてくれるなんて思わなかった」


「………ッ!オ、オイ!外せよ!クソが!!」


 豚はまるで本当に家畜になったように()()の首輪をはめた姿で喚き散らす。


 ナナシはそんな哀れな家畜を見て、嗤っていた。


「まあお前はそこでずっと傍観していろよ。カイト、ここから出してくれ」


「ちょっと待ってね」


 既にカイトを縛る枷はない。

 カイトは分不相応にも着飾っている家畜の懐を漁る。


「なんだよ!クズごときがお、俺に触るな!!」


 抵抗するようにワァワァ叫び暴れるソレに、埒が明かないとカイトは


「うるさいな、ちょっと黙れよ」


 そう言って何度も顔面を蹴る。


「結構痛かったんだからさあ、その分くらいは頑張って意識保てよな!」


 続けて何度も蹴りつける。

 初めは聞こえていた鳴き声も完全に途絶えた。


「あーあ、完全に伸びちゃってるよ」


 残念そうに、それでも少し満足そうに呟いている。


「ああ、うん、カイト?そろそろ出してくれ。それと……その口調、どうした?」


「いやぁ、ナナシが惹きつけてくれって言ってたから、口調を変えて挑発してみただけだよ」


「そ、そうか」


 完全に伸びたソレに探りを入れながら返事をするカイトに、ちょっとどもってしまう。カイトはあまり怒らせないほうがいいかもしれない。


「それと、はい」


 鍵が外されて、俺を縛る枷もとれる。


「よし、じゃあ行くか!」


「うん!」


「あぁ、その前に」


 ナナシは思い出したかのように立ち止まる。家畜の方を向いて


「俺はカイトのことを――だと思ってるよ」


 これはカイトに向けた言葉じゃない、すぐに振り返って走り出す。


「じゃあ今度こそ行こうか」


 そう言って地下牢の扉を開く。ここから一番近い目的地の更衣室にまず向かう。

 通路はカイトの地図で完全に覚えたからそのまま直行する。

 何度目かの部屋を通り過ぎ、目的の場所まで来る。


「中には……誰もいないようだな」


「じゃあちょっとついてきて」


 なぜ更衣室に来たかというと、布一枚の服とも言えないそんな恰好のまま外に出たら怪しすぎるから、とカイトに言われたからだ。


 だから俺は以前話に出てきた、着せ替えさせられて、という話からカイト用に誂えられた服を拝借できないかと考えた。

 俺もカイトも体格に大差はないため丁度いい。


「赤い髪に似合うって言ったら……黒かな?」


「どっちでもいいよそんなの」


「うーん、白も捨てがたい……」


「その手に持ってるやつでいいから」


 俺は懐に忍ばせていた本を代わりにカイトに渡し、服を取り上げる。

 素早く着替えを済ませて預けていた本をポケットに仕舞おうとするが入らない。仕方なく手に持つ。


「黒かぁ……」


「ほら、走るぞ」


 未練がましく呟くカイトに先を促がす。


「次は厨房だな、派手にやろう」


 ニヤリと笑ってそう言った。

 カイトはこれから起こることが何なのか分かってるため、いやそうな顔をしている。


 厨房に向かうために来た道を戻り、そのついでに地下牢の入り口を確認する。入り口は()()()()()なのを見て厨房に向かう。


 辿り着くと、ゆっくり扉を開き中が無人なのを確認して入る。

 綺麗に整理された食材をいくつか空いているポケットに入れる。


「ここから火を貰うんだが使い方が分からないから適当に壊すぞ」


「えぇ……そこは考えてなかったんだ……」


「ここで死んだら笑いもんだな」


「全然笑えないんだけど」


 話しながら、何かないかと探す。少し大きめの、使う用途が分からない包丁を手に持つ。


「あっ、着いた」


「じゃあ壊すか」


「いや、だからっ!火が着いたって!」


「分かってる、火が着いてるな」


「じゃあその手に持ったいまにも振り下ろしそうな包丁、下ろしてよ」


 仕方ない、火力が足りなくても、魔力はまだ残ってるから何とかなるだろうと思って、壊すのは止めにする。


 以前、【書き換え】の魔法を使ったときに魔力の大半を持っていかれた。それ以上魔法が使えないほどの量。

 今回、ずっと準備していたのは魔法の補助装置である魔法陣を削り出すことだった。

 ()()()()と、ナイフで魔法陣の削り出しは本当にギリギリまで時間がかかった。


 魔法陣によって魔力の減少を抑えることに成功したから、まだ魔法は使える。


「今からアレ、やるんだが、使ったらどうなったか覚えてるか?」


「……爆発したね」


「あぁ、爆発した。だからちょっと離れとこうか」


 扉の前あたりまでカイトに距離を取らせる。十分に距離をとったと確認すると俺は炎に向かって魔力を送り込む。

 炎が魔力を籠めると、揺らめいていたソレが勢いを増していく。更に魔力を送る――


「あっ、ヤバ、逃げるぞ!!」


「えっ!?ちょっ」


『ドゴーン!!!』という音とともに爆ぜた。厨房が爆発して連鎖するように次々と火が燃え移る。


「何してんのさ!」


「残りの魔力を全部籠めようとしたら爆発して思ったより籠められなかった。

 もう何度か使えそうだから出る際にまたやる」


「はぁ……。その時はちゃんと注意してよね」


「分かってる」


 逃げる。とにかく走る。連鎖して燃え移った炎がもう屋敷全体を包み込んでいる。


『な、なんだぁ!?何が起きてるんだ!?』

『さっきの音何!?』

『キャー!!火よ!火が!!』


 聞きなれない人の声がする。この屋敷の使用人の声だろう。そして急に左の、火の移っていない扉が開かれる。


「だっ、誰だっ!」


「僕です、カイトです!

 急に火が現れたのでピグレー様が異変を察知して僕たちを逃がしてくれたんです!

なので今急いで屋敷の外へ避難しているところです!」


 息を吸うように嘘をつくカイト。

 普通に考えればそんなこと、あの家畜に限ってあるはずがないのだが、それだけ使用人も慌てていたんだろう。


「坊ちゃまはどこへ!?」


「厨房の方です!火を消そうと尽力されてます!」


「感謝します!」


 そういって厨房へ向かう使用人。俺たちとは真逆の方向だ。


「じゃあ、行こうか」


「あ、あぁ……」


 眉一つ動かさずに嘘をつくカイトに俺はまともな返事が出来なかった。


 そしてそのまま、俺たちは出口まで走る。あれ以来誰とも出くわさなかった。


 もしかしたら誰かは脱出しているかもしれない。その際はそいつを殺そう、全力で。


 出口まで走る、走る、走る。外が見えてきた。そこに見たことない人間が三人いた。


「なんだぁ?アレ、カイトじゃないか?」


「ん?カイト!?どこ!」


 黒味がかった青色の髪の男女がカイトに気づく。


「ハァ、ハァ、カイト、知り合い、なのか?」


「えっと、前に行ってた護衛の人だよ」


「知り合いだったのか?」


「そういうのは得意なんだ」


 カイトの不思議な顔が見え隠れする。何者なんだ、コイツ。


「おーい!カイト!こりゃどういうことだー?」


 金髪に茶色のメッシュの入った、背の高い男が説明を求める。


「とりあえず、事情を話してくる」


「じゃあ俺は、この火の威力を増幅させとく」


 そうして出口付近まで来たら屋敷全体にまで燃え上がった炎に向かって魔力を送り込む。


 今度は大きさが大きさだ。厨房の方と比較にならないほどの爆発を起こすはずなのだが……。


「んー、そういうことなら放っておいた方がよさそうだな」


「ありがとうございます!」


「『面倒ごとは嫌いだ』っていつものように言わねぇんだな」


「まぁ、な。カイトの頼みでもあるし、それにもうそんな時期じゃない」


「へぇ?」


「ククク、やっと見つけたからな。行動に移す」


 暗い青色の、光がなければもう黒色と見間違う髪色をした男が、口を押えて笑い、金髪の言葉をさえぎって、ナナシを見る。



(身体が怠くなってきている、そろそろ魔力が切れそうだ)


 魔力をずっと送り続けているのに爆発しないのはなぜだと、内心焦るナナシ。残りの魔力を一気に送り込む。


 屋敷のほうを見れば、火は球体状にまとまっており、炎自体が黒ずんでいる。


「熱っ、結構離れててもこの温度って、こりゃ中の奴もう死んでるな」


「ね、ねぇ、お兄ちゃん!これ、ちょっとヤバいんじゃない!?」


「あぁ、ヤバいな。爆発する!お前ら、逃げろ!」


 女の言葉を受けて、その兄は逃げるように呼び掛ける。


「カイト、俺らも逃げるぞ!」


「えっ、待っ」


 駆けだた瞬間に、抑えられていた炎が『ドゴーン!!!!!!!』と一回目と比較にならない音を轟かせ爆発した。


 後日、火が完全に消え、目撃者はいなく、火元が厨房からということから、事故ということで処理された。

 調査の際、屋敷にいたとされる()()()()()()と、地下室から、不運にも誰のものか特定できない二つの死体が見つかったために、ナナシとカイトは死んだ者としてみなされた。

名前:

種族:人間

称号:・・・・者

状態:衰弱

ジョブ:なし

Lv :1→6

HP:92→130

MP:234→297

筋力:13→29

魔力:43→63

体力:10→26

俊敏:8→25


ユニークスキル

・・・・


スキル

状態異常耐性Ⅼv3

痛覚鈍化Ⅼv2


魔法

聖魔法Lv1→2

魔術Lv1

干渉魔法Lv2→3

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