物件=隣の部屋は廃墟
ちょっと加筆してます。
「さすがギルド、紹介できるものが集合住宅しかないのはしかたがないな」
大きな三階建ての四角い建物をみて、お兄さんが言う。おれは初めて見る形式の家だ。
集合住宅というのだから、いろんなやつが同じ建物に暮らしているのか。
「おれこんな建物初めて見ましたけど、長屋じゃないんだ」
長屋はわかる。ずらっと長く長くなった家の連なりなら、知っているし見た事もある。
しかしこれは縦に長い。背が高い。
「長屋は面積ばっかり使うからな、高さもだして三階くらいまで高さを出して、住居にした方が住人をいれられる」
マイクおじさんが、一つ目と二つ目を見せながら言う。
その四角い建物の三階、一番上である。
そしておれには、一つ目と二つ目の違いが判らなかった。
同じ間取りだし、同じ素材だし、何が違うのだろう。
「お兄さん、違いが分からない」
「多少の日当たりの問題と、荒み具合の問題だ」
確かに二つ目の方が荒んでいる気がする。
そして家具なんて置いたら、一人用みたいな感じだ。
おれの視線に気づいたのか、それともお兄さんに謝る必要があったのか。
マイクおじさんがお兄さんに言う。お兄さんが借りるから、お兄さんが主体だ。当たり前。
「もともと一人用の住居ばっかりなんだが。申し訳ないな、隠者殿。騒がしい所は好きじゃないだろう。だがいきなりで一軒家は探せないんだ。一軒家の類は、チームで住みたい奴らが、順番待ちしているくらいなんだ。ギルド所有の家はそれだけ、色々便宜が図れるしな」
「いや、騒がしくともこの東区というだけで、静かさとは縁がないと思っているから気にするな」
お兄さんが言っている矢先に、北の方から煙が上がる。続いた爆発音。
「何で東区って爆発音が響く世界なの、マイクおじさん」
耳をふさぎながら聞けば、苦笑いと一緒に教えてもらえる。
「体液が爆薬みたいな種族とかも普通に、このあたりで暮らしている事もあるな。あとは若君たちがいがみ合って争う事が多いから、爆発音に皆なれて、これ位は日常になってしまって誰も苦情を言わないというところか」
「若君って」
「その前に体液が爆薬というところで突っ込まないのか、子犬」
「だってそれ位なら理解できるし」
若君って迷惑な奴らだな、誰だよそれ。たちって複数形なのかよ。複数迷惑な奴らがいるのかよ。
しかしえらそうな名称だな。
眉間にしわが寄ったおれに、お兄さんが言う。
「東区のえらい奴の子供だ。このあたりを牛耳っている実力者たちでな、親はそこそこの仲なんだが、子供たちはなぜか、喧嘩が絶えないんだ」
「仲良くする努力は」
出来ない位い相いれない奴らなのだろうか、それとも決定的に趣味嗜好が合わないのだろうか、それとも己の矜持とかいうくそくらえな奴で、歩み寄れないのか。
周囲を巻き込むのをやめてほしいんだが。
お兄さんは肩をすくめるだけだ。
「お互いしないらしい。私がいた頃から変わらないのを感じるに。まあ多様な種が暮らせばそれだけ、色々な音が響くわけだ。おまけに東区に研究区域があるぶん、爆発の回数も多い」
「研究区域?」
「新しい薬の調合や、武器の素材の錬成を研究する区域だ。ここが一番爆発しているな。たいてい六時まででそれを終わらせるという事で、近隣住人ともめない」
「はあ」
「さて、このあたりがいい物件だな、後はがれきのなかの物件だったりする。ちなみに隣は爆発を起こして大穴が開いて、誰も修理してまで住みたがらないから、開いている空間だ。ここはわりあい好きそうじゃないか」
最後三つ目、二階のその物件に案内される。
おれはお兄さんがそこの物件を見て、ちょっと笑ったから、お兄さんはここを気に入ったんだなと思った。
砂漠の住居よりも広いし、収納は多いきがする。そして隣の部屋が吹っ飛ばされて大穴が開いて風通しがいい。
なんというかこう、屋根以外の壁がないような感じのお隣だ。
骨組みがよく見える。まあこれを修理するのは大変だから、放置するしかないかもしれない。
「これは薬草を干すのに都合がよさそうな隣だ」
「風通しもいいし、上は屋根みたいなものだし、洗濯物を干すのに都合がよさそうですね」
「同じものを見ても、考えるところは違うのか、あんたら。まあ個人差があるものだがな」
「マイク、これでいい。今日から住めるか」
「まだ掃除屋を入れてないから、埃だらけだがいいのかよ」
「掃除なんて、沙漠の砂まみれと似たような物だろう、これ位なら明日掃除すればいい。私たちは家を見事に焼き尽くされて、宿をとるか屋根のある所に転がり込むか、という現状だ」
「だったら何日か待ってくれれば、掃除屋も入れて綺麗にしてから明けわたす。ギルドの上の部屋を貸せるはずだ。ジョバンニさんとララさんがあんたに会いたがっていた」
「なるほど、それでいいか子犬」
「おれは屋根がある所ならどこでも」
野営だって構わないんだし。でもどうせ街のなかにいるんだったら、雨風をしのげる場所に泊まりたいだけで。
「じゃあ決まりだ、マイク、手続きを頼んだぞ」
「はいよ。この部屋と隣の廃墟空間を借りるって事でいいか」
「ああ。集合住宅だから、家賃はどれくらいとる?」
「あんたがここにいるってだけでありがたいし、凡骨の所在が分かりやすいってのも助かるから、結構安くしてもらえるだろうな、ジョバンニさんに聞いてみる」
そうか、集合住宅は持ち家じゃないから、家賃という物がかかるのか。
そんな事も知らなかったおれだった。
北区に戻る間、橙色の提灯がひしめき合う通りを珍しい、と見ている間、爆発音は本当に聞こえなかった。
その時間以外は聞こえないから、東区の人たちは気にしないのかな、なるほど。
ところ変われば何とやらってやつだろう。
おれとしては、朝の何時くらいに爆発が始まるのかが、実に興味深い。
慣れないうちは飛び起きて、盾を構えて気が抜けないかもしれないから。
戻ってきたギルドの待合室では、日ごろの疲れをいやすかのように、酒の飲めない人たちが食事をしたり、知り合いと情報を交換していたり、やっと採取が終わったらしい人達が座り込んでいたりした。
ギルドの待合室として平和な感じだった。
そこで、久しぶりの人を見た。
「あ、カーチェスだ」
「何だ子犬、覚えていたのか」
「カーチェスは印象に残る顔してるし、髪の色とかも結構特徴あるし」
彼は何かを受け付けの人に頼んでいた。
おそらくだが、薬師の方で採取のミッションを頼んでいたのだろう。
受付の人は困った顔になっている。
「そんな珍重される物が、このあたりで採取できるとは思えないのですが」
「迷宮で発見したっていう報告があったそうなんですよ、だから迷宮に入るミッションとして注文してほしいと頼まれまして」
「わかりましたよ。そろそろ、その病気が始まる季節になりましたしね」
「あるとないとでは、やはり薬の手順に違いが出てしまいますから」
よく分からない会話だが、迷宮に入るミッションを頼んでいたらしかった。
「本当は採取専門の、私たちのような人間を連れていける人たちがいいんですけど、この前のとんでもない奴らの結果、薬師ギルドは同伴しない事を条件にしてしまいまして……こまったことに」
アリーズたちの行いのために、ミッションの難易度が上がったらしいな、この会話を聞くに。
専門の採取者じゃないと、変に間違ったものを持ってきて、徒労に終わるだけっていうのもあるわけだからな。




