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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
いかにして盾師と隠者は日常をつづっているのか
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瞳術=心正しいという束縛


この膠着状態どうすっかな、と思ったその時だ。


「子犬、あまりこの女を見てはいけない。心の中に術を埋め込まれるぞ」


ひょいとお兄さんが、おれの眼を覆ったわけだ。そこで視界は遮断される。


「隠者殿……それはなんだい」


なんか得体のしれない物に対する声で、ララさんがおれを示して言っているようだ。


「生き物だが」


「……いや、そんなのを聞いてるわけじゃなくってね……関係性ってものを聞いたわけでね……なんでそんなにその子とあんたの間に、因果が絡みついているんだい」


お兄さんの返答はおれでも、ずれてんなって思ったからララさんも同じように思ったらしい。ちょっと疲れた声で言い返した。

因果って何だろう。絡んでいるってなにも絡んでいないのに。

ララさんの眼に、おれとお兄さんはどんな風に見えているんだろう。

眼と言えばルヴィーもなかなかの眼を持っているらしいから、彼女に会った時に聞くのも手だろうか。

しかし疲れたララさんの声に、お兄さんは軽い調子で返す。


「ララの眼ではそう見えるのか。別段私たちは変な事はしていないし、疚しい事もしていない。忠実な番犬とその主にして、相棒でもあるだけだ。何か問題が? そうだ、この子が所有している咒の品物が、いささかそちらに不都合なことをしてしまったようだ。そこに対しては謝罪しよう。この子は仲間が無理やり押しつけたものを、持っていなくてはいけない身の上でな。道具整理をしたら何かが複合してしまったらしい。あとでララの呪術師たちには、魂に効く粥でも処方しよう」


数秒、相手の言いたい事を理解するための沈黙が流れた。


「私としてはそれ以上に、絡みついて切れなくなった因果の方が気になるんだがね。まあいい、あんたが処方する粥は一流だ、今日中に作っておくれよ。そうだ、凍った床を元通りにした時に、軽い修正でもかけただろう。劣化したところが直っていてそこはいいけど。あんた自分の都合のいい呪い以外を凍らせるっていう、そこの所どうにかしておくれよ」


「別に選んで凍らせているわけでもないんだが、相性でもあるのだろうと思うんだが」


この会話から、お兄さんが呪いを選んで凍らせているらしいって事はわかった。

お兄さん凍らせる事に関して、かなり凄腕らしい。

寒空の祝福がかかわっているのだろうか。

凍れる生贄という立場だからできるんだろうか。

分からない。推測は確信までは至らない。


「あんたそういう部分本当に、俗世間から離れた感じがして隠者って感じだわね。いつも通り。……でも変わったね」


何をお兄さんに見たのか、ララさんが感慨深げに言う。変わった、お兄さんが変わった。

おれと出会ってからのお兄さんはどこも、変わってはいないのに。


「少なくとも、女の子を腕の中に囲うような奴じゃなかったのにね」


「冷えた子犬を温めているだけだ。私の大事な大事な子犬だ。温めるのも当たり前だろう」


お兄さんがおれをより一層抱えたらしい。体に回る腕が少ししつこくなる。


「その自信に足元をすくわれないようにね。説教が必要かと思ったら原状復帰はさせているから、説教の時間があまりなくて済んだ。これから私は東区のボスたちと会合があるんだよ。あんたが東区入りするからね。今まで拮抗していた四区のバランスが崩れないように、話し合いだよ。全く。公国の方には遠慮なく抗議をしておくように、ジョバンニに言っておいたからあんたも、躊躇するんじゃないよ」


「燃やされた借り物の書物があってな、神殿の方に事の次第を説明する手紙を送る所だ」


「うげぇ、砂の神殿のかしら。あそこは太古の書物が残っているってのに……公国も終わりだわね。一国が傾く書物を燃やしたんじゃない事を祈るよ」


「ちなみに躊躇なく家を爆破されてな。守りも何もくそもないわけだ」


ララさんが蛙がつぶれたような音を上げた。

なんか非常にヤバイ物を聞いたっていう音だった。


「あんた相当怒ってるね」


「当たり前だろう、せっかく貸してもらったものが灰になったのだから。灰になった物を元通りにする術など存在しない。解読途中の物も多かったのだから」


ぱちぱち、とお兄さんの怒りに呼応したように、周囲の水分が凍る音がした。

お兄さん自体は温かいのだけれども。

そして言いたい事を言ったララさんは去って行った。

そこまで言ってようやく、お兄さんはおれから手を離したのだ。

気のせいかもしれないけれど、ララさんをかなり警戒しているんじゃないか。

これまでお兄さんが、ここまでおれを抱えて見ないようにした御仁はいない。

皇帝の眼にすらおれを見せたのに、ララさんが見ないように……いやおれがララさんを見ないように、かな?

目を覆うなんてなかった気がするのに。


「……ララの奴、拘束の瞳の精度が上がったな」


ぼそりとお兄さんが、面倒くさそうに言った。拘束の瞳って何だろう。


「お兄さん、それって何」


「ああ、子犬にはきっと通用しない術だ。知ればきっと通じてしまうが……私が教えなくても誰かが教えるだろう事を考えると、私が教えた方がいい」


それは無知の防御にまつわる事かもしれない。

でも、知らないでいきなり、お兄さんのいない場所で説明されるよりも、聞いた方が対策を考えやすいかもしれない。

お兄さんもそんな思いで、説明してくれるんだろう。


「拘束の瞳とは、瞳術の一つとも体質ともいえる。相手の心の無意識の部分に、制御をかけてしまう力だ。例えば、ある特定の人物だけは殺せないようにする、この術だけは使えないようにする、そう言った力だ。ただしこれは水の神殿の、“義の宝珠”と呼ばれる魔道具に認められなければならない。その宝珠は、試練を受ける生き物の心の正しさを常に測っている。心正しくなければ、その力を分け与えない宝珠なのだ」


「だからララさんは、義のララって言われているの」


「そうだ。たとえ口でどんな事を言っても、心が正しくあるからこそ、ララはその力をいまだ宿している。あの力を十年以上宿すのは大変なのだがな」


だよなあ、簡単に暗示をかけられる力みたいだものな。

普通は力に呑まれておかしくなりそうだ。

伝説の何とかとか、そう言うのを手に入れておかしくなって、指名手配になる冒険者や、魔王の遺物を入手して力に溺れて、やっぱり指名手配になるやつらも多いのだから、ララさんがそんなすごい力を維持し続けるのは、すごい事だ。

でも。

どうしておれを、隠したんだろう。


「お兄さん、どうしておれを隠したの」


「あれが私に対して、街の安全のために制御の暗示をかけようとしていたからな。それの余波を食らってはいけないと思ったのさ」


「余波なんてあるの」


「あるとも。それに酔うと動けなくなるからな」


体験した事があるように、お兄さんが笑った。

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