第十三話 スキル
日が完全に登り、窓から入る光で意識が覚醒した感じが……
(もうフルなんてどうでもいい……寝よう)
布団を深く被り直す。太陽なんてクソ食らえといわんばかりに光を遮る。
「ナナシ!いつまでそうしてんの、さっさと準備するよ!」
俺の本質は怠惰なのだと実感した。
だからカイトの声が響き渡らない!響かないったら響かないのだ!!
「あーあ、今日は昨日ボーナス入ったから朝食はちょっと豪華にシュガーマンの店で食べようと思ったのになぁ。
ナナシが起きないんだったら残念だけど、僕だけで頂いちゃおうかな」
「今起きる」
わざわざ聞こえるように話すカイトの言葉に載せられてやるのは少し癪だが、菓子が美味かったシュガーマンの料理だ。一度どんなものか拝見しないとな。
「じゃあ顔洗ってきて準備しててね、その間に僕は少し寄る所があるから」
「しょうがない。首を洗って待っててやる」
「あはは、今回は顔を洗ってね。じゃあ行ってくる」
「おう」
カイトが言っていた、食欲、睡眠欲、性欲は人間の三大欲求だそうだ。
その欲求のうちの二つを天秤にかけ、今回は食欲に分配が上がったということ。
(カイトが戻ってくるまでに顔洗って着替えねば)
俺は洗面所に向かって魔道具に魔力を通す。すると温かいお湯が出てきてまだ少し肌寒いこの季節には触れているだけで天国のように感じる。
カイトは、男子たるもの朝は冷水で頭を覚ますべし、なんて馬鹿げたことを言っていた。
俺はお湯が出せるならお湯でいいじゃないかと思う。
顔を洗って歯を磨いて身支度をしていると、ちょうどカイトが戻ってきた。
そのままこの宿の食堂に行って朝食を頂く。
「さっきフルさんと会ったときに話をしたんだけど、今日は朝食が済んだらこのまま南門に来いって」
「なんだ?まだ10時には早いだろ?」
フルと約束している時間は朝の10時だ。しかし今はまだ8時。このままゆっくり朝食を食べて南門に向かっても9時とかだろう。
約束の時間には早すぎる。
「そうなんだけど、少し話したいことがあるって言ってたよ」
「ふーん」
面倒なことが起こる気がする。このまますっぽかしてやろうか。
……おっ、この魚上手い。調味料が良い塩梅で調和している。ソルフィスがくれた保存食とは雲泥の差だな。
また一つ、好きな食べ物ランキングが更新された。
「じゃあ行くよ」
「う"っ」
食事を堪能し終わり、部屋に戻ろうとしたタイミングでカイトに襟を引っ張られる。
カイトはなにか得体の知れない怖さがあるのでここは渋々従うことにした。
「よっ!遅かったな」
「フルさん、さっきぶりです」
「おはよう白頭巾のフル、会いたくなかった」
「連れないこと、それと白頭巾言うな。
……じゃあ早速本題なんだが……」
フルがなにやら物騒なことを言い出す。
要約するとゴブリン退治。それだけなら金稼ぎもできるから良い。
しかしその裏にはその上位種がいるかもしれないという内容だ。
問題となるゴブリンは昨日見つけた洞窟から、それも巣から装備のあまり整っていないゴブリンがこの都市近辺の森まで出現していること。
あまり、ということはある程度は装備が整っている。そのゴブリンが根城である洞窟から出てきているのだ。
つまり巣の内部には、生態系ピラミッドの上位種がわんさかいるだろうと言うことだった。
「そこでギルマスが暇そーーじゃなく、俺のような万が一に備えてナレージャに居るベテラン冒険者に声をかけてるって訳だ」
「「暇なんだな(ね)」」
「違う!
……とりあえずお前らもそれに参加するって聞いてな、ギルマスからお前らとパーティー組めって言われたんだ。
だからそれまでに魔物相手にどれほど出来るのかお手並み拝見ってところだ」
「ふーん、ま、良いけど」
「そっかぁ」
そう適当に打ち合わせしつつ魔物が出る森の方まで移動する。
機が熟したかのように現れた二体のゴブリンをナナシは一刀両断、カイトは背中に回り込んでバックスタブをしてゴブリン達は絶命する。
「ほぅ。
お前ら、その様子だとジョブについたみたいだな」
「へぇ、分かるんだ?」
「ちっ」
カイトは興味深そうに、フルの観察眼が確かなのを理解する。
ナナシはこの力でフルに一矢報いてやろうと思っていたのか、上昇した分の能力があっさりとバレてバツが悪そうだ。
「まぁな、これでも結構冒険者はやってんだ。そこらのゴロツキよりは出来るつもりでいるぜ?」
そう言いつつチラチラっとおっさんに似合わない仕草でギルドカードを見せびらかす。ランクC1のギルドカードだ。
Cランクといえば、それは一流の部類に入る。ランクを見せつけるタイミングといい、相手をきちんと判断してから情報を差し出すフルは、本当に一流の冒険者なんだろう。
ドヤッとした顔がイラっとしたので蹴りを入れる。
それがきちんとクリーンヒットしたことから、ナナシの強さはフルに追いつけているのだろう。
それから適当に魔物を狩って、満足したのか、今度はフルの実力を見せるという。
「お前らはまだスキルを上手く使えないようだからな、少し手本を見せてやる。
まずはナナシ、しっかり観ておけよ」
フルが腰掛けの鞄から、明らかに入らない大きさの片手剣を取り出す。
「ナナシは見た所、剣士のジョブに就いてるな。なら、スキルに剣技が追加されてるはずだから、これから見せるスキルは簡単に習得できるはずだぜ」
フルは、まずは、と言って二度剣を振る。
「この速度、これが俺の本来のスピードだ。
ちゃんと覚えておけよ。」
「速いね」
「まあ出来なくはなさそう」
カイトは感心、ナナシは少し意地を張る。
そして、フルは足元にある小石を草が生い茂った場所に投げる。
すると、ガザガザ、と音を立ててニュモっとドリルラビットが現れる。
「『二段斬り』」
フルは伝わりやすいように敢えて発動する技の名前を声に出す。
一つ目の斬撃が繰り出された後に、フルの身体能力からみても早すぎるほどの二つ目の斬撃が放たれる。
「と、まあ地味だがMPを消費して攻撃することで身体能力を超えた威力の攻撃が繰り出せるぜ。そんでカイトにはこっちだな」
片手剣を鞄にしまい、今度はナイフを一つつ取り出す。
「『斬刺二段撃』」
繰り出したのは斬撃と刺突攻撃である。
ゴブリン相手に大人だと体格差がありすぎるために木を相手にしているが、木を魔物だとすると丁度手首の位置を斬りつけ、首の、喉元のところに刺突を放つ攻撃。
心臓の位置が特定できない時など、相手の四肢を分断させたい時などに有効な攻撃だ。
「とまぁ、こんな感じだ。どうだ、掴めたか?」
「まぁなんとなく」
「うーん、フッ、ハァッ!……出来そうかな」
ナナシは口だけで、カイトは一度行動にしてから答える。
「まぁ、あとは練習あるのみだ。昼過ぎあたりまで練習すれば、お前らならこれくらい出来るようになるだろう。
何せそのジョブについてない俺でも1日で出来たんだからな!」
どうやらフルは俺たちに基礎を教えるために、昨日の1日でこれを習得したようだ。
流石一流冒険者と言ったところだろう。
ついでとばかりにフルは魔物の血抜き、剥ぎ取りの仕方を教える。
俺たちは昼過ぎまでになんとか覚えることができた。
「じゃあこれから冒険者ギルドで明日のゴブリン退治の説明がある。それに参加するぞ」
「少し急すぎませんか?」
「どうやら異常繁殖してるらしくてな、早めに対処しないと不味いらしい」
「ふーん」
この日の修練はここで終わった。