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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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識字=知恵だけが身を守るものじゃないんです

「字が読めない?」


お兄さんの声に疑問が生まれている、そりゃ当然だ、普通の人間なら、文字は読めるのだ。

この世界では特に。冒険者がギルドでミッションを受注するのに、文字が読める事は絶対条件なのだ。

事実幾つになっても文字を知りたければ、そう言った学校に通えるように制度が整っている。

そんな世界で文字が読めない、というのは信じられない事実だろう。

お兄さんのその表情の唖然とした感じ、それももっともな話である。

しかしおれは文字が読めない。

それにはちゃんと理由がある。

お肉を飲み込んだ俺は、その理由を一言で教えた。


「文字が読めないと、その分、魔力耐性が跳ね上がるんですよ」


そう。

この世界の魔法は、対象者が理解できれば出来るほど、威力が上がる仕組みなのだ。

たとえば、火球の術を使ったとする。

それが炎の玉を相手にぶつける術だと知っていれば、受けた時に炎の痛みを感じるのだ。

しかし、炎の痛み……火傷とかを全く知らない人間だった場合。

たとえ直撃したとしても、術の効果は半減してしまうのだ。

だって理解されていないから。

魔術で生み出された炎がどんな物なのか、知らない人間には通用しない。

それと同じで、文字が読めなければ、魔術師が詠唱している間、周囲をとりまく文字の意味が分からない。

そうすると、発動してから理解できるため、当たった時の被害が最小限になるのだ。

不可視の毒の術なんて物だったら、全く効果が無かったりする。見えないし感じ取れないからだ。

それは存在しない物になり、無効化されてしまう。

ほかにも、呪いの本などを持っていたとしても、何の呪いもうけなければ、たとえ呪われた本をうかつに広げて見たりしても、文字が読めないから呪いがかからないとか。

不便な事はたくさんあるけれども、利益になる事も多い。

おれは父さんと母さん、双方からその利点のために文字を教わらなかった。

文字を教わらなくても生きて行けたし、パーティを組んでいれば誰かが文字は読める。読めないでミッションを受注したりしないから。

そして呪いの物の類は、おれが全部引き受ける事で、とんとんだったのだ。

だからおれは文字が読めないのだ、と言えば。

お兄さんは目を丸くしていた。

そんな理由があったなんて思わなかったのだろう。


「だからあのパーティは、呪いの類にかからない腕のいい奴らだと、そういう評判だったのか。なるほど、“無知の防御”が行われていれば、確かに呪も魔術も意味をなくすからな」


「今となってはそこら辺をどうしているのか、おれにはわかりかねませんけどね。おれをいらないと言って、粗大ごみ置き場に捨てたんですから」


「そういう意味では、いい拾い物をしたようだな。私は。体が頑丈なのは盾師だから当たり前だろうと思っていたが、魔術は減退、呪いは無効化、そんな性質を持っていたとは」


「だからお兄さん、番犬の条件は、おれに言葉で教えてくださいよ。おれは文字が読めない分、言葉を違えない事をおれの誇りに誓っているんで」


「ああ、わかった」


お兄さんがそれから、一つ一つ簡潔な言葉で教えてくれたものを聞いて、おれは頷いた。


「良かった、それなら番犬なんて不慣れそうなおれでも、十分出来そうです」


「なら、明日からよろしく頼んだ」


「はい、お兄さん。……番犬だから呼び名はご主人様とかですか?」


「好きなように呼んでくれれば問題ない。隠者は滅多な事で実名を教えたりできないからな」


実名は縛りを産むという定説は、隠者のお兄さんであっても有効な物であるらしい。


「そうだ、子犬の名前を聞いていなかったな」


「おれも好きに呼んでくださいよ。なにせ騙されやすいの前提なんで、名前を両親がつけなかったんで」


名前が無ければ署名は出来ない。証拠が残る契約は出来ない。

名前もない事は、俺の防衛手段であった。

その分、あんたとか、おまえとか、屑とか、役立たずとか、結構色々言われまくっていたけれどもな。




そして翌日、おれは鶏と同じ時間に目を覚ました。

暖かい寝床はお兄さんと共有だけれども、お兄さんはまだ眠っている。

おれはお兄さん支給の寝間着から、そこそこの作業着に着替える。作業着の方が生地が分厚くて、斬撃とかを軽減できるのだ。

これもお兄さんが支給してきた。けっこういい魔獣の皮を使っていそうだけれども、お兄さんの経済観念は不思議だ。

先物買いというやつなのだろうか。よく名前は知らない。間違っているかもしれない名前だけれども。

着替えたらオアシスの水を水がめに移して、外にある鶏小屋に入って、卵をとる。

しかし。


「これ、いてっ、つつくな、いっ、ただの鶏かよお前ら!? やけにくちばし痛いんだけど!?」


卵をとるだけでも、かなり鶏に攻撃された。というか砂漠のオアシスで鶏をちゃんと育てるのもなかなかだ。おれは鶏小屋を開け放ち、鶏をオアシスの、草の茂る場所の囲いに追い立てていく。

この間もつつかれたり引っかかれたりする。


「お兄さんよくまあこんなの、がんばってたんだな……」


つつかれまくって痛かった。痛みに強い盾師が。

だのにお兄さん、おれが来る前までこれを一人でやっていたのか。

まあいいか。

卵を室内に持って行き、おれはお兄さんを起こす。

ここまでが朝の仕事だ。水を用意して鶏の面倒を見て卵をとる。そしてお兄さんを最後に起こせばいい。

楽な仕事、と思った矢先だった。

ぐいっと腕を掴まれたと思えば、お兄さんはおれを布団の中に引きずり込んできたのだ。

寝ぼけているらしい、しかしすごい力だなお兄さん!

重いデュエルシールドを振り回すやつが、対抗できない力の強さって相当だ。

そのままがっちりと抱え込まれれば、おれも眠くなってくる。

仕事の初日、おれは睡魔に負けて二度寝の結果に終わってしまった。

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