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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師は、隠者と添い始めるのか
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他方(4)=凍り付くような現場

異常な沈黙があたりを支配していた。

倒れ伏すその姿は、常に余裕をたたえた笑顔の男だったはずだった。

その男は今、惨いとしか言えないほどの暴力を受けた姿で、息絶えている。

聖職者は必死に治癒を施そうとするが、治癒が効果を発揮するのは生きている者のみ。

死者の体の欠損を、蘇生させる術ではない。

そして、この世に死んだものを蘇らせる術は存在しないのだ。


「沙漠の隠者が殺された……」


真っ青な顔の誰かが言う。生徒たちをなんとか死なせないで救出できたこの現状で、誰も喜んでいないのだ。

生徒たちは助かった、と喜色をあらわにしているのだが、冒険者や聖職者の空気に訳が分からないでいる。


「沙漠の聖者が殺された」


「凍てる選別者が弑逆された」


「うそだろう?」


「抵抗の跡もない」


「じゃあなぶり殺しなのかよ」


「おかしいだろ! なんで抵抗しなかったんだ!?」


誰かが混乱した声で叫んだ。その声にひどく落ち着いた声が答えた。


「身動き一つとれなかったからだろう。高度な結界を張る時の制約の中に、動きを封じるものがあったんじゃないか」


はっとした顔で誰もが、声の主である男を見る。淡い砂のような髪色の男は、左右の色が違う瞳でその死体を見下ろしている。


「きっとこの男は、生徒を守るためになにか、特殊な結界を張ったのだろう。そうじゃなかったら今頃、生徒は皆食いちぎられて死んでいる」


確かに、と誰もが納得する。生徒たちは生きている。救助者たちが駆けつけた時、ほとんど抵抗できないほど、噛みつかれたり切り裂かれたりしていたけれども、全員が生きていた。

それは山から護衛者たちが、排除された時刻を考えると、あり得ないほど幸運な事だった。

あれだけ激しい攻撃を与えられて、まだ生きているという事が。

しかし、もしも。

この死体が、命を懸けて、生徒たちを守る結界を張っていたならば。

ある程度の時間、耐えていたとするならば。

生徒たちが生きているのは、おかしな事ではなかった。


「皮肉な物だな、守った相手の愚かさで死んだんだろう。……術を解除して己の身を守るよりも、救助隊がくるまで結界を張り、生徒を生かすことを選んだらしい」


死体は身動き一つしない、当たり前だ。

男は周囲を見回した。そして淡々とした落ち着いた声で言う。


「この男は死んだ、沙漠の聖者は殺された。アシュレの学園の生徒たちが殺した。この代償は高くつくぞ、見ものだな」


「……」


そこでふらりと、一つの姿が動く。盾をしまった盾師だ。その衣装は男の血でもう、二度と着る事などできない位に、赤く染まっていた。


「運ぼう」


盾師は返り血がひどく目立つ白い頬で、白い頭髪にまで血をこびりつかせて、そして、ためらいなく男の姿を抱えた。

大事な物を、そう、とても神聖で大切な物を抱えるように。


「ここに埋めたらいけない、お兄さんをここに埋めるなんてできない。……もっといい所に埋めてあげなきゃ」


一番悲しいのは盾師だったに違いない。心が引き裂かれる思いだったのもおそらく。

だが最も気丈だったのも、盾師一人だった。


「痛かっただろうな、お兄さん」


殴打の痕の残る肌に、頬を当てて盾師が呟く。


「痛かったんだろうな……おれが代われたらよかったのに」


誰も何も言う事が出来ない中、傍らの男だけが頷く。


「それはもう痛かっただろうな。心臓を吹っ飛ばされても、頚椎を切断されても、術を維持し続けて、生徒を守った対価がこれとは」


「……。山を下りよう、もうこの山に用はない」


盾師は自分の外套を広げた。

そしてそこに男の亡骸を入れて、包んだ。


「少しだけここにいてください」


包んで、自分の道具袋の中にいれた。

入れたのちに、隣の男を見上げて言う。


「わるい、ちょっと一緒にいてくれ、一人は、だめだ」


「ああ、いるさ。あの現場を見てしまったからな」


男はその肩を叩き、柔らかい声でそう言った。

何かとんでもない間違いを、自分たちはしたらしい。

その氷点下のような空気を感じ取り、その男を殺した生徒たちは、やっと気づいた。



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