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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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懇願=それでも、おれは。


「言いたい事ってなんだよ、手短にな」


「俺の相棒になってくれ。終の相棒に」


何を言われたのか見当が、つかなかった、それ位に驚いた。相棒だって、いったいなんの冗談だ、なんの冗談だ!?

叙勲されて、つまりどこかに認められて、そこの騎士として名をあげなければなれない“騎士”っていう職業を手に入れて、さらに神殿だったりに認められなければ、職業診断で出て来るわけもない“聖騎士”という称号になっている男が、相棒が欲しい!? なんの冗談だよ。

お前単独行動なのかよ、おいちょっと待てよ。

いきなりの暴投に混乱したおれに、ディオが言う。


「そのために修行したんだ、お前をあいつらからさらっていけるように。バディとしてやっていけるように、そのためだけに」


お前ちょっと待てよ、それってそれじゃあ。


「騎士としてどうなのさ……主への忠誠はどこに」


「……俺は神殿騎士団の騎士だ。そして……俺の頂く神は実に心が広い。一途に信じるもののへの思いを汲み、聖騎士にしてくれた」


「なんじゃそりゃ。神様なんてものを信じていないっていう言い方になるぞそこ」


何とか頭を働かせて、相手の言いたい事を摘み上げていくと。

こいつ、何処かの神殿騎士団で叙勲された騎士で。

そこの神ではないなにかしらへの信仰心を見出されて、職業判断の際に聖騎士になったって言っているような物で。

かなり、いや、実に非常識な聖騎士っていう事になるのだ。

なんなんだそれはといくら思っても足りないだろ!?

口をかぱっと開けて動けないでいると、ディオがじれったくなったのか聞いてくる。


「諾と言ってくれないか、ナナシ。俺の終の相棒になってくれると言ってくれないか」


辛抱強く言われた事で、我に返ったから、おれは相手を見た。

オーガとの混血だと知っても、全く態度を変えなかった唯一の男を。

お兄さんにも黙っている出自を聞いても、あり方を変えなかった数少ない男を。

そいつがおれを認めて、求めてくれている。

じわりと指先から伝わってきたのは、途方もないうれしさだった。

意外と自分は寂しがりだったらしい、そして認めてもらいたがっていたらしい。

そして、かつての仲間がまたおれだけを求めてくれる、それがうれしくてたまらないのだ。

嬉しい、と言いそうになって舌先が止まる。

こいつの手を取ったら、お兄さんの側から離れる事になる。

それは。





それだけは、できない。





何かが断じた。心臓のあたりで、脳髄じゃない場所が断言した。

思い出すって程遠い昔じゃないあの吹雪の中。

死ぬことが決定づけられていたような物のおれを、抱えて拾って温めてくれたのは、お兄さんだ。

お兄さんを裏切る行為は、万死に値する。

何かどこかがそう言い切り、自分の面倒くささとかに苦笑いをする。

そしてその顔のまま、ディオを見た。


「嬉しいさ、ありがとう。でもだめだ。お前の相棒にはなれない」


きっぱりと拒絶すると、彼は信じられないような顔になった。

そうだろうなあ、こいつ今しがた、おれを暁夜の閃光から切り離すためだけに修行して、強くなって聖騎士にまでなったって言ったんだもの。

その努力全部無駄、って言われたのと同じだから、信じたくもないだろう。

だけどおれは言わなきゃいけない。

きちんと、おれの生き方を言わなくちゃいけない。


「おれさ。助けてもらったんだ、死にそうになって。文字通り、命を拾ってもらったんだ」


伝わるだろうか、馬鹿な混血の言葉で、ちゃんとこいつに、友人に。


「拾ってもらった命だから、拾ってくれた人……お兄さんのために、尽くしたいんだ。おれ馬鹿だし能無しみたいなところあるし、いろいろ問題あるやつだけどさ。お兄さんの、側にいなきゃダメなんだ、おれのいる場所はお兄さんの知っている場所なんだ」


伝わってくれない言葉がうらめしい。相手の顔に理解したという色が見えないから、余計に。

でも伝えたい、言いたい、おれの選んだ道を、お前に。


「お前が、オーガとの混血だって事を知っても態度を変えないでいてくれた事が、おれは心底嬉しい、それは事実だし、相棒になってくれって言われてうれしくないわけじゃない。でも、お兄さんしかもう、おれは選べないんだ」


お前の相棒になる選択肢は、どこにもないんだ、わかってくれ。

震えた唇は下手したら泣き声になりそうで、それはきっと相手が真剣におれに訴えてきているから。

その申し出の背後にある、想像を絶するだろう修行のことを、否定しそうだから。でも。

ディオはおれをまじまじと見つめた後に、小さな声で言った。


「そうか。一歩遅かったのか」


重たい言葉だった、一歩、一歩。確かにそうだ。

あと少しお前が来るのが早かったら、おれはお前と相棒になっていた未来もあっただろう。

何て言えばいいのかわからなくて、黙っていれば、ディオが近付いてきていた。


「?」


頬に当たる手の温かさと、手甲の感触。顔をやや持ち上げられたと思ったら。

柔らかい接触があった。粘膜接触だ。


「相棒でなくても、望みはないのか」


接触の後に問いかけられた言葉の意味が、よく分からなかった。

相棒意外にお前は、おれに何を求めたかったの。


「お前が愛しい」


「……は?」


「あの時、多雨の事を覚えているか」


「そりゃあな、あんたを拾ったフィールドだ」


「その時お前が手を伸ばせと言った、手を取れと言ったのを覚えているか」


言われて頭の中から、記憶の中の叫び声を思い出す。

おれはまだ息があったこいつを助けたいがために、元仲間の制止を振り切り、手を取れと叫んだ。手を取ってくれ、と。


「そしてお前は、俺が手を取ったといったのも覚えているか」


「そこはあんまり」


「でも言った。自分の寝台を譲って、仲間に頼み込んで手当てを受けさせて、目覚めた俺に手を取ったと言ったんだ」


顔はかなり近かった。近い場所で、きらきらした薄緑の瞳がおれを見ている。

柔らかな草色の瞳が。


「その手を離したと思った事は、一度もない。まだ俺たちは手をつないでいるんだ」


……まだつないでいるとおもっていたのか、おまえ。

おれの方は、とっくに離されたものだと思っていた手だというのに。

その言葉で、ぐらぐらと色々な物が揺れ始めた。お兄さんを放っておけないと思う心と、こいつと相棒になって暴れまわりたいと思う心と。

どちらもおれにとっては本気だった。

でもどちらかを選ばなきゃならない。そうしなければいけない。

一つしか選べない。だったら。

おれはお兄さんしか、選べないんだ、分かってくれよ。

もう一度の拒絶を言おうとした口が、何も言えない。見つめあい黙ったままのおれたちに、声がかかる。


「やれ、私の子犬を奪うつもりでいるのではない」


首に腕がからめられ、ぐいと後ろに引っ張られる。意外と固い胸板に後頭部が当たる。

それから焚き染められた香の香りが鼻にはいる。

お兄さんがおれとディオを引き離したのだ。

お兄さんはおれを隠すように、自分の外套で覆った。


「お前がどう思っていようがいまいが関係ない。お前は子犬に間に合わなかった。だというのに未練がましく欲しい欲しいと我儘をいうな」


手厳しいって思う言い方だった。お兄さんの突き放すような、手厳しい一言だった。

お兄さんの視点からすれば、そうなのだろう。

ディオがもっと早く極めていれば、街に帰っていれば、お兄さんがおれを見つける事はなかった。

ディオは言い方は悪いけれど、間に合わなかったのだ。

お兄さん側からみたただの事実。

でもその事実は、ディオには厳しい。

彼が何も言えなくなったのが空気から伝わる。


「これは私だけの子犬だ。私のもので私を選んだものだ。ようよう手放すほど、この沙漠の隠者は愚かではない」


お兄さんがディオに言う。沙漠の隠者、その言葉であいつが息をのむ。

もはや伝説の中の一人の様だ、と思っていれば。


「……沙漠の隠者、あなたはナナシの実力を分かっていない、ナナシは沙漠のあなたの所で閉じ込めておくような」


「閉じ込める? この自在に飛び回る子犬を私ごときが? お前の方こそ何もわかっていないだろう。子犬は己の意志を持っている。己の考えで、己の在り方でここを選んでいる。誰も閉じ込めたりなどしていない」


何かの意地の張り合いに似ている気がしたけれども、割って入るには語彙力が足りなくて。

しばしの沈黙の後、ディオがいった。


「ならば誓ってくれるだろうか、沙漠の聖者。あなたはナナシを閉じ込めないと」


「子犬は自分の道を自分で選んでいる。閉じ込められるほど、私の子犬はか弱くない物でな」


「その言葉を、違えないように」


ディオが静かに去っていくのが、足音でわかった、そこでやっとお兄さんがおれから外套を外し、外が見えるようにする。

ディオは寂し気な背中で、沙漠の方に歩いて行った。

これでよかったのか、おれは。

背中に声をかける事も出来ないでいるおれは、黙ってうつむいた。

うつむいたおれに、お兄さんが笑った。


「ばかな子犬だ、後悔するなら、あの男の手を取ればよかったというのに。私の手など簡単に払えるだろう」


「……お兄さんを放っておけないの、本心だから」


意を決して顔をあげれば、お兄さんは柔らかい表情をしていた。


「おれはずっと、お兄さんと一緒にいるよ。そう決めたんだ、……相棒になってくれって言われて、心が揺れたのは事実だけど、やっぱりお兄さんを裏切れないから」


それ以上に、言わなきゃいけない。


「何かがお兄さんを置いていくのが絶対に嫌だって言ったから。それが一番」


お兄さんが目を丸くして、それから正面で抱きしめる。


「やれ、子犬は揺るがないなあ。私も負けそうなほど揺るがない、うれしい事だ」


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