無視=それがどうしたというのだろう。
ちょっと短めです。
「んな事言ったって、お師匠様、帝国じゃオーガとの混血って差別されてるって話ですよ、ただですむとは思えない」
「……お前そんな面構えだしな」
師匠はおれの反論を聞いて、鼻で笑ってそんな事を言うけれども、師匠じゃなかったらかなり失礼だ。
咳ばらいをしておれは言う。
「とにかく、いくらお師匠様のお達しでも、それは聞きません。破滅するなら勝手にすればいい」
アリーズたちが盗んで自滅するのまで、助けに行く理由はないし、おれはあいつらに会いたくないのだから、そういう事はしたくない。
……って事にしないと、おれは自分がどう動くのかわかってしまう。
本当はアリーズが心配で心配で、お兄さんの事を放置して、走って行ってしまいそうなんだ。
なんでかって、お兄さんは間違いなく生きているから。
破滅するなら勝手にすればいい。そうやって自分に言い聞かせているんだ。
なんとか言えば、にやりと師匠が凶悪顔で返す。
「さすがだな、いい根性だ。自分にひどい事をしたやつの後先なんて知らないってか」
責める言い方ではなかった。
師匠がこの事でおれに対して、無理強いをし過ぎる事はないのだと、ここでわかった。
取り返してこいと言っているけれども、それは絶対じゃないのだ。
大昔に、ちょっと一人で取って来いと、古龍のひげを取りに古い温泉地帯に放り投げられた時とは違うのだ。
返された言葉にまた投げるおれ。
「当たり前でしょう。お師匠様だってそういう生き方じゃないですか。知ってますよおれ。勝手に契約切って、あなたが守っていた物全部奪われて、泣きついた人放り棄てたって」
「生き方として何がいけない? 向こうが勝手にやった事だ。こちらが勝手にして何が悪い」
唇を吊り上げて言い切る師匠に、言質をとったと感じる。
「あなただってそうなのに、弟子のおれがそういう生き方で何が変なんです」
聞いた師匠が噴出した。
「これは一本とられたな。お前口が回るようになったな」
ゲラゲラ笑った師匠だが、おれはそのまま立ち上がった。
「それじゃあお師匠様、ここは壊したり汚したりしなければ、好き勝手していいですからね」
「お前はどこに行く?」
面白そうに聞いてくる師匠に、おれは同じ悪い顔で笑った。
「あの人の所に馳せていくんですよ」
それ以外に選択肢がない物だから。
「巨大な危機よりも個人的な信念を貫くか、さすがは一番師匠に似た弟子だ」
師匠がそこで立ち上がる。
「ちょうどいい暇つぶしになりそうだ、このお師匠様にお前の行く末をちょっくら見させろ」
七つの盾を、星図の形で片腕に装着して、さらに何が楽しいのかアメフラシもどきを頭の上に乗せようとして、盛大に嫌がられて墨を吐かれる師匠。
墨なんて出せたのか、お前は蛸なのかと聞きそうになったおれであるが、師匠がそのままぶん投げてきた呪いの本の塊を、慌てて掴む。
『おいらの扱いがこの巨人、尋常じゃなく悪いなぁ! なんでこんな呪いの影響食らってても昏倒しないんだ!? 普通そろそろオーガでも死にかけるくらいの呪いぶつけてんだけどよ!?』
呪の本が信じられない事を叫んでいる。しかし師匠は気にしない。
「ひやっこくて夏場はちょうどいい氷枕替わりだな。お師匠様に譲る気はないか?」
「本人がすごくすごく嫌がってるみたいなんで、却下で」
「こんなもちもちで気持ちがいいのに。惜しい」
……呪いの塊の力がここまで通じないって、師匠一体何をしたらそんな事になるんだ。
師匠は名前がちゃんとあるし、文字だっていっぱい知ってるし。
無知の防御も無名の障壁も持ってない筈なんだけどな。
なんで、呪いの力が一切合切通用しないのだろう。
後で聞いてみるか。
なんとなく思ったこの疑問は、後から凄まじい師匠の経歴を聞かされることで、恐怖の解決となるのだと、おれはこの時知らなかった。




