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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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断罪=自分にすらあったもの。


そこでおれは、思い出したのだ、数か月前のことを、こいつらとかわした勝負を。


「お前たちさあ」


開いた口から何を言い出すのか、と身構えたアリーズたち。

そいつらにおれは、言った。


「おれが勝負に勝ったのに、おれの事ありもしないでたらめ言いふらすのな。それってすごく卑怯じゃないか? おれが卑怯ならお前らは、誰かと勝負する価値すらないって事にならないか」


そう。あの時、扉を攻略した方が勝ちという勝負で。

勝ったのは扉を開いたおれだ。

でもこいつらは、それを忘れたようにおれに、ひどい悪口を言う。

それは勝負をすると決めた、自分たちの誇りに対しても裏切りだ。


「あんな勝負無効だ!」


「自分が勝てなかったから無効なんて、どこの餓鬼だよ」


声が呆れた。そして自分にも呆れた。

こんな奴らと仲間をしていたのか、二年近くもおれは。

おれも見る目がないんだなと、呆れたのだ。


「そんな勝負をしていたのか。……冒険者が何かを賭けて勝負をする事は、神聖な行為だ。勝利の神ルーチアまでも冒涜するのか、お前たち」


お兄さんがほとほと呆れた、という声で言っている。


「ドリオン、これはかなりの問題な人間たちだ、このままほかのギルドマスターの所に向かい、処罰を決めた方がいいぞ、一度道を踏み外した冒険者は、二度目をやりやすい。……今度はこんな騒ぎで済まない事になるだろう」


お兄さんの提案に、色をなくすアリーズたち。そこまで行ってしまったら、逃げ道がないからだ。

悪評に重ねての様々な、おれに対する行為。

おれだから死んでいなかっただけで、ほかの奴らだったら死んでいた事。

それを踏まえると、ギルドがこの事を重く見る必要はありそうだった。

シャリアが身震いしていた。自分も捕まり、厳重な処分を受けると思っているのだろう。

こいつも役立たずと捨てられたのだけれども、やった事はやった事だものな。

ドリオンはどうするのだろう。


「帝国の勇者として抗議する!」


それでもアリーズは抵抗した。おれが悪いのだ、おれが騙したのだと、ありもしないでたらめを重ねる。

いい加減にしてくれないかな、と思ったけれども、手を出せなかった。

ここで手を出せばこいつらと同じところになる。

そして盾師としての誇りを手放す気がしたから、うるさくても手を出さなかった。

盾師が動くのは仲間のため、盾師が戦うのは命を懸けた時。

血を被り泥をかぶり仲間を守るために、最後までたち続け盾になる。

そんな誇りを失ってしまう気がしたから。


「こちらもこんな屑をアシュレによこした帝国に、抗議をする」


びしゃりと言い切り、ドリオンが指を動かす。

そして四人を糸でひとまとめにし、自分の背嚢の中に放り込んだ。


「しばらくそこで、おのれのした事の問題点を考えていろ。思いつかないならまたお前たちの評価が下がるだけだがな」


ドリオンはそこまで言ってから、おれに向き直った。


「お前にも多少の問題がある。何故報告を怠った?」


「報告を怠る?」


「虐げられていたことを、何故ギルドの誰にも言わなかった。言われなければギルドはすぐには動けないんだぞ」


「怖かったから」


おれの真っ正直な言葉に、ドリオンが目を見開く。


「おれはアシュレがどんな種族も受け入れるなんて知らなかった。北区しか知らなかった。人間の街で、あいつらと同じようにオーガとの混血を拒むと思っていた」


おれの発言を、ドリオンは遮らない。


「混血だと知られて、あれ以上ひどい扱いになるのは怖かった。もっとひどい事をされたら、さすがに生きていけないと思った。それに混血だと知られるまでは、いい仲間だったんだ。あいつらの本性を見抜けなかった、おれの責任だとも思ってた」


下に向けていた顔をあげる。腹はくくった、どんな罰だって受けよう。


「お前はギルドの登録書類をきちんと読まなかったのか」


呆気にとられた声のドリオンに、おれは言い返した。


「おれは文字を一つも理解できない」


「っ!? 無知の防御!?」


見開かれた瞳は、信じられないと言いたげだった。


「なぜそれで、雷を操ることができる」


「あれは呪いの本の力で、おれが覚えたものじゃない。第一雷みたいなものでもない」


「……これもほかのやつらに報告だな。今回の対象は双方問題が多すぎる」


ドリオンは溜息をつき、シャリアに目をやった。


「君は抵抗する気があるか。これから君もギルドに連れて行く。そして聞き取り調査ののちに相応の処罰がある」


「した事をつぐなえるなら、どこにでも」


シャリアがおれの後ろから抜け出し、ドリオンを見つめる。声は震えていたけれども、シャリアは決意していた。

おれが割って入る事なんて、必要なさそうだった。

そこでおれはやっと……お兄さんを振り返った。

お兄さんはいつも通りの顔をしていて、見る限り嫌悪の感情はそこには、なかった。


「ドリオン。これは私が連れ帰る。処罰の内容などがあった場合、私の所に連絡をよこせ。手紙などこの子犬には読めない代物だ」


ドリオンと対等に語るお兄さん、そしてそれを違和感なく受け入れているドリオン。

お兄さんの交友関係がかなり広いのか。

そこまで言ったお兄さんが、おれに手を差し出す。


「おいで、子犬。目的は達成した、帰ろう」


おれの帰る場所はお兄さんの所なのだと、さらりと告げられた気がしてうれしかった。


「はい、お兄さん。でも市場を覗きましょう。家には何も食べ物がないですし、保存食も色々使っちゃったから」


「子犬はしっかりしているなあ」


お兄さんはくすくす笑い、目を細めてこう言った。


「お前の望むように、私の子犬」




道は騒ぎが一段落したからか、人がさあっといなくなっていった。それを確認して市場に向かえば、市場は本当に物の溢れた場所だった。

流石に生肉や生魚はなかったけれども、干したのや燻製したのは色々そろっていたし、野菜も結構ある。

面白い物がたくさんあるし、いつまでも見ていたかったけれども、帰る時間があるから、今日食べる分だけを買う事にした。

必要な物はまた、アシュレに行って買い揃えればいいのだ。

食べられる野草はフィールドにたくさん生えているし、時間があれば魚をオアシスで釣れる。

でも今日帰ってすぐに食べるものがないから、買うだけだ。


「子犬」


歩きながらふと、お兄さんが話しかけてきた。


「子犬はいままで、アシュレの誰かに混血の事を何か言われた事があったか?」


記憶を掘り出す。

……そういえば、なかった。混血だからなんだかんだ、なんて誰も言わなかったし、お店で不自由した事もない。

おれは普通の扱いだった。

どうしてそれなのに、おれは混血である事が罪であるかのように感じていたのだろう。

言われて気付く事は多すぎて、おれは何も見ていなかったのかもしれない、とどこかで思った。


「アシュレの誰も、それを否定的な目では見ない。基本はな。あいつら以外の住人は、お前にも普通の対応だっただろう」


「……はい」


「そこに早く気付ければ、お前も助けを求められたのだろうに」


「言い訳をしてもいい」


「私だけならいくらでも聞くが」


「アシュレに入ってすぐに、ギルドに加入したんだ。それで盾師を欲しがってたあいつらとすぐ組んだ。……知られるまでは普通に仲間をしていた」


裏表がひっくり返るようなあの時は、いまだに傷になっているのかもしれない。


「気付かれたら皆、ああなるんだと思ったら怖くて、周りと交流なんて持たないように、家に引きこもったり、買い物もフードを被って隠してやってた」


それがいけなかったんだろう。助けが欲しかったならば。


「いやだなあ、おれ。視野が狭すぎて」


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