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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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過去=おれは人間以外です。

「換金の相場はなかなかいい物だったようだな」


換金所の外の壁にもたれて、長い巻物をえんえんと読んでいたらしいお兄さんが、おれがそこから出てきて、彼に近寄るのを見計らって、言う。


「防腐処理がよかったみたいです」


「あれはお前の血抜きの速さの結果だ、私ではあんなに素早く血を抜けないから、防腐処理に至るまでに少し痛んだはずだ」


「力だけはあるんですよ、混血ですからね」


おれは何げなく言った自分の言葉で、蒼くなった。どうしよう、ここでばらしてしまった!

言うつもりなんて全然なかった、だって前のメンバーと信頼関係が出来たと思って話した途端、おれの扱いはひどくなったのだから。

このお兄さんも、きっと扱いがひどくなるんだ。

と固まっていれば。


「ハイエルフの混血が、怪力になるとは知らなかったな」


お兄さんは首を傾けて、小さな声、隣のおれにしか聞こえない音量の声で不思議そうにそう言った。

え、そっちに気付いちゃうの?


「え、なんでそこに」


「それだけハイエルフの魔力耐性を感じ取れるのに、ハイエルフと何のつながりもないわけがないからな。あのハイエルフとの混血なら、自慢できそうなものだが。そこでどうして顔色が悪くなる?」


……お兄さん、きっと、おれがハイエルフと何の混血かまでは、分からないんだ。

だったらまだ黙っていよう、番犬の血筋なんてお兄さん、きっと興味がないはずだから。

まさかお兄さんも、おれがハイエルフとオーガの混血だなんて、きっとわからないはずだ。

おれはハイエルフの特徴である長い耳は持っていないし、オーガの特徴である角も生えていないのだから。

黙っていれば人間にしか見えないのが、このおれなのだから。


「さて、帰るぞ。その前に子犬には肉を買ってやろう」


お兄さんが言いながら歩き始める。

おれはその後を追いかけようとして、突っ込んだ。


「お兄さん、そっちは肉屋がある商店街じゃない!」


なんで珍味が多い方に行くのかね、肉なら肉屋にしてくれよ! 干し肉はミッション中だけ食べれればいいから!




おれの両親にまつわる話なんだが、簡単な話、仲間外れどうしで仲良くなって、そしていつの間にかくっついちゃったってのが内訳なのだ。

ハイエルフは大変な美形が多く、美形以外ハイエルフじゃないような風潮があった。

でもうちの父さんは美形じゃない姿で生まれてきて、結構仲間内では蔑まされていた。

おまけに、美形じゃないからハイエルフじゃない、といくら種族名を他の種族に話しても信じてもらえなかった。

そしていつも仲間外れだったから、父さんは思い詰めて、人間の街に降りてきた。

美形じゃない父さんは、只の魔力耐性の高い人間、という扱いを受けて、細々と仲間たちとミッションを行ってきた。

そんな中、同じように奇形児として蔑まされて、思い詰めて人間の里に下りてきた、母さんと知り合った。

母さんはとても珍しい事に、オーガであるのに角を持たずに生まれて来ていて、やっぱり仲間外れの対象になっていたのだ。

母さんの場合はもっとひどくて、両親に子供として認めてもらっていなかったらしい。

だからやっぱり思い詰めて、ニンゲンに溶け込めるかどうか試すため、里から下りてきた。

そんな独りぼっちたちはいつの間にか、共鳴して、すごく仲良くなって、結果くっついた。

そして生まれてきたのが、世にも珍しい父がハイエルフ、母がオーガの、いわば頑丈さだけは折り紙付きの化け物であるおれ、である。

おれもこんなだし、両親に似て人間以外の何物にも見えない姿だから、人間としてミッションをこなすのになんら、問題はないのだ。

ただ、どちらの特性も受け継がなかったから、高位魔法を使ったり、精霊術が使えたりはしない。ハイエルフの十八番は高位魔法、オーガの十八番は精霊術。どっちも使えないけれども、身体能力だけは親譲りで頑丈だから、おれは盾師になったわけである。

使えない盾師、と仲間からしょっちゅうぼろくそ言われていたけれど、な。



もりもりと肉をがっついていれば、お兄さんが笑いながらお肉のお代わりをくれた。

けちけちしないのがすごい。仲間は役立たずはそんなに物を食べるなって言って、おれにたくさんの肉なんて食べさせてくれなかったもの。


「そんなに食べていたら、お腹がはちきれてしまうぞ」


「お肉でお腹がはちきれるなら本望、です」


口いっぱいに甘い肉をほおばっていれば、お兄さんがおれの汚れた顔を布で拭う。

このお兄さんは世話焼きだ。たぶん、きっと。

おれとしてはなんだか、子供あつかいみたいで変な気分だ。少しだけお兄さんの方が年上なだけっぽいのに。

おれが子供過ぎるのだろうか。そっちに違いない。


「さて、番犬のお仕事をここに書いておいた。分からない事があれば何でも聞いてくれていいぞ」


おれはそれを聞いて最初に言った。


「おれは文字が読めません」

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