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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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相対=知られてしまう事実


シャリアはそのまま、男と一緒に砂の神殿に行くらしい。二人だけでちょっと心配だけれども、一人で沙漠のフィールドを歩いていた男が同伴なら、まあ生きて到着できるだろう。

その後の事は知らない、おれは関係ないって言えたらよかったのに。

なんとも言えない気分になるのは、おれが弱いせいなのだろうか。

力比べだったら、負けたりしないんだけれども。

シャリアを見送ろうとしたその時でもあったんだ。

このままお兄さんの所に、隠れているだけではいけないとどこかが怒鳴り散らしたのは。

それでおれはお兄さんを振り返った。行ってもいいだろうか、だめだろうか。

番犬の役目を一時的に、放棄しても許されるだろうかと思ったんだ。


「お兄さん」


その呼びかけだけで、お兄さんが全部わかってくれるなんて思わない。

でも何て言ったら通じるだろうと思ったら。

お兄さんが苦笑いをした。


「決着くらいはつけに行きたがるだろう、と思っていれば。本当に行きたがるとは。……子犬にとってつらい事もきっと多い選択肢だろうに」


俺の考えを見抜かれてしまったらしい。お兄さんもひょいと旅装を肩に下げて、シャリアたちに声をかけた。


「二人とも、私たちも同伴していいだろうか」


「えっ」


「あなたほどの人物なら、願ってもいませんが……いいのですか」


シャリアが驚いた顔になり、男が怪訝そうな顔になる。

二人とも、おれたちが一緒に来るなんて考えもしなかったんだろう。

でもおれは、シャリアに告げた。


「おれも決着付けないと、あいつらおれの事で嘘っぱち並べて、風評被害著しい事になるだろ」


シャリアもそれについては、思う事があったらしい。自分さえ捨てた奴らの思考回路だから、下種でも予想できたようだ。


「だけど、きっとお姉ちゃん傷つくよ」


「これ以上何処に瑕がつくんだよ」


笑い飛ばして、シャリアに言う。


「お前の事も許してないけど、同じ道を歩くっているだけさ、シャリア」


「……ごめんなさい」


目を見開いたシャリアがそう言って、こいつは公正の余地があるな、と思ったおれは間違っていないと思った。





このフィールドで現れるのは、どうしたって熱に強い奴らで、火の術の効果が薄い。

おれはいきなり現れた砂蟲という、大型の吸血蟲を前に、周囲の事を見る。

シャリアが詠唱に入った。お兄さんは何もしないで見ている。懐からメイスを取り出したのまでは認識した。そこで男が抜刀。切りかかるのは前衛だから。

前衛のその男に注意を向けた砂蟲。襲い掛かる速度はそこそこの物だ、でも遅い!

おれが男との間に割って入り、デュエルシールドを展開。顎にアッパーを食らわせる要領でシールドを上にはねあげ。やつの動きを止める。

お兄さんが得たりと踏み出し、体勢の崩れたそいつを横なぎにメイスではらう。

重量制御の魔法が働いていたのだろう。何かの文字が燐光を帯びてメイスにとりついていて、普通のメイスではおおよそ考えられない威力で砂蟲の頭部をひしゃげさせた。

そのタイミングで、抜刀された刀が頭部を完全に切断。倒れたそいつの体液は酸性。シールドで前に出ていた二人をかばう形で、おれが受け止める。

ほんの数分の出来事で、シャリアの詠唱は意味なく終わった。


「……二人はとても強いんだな……」


男が呆然とした声で言い、おれはお兄さんに腕をとられる。


「子犬、酸で皮膚が焼けている。少し治しておこう」


お兄さんは目ざとく、おれの二の腕にとんだ蟲の体液で、焼けた皮膚を見つけたらしい。

すごい観察眼だ。

シールドから軽く体液を振りはらい、お兄さんの治癒を受ける。


「……ねえお姉ちゃん、それがお姉ちゃんの実力……?」


シャリアも声をかけてきた。お兄さんから、熱中症になりやすいのを見抜かれて、被せられた天津水のヴェール越しに。


「これ位普通だろ?」


「嫌普通じゃないからな? 砂蟲は沙漠の銀級個体。これだけの大きさは、十人がかりで倒すのがやっとだ」


「でもおれたちだけで倒せただろ」


「二人がとても強いからだろうが……聖者殿、あなたの子犬さんはどこまで規格外なんです」


「私も単独でこれ位は倒せるからな、似たような考えになってしまう」


男が頭を抱えた。シャリアも頭が痛いという顔になった。

取りあえず、素材になる皮をお兄さんと二人で剥ぎ、内臓を処理して牙も引っこ抜き、薬になる目玉もほじくりだす。

いい収穫だ、マイクおじさんがきっと喜んでくれる。

道具袋に詰めて行けば、周りが何とも言えない顔でいる。


「処理までうまいのか……」


「お姉ちゃん磨きがかかってる……」


「子犬、後で少し分けてくれ」


……もしかしたら、おれって、色々規格外なのかな。

ここでようやく、おれは自分の能力に疑問を感じるようになった。

いや、戦闘能力は、鋼玉クラスだからあるのは自覚したけれど。

その他の補佐系の能力とか、生きるために必要な事とか、実は結構高い?


「子犬の手際がいいから、私が手伝う事が少なくていい」


お兄さんが頭をなでながら言う。でも。


「こんな大型、一人で皮を剥いでいる間に内臓が腐ります普通。お兄さんがすごいんですよ」


お兄さんが皮と肉の間に刃物を入れる速度と手つきを見ると、おれなんてささやかだって思っちゃうんだな。本当に。

そんな風に、何度か魔物に遭遇して、全部倒したり逃亡させたりしていれば、もう砂の神殿は目の前だ。この前見た時と同じくらい、人が多くてにぎやか。

砂の賢者は元気かな。ってちらっと思った。

あ、行商の顔触れが変わっている、あとでお兄さんにお願いして、一緒に回ってもらおう。

家に食べ物ないし、こう言うところで仕入れる珍しい物って、おれ大好き。

稼ぎになりそうな素材は幾つもあるし、この前ギルドで素材を換金したから、お金はまだまだ余裕があるし。

さて、あいつらはどこにいるんだろうと、シャリアと二人見回していれば。

あけすけな殺気を感じて、おれはとっさに隣のシャリアをかばう形でシールドを展開した。

片手で呪い本に触れながら。


『目立ちたがりの殺気だなぁ! おいらには考えられないずさんさだ!』


触れた瞬間に話しかけてくる本。道中目立つから、会話が出来なかった事に不満があるらしい。

こいつさみしんぼだからな。


「そんな恨みを買うことした覚え、ないんだけどなー」


『勝手に恨む奴らが多いから、俺様みたいなのが生まれるんだろ?』


「お前一人称統一しろよ」


『おいらたちは集合体だから、一人称はいちいちずれる』


「なるほど」


デュエルシールドを、シールドのみ展開して斬撃を受け止めたおれは、相手を見るため視線をやった。

そこにいたのは、あいつらだった。やっぱりぼろぼろで、ちょっと笑えるくらいだった。

お前らそんなになって何してんだよ。


「皆なんであんなに……ぼろぼろ」


おれに庇われた形のシャリアが、そんな風に呟いた。

でも、そんなおれたちの疑問を上塗りする、ひどい言い草が響き渡った。


「死霊使いにまで堕ちたのか、この混血オーガ!」


「シャリアは死んだのを確認したのよ! 私たちへの復讐のために、シャリアの亡骸を利用しないで、汚らわしい!」


「いろいろおかしいと思ってたんだけどさぁ、邪悪な力と契約してるんだったら、あたしたちが油断して負けるの当たり前よね!」


大通りで、大きな声で。

おれに対してあんまりな事を言い放ったのは、暁夜の閃光のメンバーだった。

見ない顔もいる。そいつは新入りらしく、あいつらの言葉を信じておれに、敵意の満ちた瞳を向けていた。

死霊使いは邪悪な力を使うという事で、どこでも嫌われる職業だ。

おれの周りにいた人々が、距離を置くのがすぐわかる。

背後のお兄さんが、不愉快そうな空気になったのも伝わって……血の気が引いた。

お兄さんにとうとう、おれがオーガとの混血だと知られたからだ。

ハイエルフとの混血なのは知っていても、オーガとのそれは知られていなかったから。

お兄さんまで、おれを差別したら。

息が止まりそうなその瞬間を狙って、ミシェルが戦闘用長靴を鳴らして走って来る。

避けられる速度だ、でも混乱した何かがおれを動けなくする。

あ、あたる。

迫るそれ。でも、おれの防衛本能は正直だったらしい。

一瞬の躊躇もなく、ミシェルへ戦闘形態へ展開したデュエルシールドが叩き込まれたからだ。

それは見事な程はいり、ミシェルは放物線を描いて飛ばされて、他所の店の天幕に突っ込んだ。


「ミシェル! よくもミシェルを!」


血走った眼を向けるアリーズ。ちらと見えた身分証は、おれと一緒だった時は明々した柘榴石だったのに、三段階落ちた燐灰石の水色だった。


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