プロローグ
目までかかる赤い髪、濁った青い瞳、まともなものは食べてないであろう細い身体。
この暗い地下の牢屋で少年はそこに居た。生きた分と同じだけここで生き、外の様子も分からずに、ただ迎えるのはその身の破滅。まともな感情もなく、ただ無気力に生きる少年。
夏は涼しいが冬は感覚がなくなったように身体が動かなくなるほどに寒い。
与えられたものは薄い布一枚の服と首に壁と繋がれた鉄製の首輪、この首輪がまた、冬になると氷のように冷たくなる。そして石造りの床とその上に藁と布。
与えられるものは一日に一度の食事と最低限の言葉とその文字。
それまでは退屈だった、食べて排出して寝てまた食べてを繰り返す。だから最初は楽しかったのかもしれない。
「あなたに文字を与えます」
その言葉がトリガーだった。大人が来て、暗かった牢屋に明かりが灯される。それから暫く、座学が加わった。何かを教わることは退屈しない。明かりが消えるとこの時間も終わる。
暗くなると勉強ができないから、明かりが灯されるのが待ち遠しくなった。
だが、違った。
「なぜこんなのができないのですか!!」
算数を教わっていた時のこと、急にその大人が発狂した。何ができていないのかと、手元の紙をみる。
簡単な内容だった、足し算や引き算が出来れば誰にでも解けるそんな簡単な内容。
ああ、間違えたと済ませることができるそんな内容。
「お前がそんな態度を私に取るな!!!」
大人は手にペンを持ち、振り下ろす。振り下ろされた先は子供の手の甲だった。
「っ!? あああぁぁぁあ"あ"あ"あ"あ"!!」
痛みが襲う。今まで感じたことのなかった、身を痛みつけられるそんな痛み。貫かれた手の甲には、感じたことのない強烈なソレがある。
初めは何をされたのか分からなかった。痛みより驚きが強かった。それから徐々に、波紋のように、痛みが広がっていく。
「うるさいうるさいうるさいうるさい!!!」
雄たけびのような声をあげながら、大人は子供に襲い掛かる。殴る、蹴る、髪をつかみ地面に顔をたたきつける。
「あの豚がぁぁ!! 私を無能だといわなければぁぁ!! 今頃は!!!!!」
「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」
そんな言葉が聴こえる。痛みに耐えるだけで必死でそれ以上聴き取れない。
どれだけ時間が経たのか、意識を失った。
目を覚ますと、手の甲には傷もなく、痛みは既に引いていて、それは夢だったのかと思ったほどだった。
しかしその日以来、モノを教える大人は変わった。だから夢ではなかったのだと思う。それからは、何事もなく、日が過ぎ去る。
そして、この地下牢で文字と言葉を習い終わった日からしばらく立った日のこと。6歳の冬、初めて豚貴族と対面した日。
「こいつが例の観察対象かァ?」
「そうです。くれぐれも殺さないように頼みます」
「殺さなければ何をしてもさせてもいいってことだろォ? 喜べガキィ、今日から俺様がお前の躾役だ」
この日から俺の生活は一変した。