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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師と隠者は、己の真理を貫くか
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問答=己の位置は己が知る

通る市場のなかで、取りあえず食材を買っていく。


「家に招く癖に、食べ物の買い置きがないのか」


師匠はそんな事を言いつつ、おれの脇で買い物に口をはさみだす。


「そっちの方が肉がうまい。店主、それを一匹」


「おいおい、あんた正気か……これを一匹、どうやって食べきるんだ」


師匠が示したのは巨大な豚に似た獣である。豚と言い切れないのは、牙が四つあるから。

おそらく食肉用の魔物の一種だろう。

深く考えた事はない。

しかし師匠は相手の言葉を気にもしないで、言い切る。


「それをどうするかは買ったやつの自由だ。売らないわけじゃないだろう」


「まあ、腐らせないでくれればいいけど」


肉屋のおっちゃんはぶちぶち言っていた物の、それを丸々一匹師匠に受け渡す。


「支払いはこっちだ」


さらりとおれに支払いを押し付ける手際が、たいへんよろしい。

というか師匠と一緒だとこんなの、慣れっこになるから複雑だ。

師匠は指が大きすぎて、細かいお金をつまむのが嫌いなのだ。

それでも師匠の買い物は終わらない。別の獣を丸ごと一匹買ってから、今度は野菜を売る方に足を向ける。

いつ見ても、師匠の視線に慣れている感じは、おれの方が慣れない。

いたたまれなさがあるのだ。なんでこんなにもおれは、視線が突き刺さる方の隣にいるのだろう。

視線がそれるようにしているのには、訳がある。

……師匠がさっき買った獣を、肩にぶら下げて歩いているのだ。

それだけでも、師匠の膂力がとんでもないのはわかるだろうが……ほかにあるだろ。

通る人々が、師匠の背丈にぎょっとして、さらに頭から突き出す角にびっくりして、最後に担いでいる獣の大きさで見なかった事にしている。

もはや何も言うまい、と思うだけのものだ。

師匠はその後、絶対に一人で食べきる量じゃないよな、と思うだけの野菜も買い込み、穀物も仕入れて、ようやく買い物が終わった。

おれが買い物を始めたはずなのに、いつの間にやら師匠が主体になっていた。

自分のペースで気ままにやるからな、師匠。

そして取りあえず家に到着すれば、師匠は空いている空間で盾を分解し始めた。

おれはその間に、取りあえず食べられる物を作るべく、全力で動き始めた。




一体どれだけの量が、その胃袋に入るのだろう。

おれは何度目かわからない大量の野菜炒めと、獣の丸焼きの、火の通った部分を削いだものを食卓に移しながら、師匠の限界について考えていた。

一般的な食事量の遥か五倍はすでに食べている。

しかし師匠の食欲は一向に衰えない。

ひよこ時代から見てきた光景だ。

おれはとにかく、師匠の胃袋を満たすために、台所に立っている。

臓物と穀物の煮込みが出来上がった。それは鍋ごと食卓に行く。

純血オーガは大ぐらいと言うのが定説らしいが、それを間近で見ると迫力は普通じゃない。


「良く入りますね……」


「前にも言っただろう、オーガは……」


「オーガは食いだめが可能で、一度完全に満腹になったら、三か月は水だけで生活できるんでしたよね。そしてその間は慢性的に軽い空腹だって」


「よく覚えているな」


喋っているのに、口から物はこぼさない。意外と行儀のいい食べ方である。

師匠はそして、あの巨大な獣を丸々二頭、骨まで平らげて、買い込んだものは本当にすべて丸ごと、その胃袋の中に納まった。

オーガは大概の食べられる物だったら、消化できるから、野菜の皮なんてものをは剥かないで食べるのだ。

そうすると、生ごみの出る隙もない。


「まだ食べますか」


「甘いものが食いたい」


これ絶対に師匠足りてないだろう、と思えば、師匠は実に邪気のない笑顔で言った。

おれは外をうかがった。まだ夕方である。

甘いものを手に入れる事は出来そうだ。

財布も確認する。もともと大して使っていなかったから、お金に余裕はある。


「……買ってきますから、ここで待っていてもらえますか」


「作るんじゃないのか」


「今から甘いものを作る時間がないです。砂糖だってないので」


「……その間お前の首にぶら下がってる変な物を借りるぞ」


師匠は言いながら腕を伸ばし、抵抗しているアメフラシもどきを掴んだ。

アメフラシもどきは、自分が引きちぎれる心配をしたようで、しぶしぶ俺の首元から離れた。

おれはそれを見てから、駆け足で近くの甘いものを取り扱う店に飛び込んだ。

閉店間際だったから、割引がされている。

山のように果物を買い込み、砂糖も買い込み、時間稼ぎで焼き菓子の端っこ大袋をありったけ買っていると、そこの定員に聞かれてしまう。


「どこかで宴会が?」


「常識外れの大ぐらいの師匠が来てるんです」


定員のお姉ちゃんはそれに、想像がつかなかったらしく不思議な顔をしていた。

それで戻ってくれば、何やら師匠と呪いの本は話し込んでいた。

おれは卓に大袋を置いて置き、そのままで食べられる果物も積んでおいた。

そしてやっと自分の食事である。

師匠はありったけたべると、おれを見やった。


「で?」


その言葉の副音声が聞こえるようだ。


「何をそんなに腕を鈍らせた?」


と聞いていらっしゃるのだ、おれの師匠は。


「……」


何をと言われても、腕が鈍った自覚がなかったから答えられなかった。

そんなおれを見て鼻を鳴らし、師匠が次に言葉を投げる。


「なにをためらっている」


なんでそんな細かく見透かせるのだか。うっかり誤魔化せば首に腕が回されて、吐くまでその体勢が維持されるに違いない。

おれは視線をそらして、おれの迷いを喋った。

つまり、お兄さんを探しに行きたい、でも迷惑と思われたくない、行かない方がいいのか、うんぬんかんぬん。

ひとしきりおれの迷いを聞いた師匠が、すごい馬鹿にした調子で笑った。

ちょ、おれの葛藤をそんな簡単に笑って済ませないでください!

哂った師匠はおれを見る。オーガ特有と言われている、十字の瞳孔の瞳で。


「お前はその男を、守ると決めたんだろう。盾師として」


「……そうですけど、それを忘れられているから……」


「はっ。盾師が守ると決めたんだ、よそ様なんぞ関係ない」


「……」


呆気に取られて師匠を見れば、師匠はおれに指をさす。


「お前は何だ、お前の矜持は何だ」


「おれは盾師だ、“守ると決めたら最後まで”」


おれの矜持はすぐさま出て来て、おれは自分の言った事ではっとする。

そうだ。

おれは守ると決めたら最後まで守ると、おれの在り方を決めていたんだ。

他が何を言ってもそんなもの、関係なかったんだ。

おれの在り方だから、おれの行動なんて、おれが決めていい物なんだ。

悩んで後悔するのも一つだけれど、おれは、おれは。


「自分の中身に気付いたな。じゃあそれを貫け。あほがき」


そして師匠はおれを見やり、問いかけた。


「ところでお前、俺がやった盾をどうした?」


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