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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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仕事=変な知り合いができる事もある。


「気にしないでくれ、大体こうなる気はしていたんだ」


卵を見事なふわふわに焼き上げたお兄さんが、おれの前にそれを置いてくれて言う。

慰めているのか、苦笑いなのか。


「私は寝起きがとても悪くてな、起こした人間を布団の中に引きずり込んでしまうんだ」


これはお兄さん自身への皮肉だろうか。ちょっと唇に浮かんだ苦さはそんな気がした。


「でも仕事が出来なかったのは事実です」


「いいや、朝起きて水がめに水が溜まっていて、卵も置いてあるのは嬉しい」


お兄さんはにっこりと笑いながら、おれに卵焼きを示す。


「ほら、温かいうちに食べなさい。卵を焼くのは自慢できるんだ、私は」


そうなのか、と思いながら食卓兼読書机らしき物をみて、あれ、と思う。


「お兄さん料理上手?」


「いいや、私は卵を焼くのだけが名人なんだ。ほかはからきしなんだ」


「へえ……」


その辺でつんできたオアシスの植物の若芽は、それだけで十分おいしそうな緑色だし、パンは切り分けられて置かれているし、黄色い綺麗な卵焼きのおいしそうな事と言ったらもう、よだれしか出て来なさそうなのに。

お兄さんの謙遜なのだろうか。

しかし確かに、冷めてしまうのはもったいない。ここは迷宮の中じゃないんだから、温かいご飯をすぐに食べないのは罰当たり、だ。


「いただきます」


おれはぱんっと手を合わせてから、喜々としてご飯を食べる事にした。

そしてお兄さんの、卵を焼くのが上手と言うのを、しっかりと実感した。

フォークを入れるとぱつん、と卵焼きの皮がはじけて、中から半熟のとろとろが出て来る。

それを皮といっしょに歯切れのいいパンに乗せて、大きく口を開けて一口。

卵は味が濃いらしく、少しだけの蜂蜜の甘味が何とも言えない。あましょっぱいっていうような強いものじゃないのに、これは、おいしいって断言できる。

皮のぷるぷるした食感と中身の、口の中で広がる半熟卵。

これは一級料理人の卵焼きのようだ、なんて思っちゃったんだけど。

お兄さん、本当にこれだけしかできないんだろうか。

気付けば卵もパンも取り分はなくなっていて、お兄さんが半分にわけてくれた若芽の和え物をおれに差し出す。


「この和え物は毒だしの効果もあるから、食べると体の調子がよくなる。食べなさい」


世話焼きのおふくろさんみたいな事を言う人だ。

なんて思いながらそれを口にしたら、結構苦い。顔が一瞬しかめっ面になったけれども、ぷちぷちとしたこの繊維の弾力、結構楽しい。これは歯ごたえを楽しむ食べ物だ。

苦みを軽減するために使われているとろみのある、チーズとの相性が抜群なのはまちがいなかった。

まともな家庭料理なんて久しぶりだし、おれの事も考えてくれた料理なんてもっと久しぶりだ。

気付けばぼろぼろ泣いていて、お兄さんが腕を伸ばしてくる。

そしておれの顔を袖で拭いてくれた。


「よしよし、そんなに泣かなくても食べ物は逃げて行かないからな」


「はい」




昼からの仕事の一つに、お兄さんが持ってしまった呪いの本のしわけという物があった。

これは同じ色の背表紙たちを集めればいいだけ。

お兄さんは、仕事とかで手に入ってしまって、うかつに本屋に売れない、力の強い呪い本をいくつも持つ事になってしまったそうで。

うっかりタイトルを読むと呪われるから、始末に負えなかったらしい。

おれはお兄さんの道具袋に入り込んで、その本の分類訳をするのだ。

……この世界の道具袋は、やろうと思えば家のような使い方もできる。

魔法でとても容量が大きくなっていて、中に入って寝る事も可能なのだ。

その分、持ち逃げされた時に被害が甚大だったりするんだが。

おれはお兄さんの道具袋の中に入って、本棚に適当に押し込められたそれらに、目を丸くする。

人生で見た中で一番の量だったんだ、驚くしかないだろ?

ずっと色別に本を分けていれば、いきなり。


「くぁ、かわりもんだ、かわりもんだ!」


背後から声が聞こえてきて、お兄さんの袋なのに誰だろう、と振り返ってしまった。

振り返りざまに、デュエルシールドを展開して叩き込み、背後の本棚が雪崩を起こしたんだけど。

これ片付けるのもおれなんだろうな……


「うひぃ! いきなり攻撃してくる程度には警戒心があるのかよ! まってくれ、おいらは敵じゃない」


喋っていたのは、


「小鬼?」


そう。魔物の中でも低級であるけれども、街をつくるくらいには知恵があるとされている、ゴブリンだったのだ。


「小鬼じゃねえよ、おいらは呪い本の部屋の番人。ここの本の力が結集されて生まれた、この部屋の主さ」


「それは失礼した。で、用件は?」


呪いの本は強力らしいから、力が集まって変なお化けを作る事もあるんだろう。

深く考えたら負けだ。


「……あんた、おいらが知ってる中じゃ本当に変な奴だなあ……用件は一個だけ。たまには本棚の埃を落してくれよ、ってだけさ」


「ん、じゃああとでお兄さんに頼んで、掃除道具借りて来るわ」


本も綺麗好きなんだな、とちょっと感心しつつ、おれは前のパーティの事を思い出す。

掃除とか洗濯とか、おれが押し付けられてたんだけど……あの家いま、維持できるんだろうか。

なんてな。

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