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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師は、隠者と添い始めるのか
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些細=比較問題でしかないと思う


「っていう話をしたんだけれども、どう思うよ」


「のろけなのかのろけじゃないのかいまいちわからん……お前そんな事話に来たのか」


マイクおじさんに採取の受付をしてもらって、奥で買い取りのための鑑定をしている間、そんな話をしていたのだけれども。

彼は非常にげんなりとした顔で言う。


「お前らやる事やってんのかよ」


「やる事ってどんな間柄でやる事を?」


「あれだ、夫婦とか恋人とかの間柄でやる事だ」


「……抱き枕?」


「違う、根本が違う、くっそなんかすごい健全な事を聞かされる空気しかない!」


机に拳をぶつけて、何か理不尽と言いそうな彼を見やりながら、今日の鑑定はずいぶん時間がかかるんだな、と他人事のように思っている。

普段こんなに時間がかかる事って、よっぽど判断に困る素材じゃない限り、ないんだけど。

おれ今日、何卸に来たっけ。

指を折って数えていれば、マイクおじさんが問いかけてくる。


「せいこういってやつしてるかって聞いてんだよ」


「それって交尾の事かよ。おれとお兄さんの間で何でそれが起きるんだってば」


あまりにも吹っ飛んだ中身のせいで、けらけら笑って言い返すと、マイクおじさんがぼやいた。


「求愛して受け入れた相手と一緒で、何でそこに至らないんだよその方がおかしいだろ」


「え、おれがそそる体つきってものをしていないから」


断言したとたんに、分厚い名簿で頭を叩かれた。何でだ。


「自覚があるのかよ、こっちは東区の学校に、“剣舞い”を教えられる奴を探して胃が痛いってのに暢気なツラしてやがって」


「え、おれ出来るぜ。お兄さんも」


受付のカウンターに頬杖をついて言えば、マイクおじさんはぎょっとしたらしい。


「は? おいお前、まじか? “剣舞い”だぞ? お互い真剣で、殺しあう一歩手前の境界線を綱渡りするあれだぞ? いくつかの型は諸外国で最高位の武人同士が行うものとされているあれだぞ?」


「お兄さん曰く、型が無ければ殺し合いになるから型があるだけで、本当は“お互いに必殺の得物を所持し、殺意なく相手の薄皮一枚傷つける事無く、武器を打ち合わせる事”が本来の剣舞いだってよ? おれはデュエルシールド、お兄さんはメイスだけど、それに準ずることができるから“剣舞い”が出来るって事だろ?」


「……お前らに常識的な何かを求めたのが間違いだった、お前らそれが出来るのかよ、つうかお前、ほんっと怖くないのか?」


「何が?」


「あの方に凍らされることが」


「だっておれは、“お兄さん”も“お兄さんの中身”もおれに殺意を抱かないって分かってるし、大体何で、お兄さんがそんな事をするって思わなきゃならないんだよ、頭の中身の無駄だろ?」


「いや、あれだけの力を見せられたら思うだろ。大なり小なり」


「そこが無駄だって言ってんだよマイクおじさん。本当に力があるっていうのは、それをでたらめに振り回さない気質があってはじめて、力があるっていうんだって師匠が言ってたぜ」


「……」


「お兄さんはでたらめにそんな事しないし、おれにそんなもの向けないし、向けるくらいだったらきっとおれに、役に立たないから捨てるっていうよ、その方がお互いに手っ取り早しな」


言われたらおれは悲しくて悲しくて、寝込むかもしれないが。

ああ、役立たずで捨てるなんて言われたくない。

想像しただけで寒気がするそれなんだが、それがマイクおじさんにはピンとこないらしい。

やっぱり怪訝な顔で、おれをじっと見ている。


「何なんだその、躊躇もためらいもない信じ方」


「おれがおれなりに、お兄さんってものを知って理解してかみ砕いて飲み込んだ結果だろ」


にやっと笑い、そこで奥から、鑑定していた土小人のおじさんが現れる。

一緒に鑑定していたおばさんも出て来る。

二人ともにこにことしていた。機嫌がよさそうだ。


「おじさんおばさん、鑑定終わった? 今日はどんな感じ?」


「まともな素材を持ってくるってだけで、凡骨はありがたいと感じる時間だったよ、何から何まで処理が素晴らしい」


「防腐処理の手際の良さを感じるわ、これからもこのギルドの素材買取を贔屓してね、最近欲しがる人ばっかりで、持ち込みが少なくて大変なのよ」


「ふうん」


途中愚痴になったものの、おれは袋一つ分の報酬を手に入れて、腰の縄で編んだ袋に入っているアメフラシに問いかけた。


「そろそろお兄さんと合流の時間か?」


『隠者殿は心配性すぎるだろうな。ただ素材をおろしに行くのだけでも、時間制限をするんだからな』


「じゃないとおれが寄り道しまくるって知ってるんだってば。おれいろんな物に目が行って、立ち止まって、大変だもの」


報酬を道具袋に突っ込み、おれはお兄さんが待っている家に駆けだした。

ふと小さい頃を思い出す。誰かが待っている家に帰るというのは、小さい頃しかなかった事だったからな。

境界線の門を潜り抜けて、そろそろ若君たちの帰宅時間だから、と落石の被害を免れるべく、荷物を一時的に片づける行商の人たちをしり目に、一か所大穴が開いている集合住宅を目指す。

お兄さんが大穴になったところから、おれを待っているのが見えて、やっぱりくすぐったかった。

だから一息に行こうと思って、走る勢いのまま、集合住宅の外壁を蹴って、飛び上がった。


「おい誰だ今の身軽なの」


「すごい身ごなしだな、職業盗賊か?」


「あんな動ける奴滅多にいないだろ、聞いた事あるか?」


背後で色々聞こえる物の、全部無視だ。

そして穴から、おれが飛んだのが見えたお兄さんが、伸ばした手を握って、飛びつく。


「ただいま帰りました、お兄さん!」


「そんな転がるように駆けて来なくてもよかったのだぞ、妹背」


『駆け寄られてうれしい癖にな。あまのじゃく』


「お前は余計なことを」


飛びついて抱きついても、誰にも文句を言われなくていいっていうのは、求愛を受けた奴の特権だな、とおれはお兄さんを一回きゅっと抱きしめて離れた。


「湶がやられてなくて何よりです」


俺は数日前に起きた、とあるささやかな事件を口にする。

すごいささやかな事件だった。


「この前はかなりの失敗だ、まさか変な因縁をつけられて、玄関前で鉄球を叩きつけられるとは想定外だった」


「お兄さん、おれが出るって言ったのに無精して、自分で出るから」


「そうだな、番犬がいるのに自分で出れば世話がない」


そう。

この前お兄さんを、恋人を寝取ったと勘違いした男の人が強襲し、そんな事思いもしなかったお兄さんが、玄関の呼び鈴が鳴ったから出た途端に、吹っ飛ばされたのがこの事件である。

それを見た瞬間に、迎撃の方に切り替わったお兄さんだったけれども、そいつはおれがものの二秒半で袋叩きにして、つるし上げて、いろいろ聞いて終わった。

恋人が勝手にお兄さんに一目ぼれして、妄想して、でたらめを男の人に語ったのだ。

そしてそれを真実だと思った男の人が、頭に血を登らせて、お兄さんを殺すべく来たってわけだ。

当然そんな事実はないから、おれとお兄さんと二人で説明して、速やかにお帰りしてもらった。

名前も所属も全部聞いて、真実だと確かめたので、所属する組織に抗議文章を送り、慰謝料を請求し、治療費を請求し、結果その組織のお頭が頭を下げに来たという事件だ。

家をいきなり爆破されるなんて言う事に比べれば、些細なのでささやかな事件という印象でしかない事である。

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