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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師は、隠者と添い始めるのか
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弊害=失われたかもしれない物

「先を越されたって分かって、ルヴィーはどう動くつもりなんだ?」


「これから父に事の次第を知らせて、色々とあるわ。公国の動向とか。目的とか。場合によっては大ごとになる事も視野に入れなくちゃいけないし」


「それはお兄さんの体にある術の所為?」


「そうね、見られてはいけないものだから」


おれは少しだけ考えた。この後どうするか。この後自分をどうするか。

あの体は、お兄さんの体は、抵抗しなかったのだ。

それが事実として転がっている。正直、あの寂しんぼうがここから離れる事を受け入れるとは思えないから、どう頑張ってもお兄さんの意志がかかわっている気がするのだ。

お兄さんは迎えを受け入れる事を、きっと、選んだ。

おれを置いて。

それが簡単に言えば、捨てられたという事なのだろうか。

しかしまだ、いくつかの事が残っている。


「ルヴィー、皇帝にこれを話す前に。別の場所なんだけど、来てほしい所があって、あって欲しい人がいる」


そう。お兄さんの人格と思われる物を、体に宿しているディオの事なのだ。

体が自分で動くようになって、ここから自主的に離れた場合、あいつはどうなるのか。

あいつの中のお兄さんと言うべき部分が、どういう状況になるのか。

おれみたいに、何もわからない奴が見るよりもきっと、ルヴィーみたいに見える奴のほうが正しい物が見えるはずだ。

それに、会って、見てもらいたかった。

だってこの状況はおれに、ディオへの疑問を抱かせたから。

おれはあいつを疑いたくない。あいつに欠片でも不信感を持ちたくないのだ。

それなのに、おれはここで思っちゃうのだ。


『お兄さんの体がお兄さん本人の意志で動けたと仮定するならば、ディオが宿したと言っていた物は一体何なのか?』


と言う疑問なんだ。

そしてそれは一個の非常に嫌な考えを、おれに芽吹かせる。


『あいつはお兄さんのふりをして、何の目的であれおれを騙していたのではないか?』


何て言う考えだ、自分で思っていて非常に不愉快。

だがそう言った物がかすめてくると気にしてしまう。

おれの視線に何を感じたのか、ルヴィーが黙ってうなずいた。

踵を返してそのまま、家の扉から出て行こうとドアノブに手をやる。

その動きは空振りに終わり、おれは想定していない勢いでドアに顔面をぶつけた。


「っ!?」


眼から火花が出るかと思ったというのに、玄関を開けた相手は大股で中に入って来る。


「ナナシ、隠者殿は完全に回復したのか!?」


入ってきたのは、おれが考えていた相手、そうディオ本人だった。

こんな時に来るという事は。

おれは自分の疑いが、事実じゃないとわかった。

今この瞬間に、こんな事を言って部屋までかけてくるのだから。

おれを騙していたんじゃないのだ。きっと。

……そうだ。ディオがそんな演技をおれにする理由の方が、ないんだ。

疑った自分を殴り倒したくなる。

それを脇に置いて、おれはディオの問いに答えた。


「わからない、誰かが勝手に連れ出したらしいんだ、いなくて」


「あら、あなたは戦神の神殿の聖騎士殿ではないの?」


ディオを見やったルヴィーが呟く。

彼女の方を見たディオが、見た事のない一礼をする。


「お初お目にかかります。ディオクレティアヌスと申します。申し訳ありません、少々立て込んでおりまして」


そこまで一息に言ってから。ディオが足早に隣の廃墟まで入る。

そしてすぐさま戻ってきた。苦々しい顔をしている。

こいつ、厄介な問題が起きた時はいつもこんな顔だ。


「争った痕跡がない……やはり……?」


「何か知ってんのか」


「ドリオン殿の所に、肉体の研究をしている学者がやってきてな。その学者の説によれば、一時的にでも魂の器である脳髄が損傷を受けると、心が壊れてしまうというのだそうだ」


「前置きが長い、何が言いたい」


さっさと言えと促すと、ディオがすぐさま短くまとめた。


「体が完全に蘇生しても、隠者殿の魂がきちんと体に戻ってないかもしれないという事だ」


ちょっと待ってくれよ、ディオには丸のままお兄さんがとりついていたじゃないか。

別の人の所には収まるのに、自分の体にちゃんと戻れないって何なんだ。


「お前にはとりついてただろ」


「学者が言うには、記憶や人格と脳髄の関係は、通路が一本しかない蔵書室のような物なのだとか」


「で?」


「脳に一時的にでも損傷があると、その通路が破壊されて、自分の力では容易に記憶を閲覧できない状態になるのだそうな。……これを聞く手前で、隠者殿が俺から去っていったから、なんというか非常に嫌な予感を覚えてな」


「で、様子を見に来たってわけか。……お兄さんはここから出て行ったんだ。ルヴィーが言うには公国だそうだけど」


「……まずい、非常にまずいだろうそれは」


「ディオクレティアヌス、あなたは一体どのような最悪を描いていらっしゃるの」


「姫君、俺は一時的に、隠者殿の魂を居候させておりました。そしてその間、彼の記憶を見ていたのです。彼は五年前に全く身に覚えのない罪を着せられ、公国から追放された「計算が合わない。ルヴィーの話じゃ十年前からお兄さん、“凍れる生贄”だったはずだ」


おれが遮ると、ディオが見つめてくる。

説明の道筋を考えている顔だ。


「それだったら、五年前に追放とかおかしすぎるだろ。なんで追放なんてできたんだ、あんなすごい力を持っている人を」


「……十年前に確かに、隠者殿はそれを引き継いだ。そして己のすべてを棄てた」


「棄てたって」


「売り払ったともいう」


「売ったって、売ったって何を!?」


おれにはわからない事だから、叫ぶような声になった。それにディオが言う。


「彼は自国に影武者を立てていた。帝国に行くこと自体を秘密にしていた。理由は見ていないから知らない。……その影武者が自分の実の兄だと知ってな。兄がすべてを弟に譲っていた事実を知り、兄にすべてを売ったんだ」


対価は一つだけ。己がいたという事の消滅。


「隠者殿はそして根無し草の、血縁も何もいない人間になったはずだった。隠者殿は生涯“氷界の意識”と共にいる覚悟をしていた」


怪物になる覚悟をしていたのだと、ディオが言う。青くなった唇で。


「そして五年が経過し、隠者殿の計画は順調だった。兄君が無実の罪で婚約者に糾弾され、全てを失い追放されるまでは」


「……だから、五年の誤差が」


ルヴィーが青ざめた顔で言う。きっとディオの言葉には続きがある。何かが起きたんだ。


「……追放された兄君は、隠者殿が入れ替わる前に恨みを買ってしまったとある集団に捕らえられ、暴行の果てに死んだ。……それを知った隠者殿は力を暴走させてしまった。そして“氷界の意識”と共鳴して今の彼になった」


だから今の状況は非常に厄介なのだと、ディオが言う。


「話のつながりが見えない。そのお兄さんの過去と、公国にお兄さんが連れていかれた事の関係は」


「これだけ話して分からないのか。お前だったらこんな記憶があるのに、のこのこおとなしく連れていかれるか?」


「いや、行かないって暴れる」


「普通はそんな場所に戻りたくもないわね」


「それが抵抗もせずに戻った。そこで最初の話に戻るわけだ。隠者殿は記憶の閲覧が不完全な状態で肉体に戻った可能性が高いという話に。……つまり自分が“寒空の祝福”を手に入れる前までの記憶しか閲覧できていないという可能性が高いという話に」


「……」


ルヴィーの顔色がものすごく悪くなる。真っ白なくらいだ。

おれも手が冷たくなる。だってそうだとしたら現在、お兄さんは。

自分の力の事も何も知らない状態で、力の加減も制御もできないで、それを知るやつが誰もいない場所に向かっている。


「隠者殿とあれの共鳴は恐ろしいほどだ。うっかり隠者殿が感情を暴走させたら、国一つほどの領域が凍り付く」


だからまずいと言っているんだ、とディオが繰り返した。



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