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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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測定=お兄さんが強すぎる気がする


この世界には、いくつかのフィールドがある。沙漠だったり氷の世界だったり。

そしてそこを拠点に、冒険者たちは依頼を受けたり魔物を討伐したりとやっていくのだが。

その中でも飛び切り変なフィールドが、迷宮なんだ。

ギルドがあるくらいには大きな町ならば、どこでも迷宮に入れる。というか、街のはずれに迷宮の門があるのが一般的なんだ。

大抵の冒険者は、街を拠点として依頼を受けるフィールドで活動する。自分の登録した街でのミッションしか受注できないけれども。

しかし。

この、隠者のお兄さんはそうじゃない。すでに魔物ひしめくフィールドの中でも、過酷な環境の沙漠を拠点にして、時々迷宮だの街だのに降りているらしい。

その時点でこのお兄さんの、運の強さと言うか、ほかの強さというのかがよくわかる。

確かに隠者は、砂の中に隠れているイメージが強いんだけれども。


「たった二人で迷宮に入るなんて、お兄さん自殺行動みたいですよ」


「危なくなったら即帰還するのが前提だ。だいたい、傷だらけでも番犬は迷宮に入っていただろう、それもしょっちゅう」


見られていたのか。まあどこの誰が見ていても、変な話じゃないからいいか。


「ほかのメンバーが行きたがったら、おれに否定する権限はないようなもんでしたからね」


おれ以外が無事だったら、どこまでも迷宮の下層部に降りて言って仕事をしたり、アイテムを見つけたりする。

そんな事を、前のメンバーはよく行っていた。

おれが無駄に頑丈だからだったな、きっと。普通の人間がぶっ倒れるくらいの状態でも、おれぎりぎりセーフだったし。

何て会話をしていれば、迷宮中層部によく巣をつくっている、ダークワームとよばれる大きな芋虫が現れた。

おれはとんと前に出る。だっておれの力試しなのだから。

おれは装備していたデュエルシールドを構えて、一気にそのダークワームに躍りかかった。

これはお兄さんに支給された。装備を全部失っていたから、お兄さんがどこかで拾って来た奴をもらったのだ。

お兄さんは使えないし。デュエルシールドは、扱いが難しくて、盾師以外はあんまり使わないし見た事もない。

両端を刃のように尖らせた、人の体を軽く隠せてしまう巨大な盾。

それをおれは、動きも鈍ければ攻撃も遅いダークワームにぶち当てる。急所である神経の集中した部分を狙えば、かなり行けるものだ。

相手も相手だから、ほんの数分で片が付く。

それでも、重いのが基本のデュエルシールドをふりまわして、少し息が切れながらお兄さんを確認すれば。


「うわあ」


お兄さんは、おれが相手にした奴らより厄介な、光イモリを何体も叩きのめした後だった。

それも息が切れていない。光イモリは体中を粘液で覆っていて、剣が通用しない事も多くて大変なのに。

外ででたら大抵は魔術師が炎で一掃する。

でもその時だって、粘液が炎を軽減するから、簡単に倒せる相手じゃない。

ましてここは閉じられた迷宮、炎を使えば、周囲の空気が一気に苦しくなるから、外みたいに簡単に焼き尽くせないのに。

お兄さんはとても簡単な事のように、それらを一掃していた。

それも片手に持っていた、メイス一本で。

打撃には強いはずの光イモリが何体も、動けなくなっていた。

お兄さんは……実はすごく強い、この一戦だけではっきりとおれでもわかった。

おれなんて必要ないんじゃないかな、と思ったんだ。

役立たずな番犬だな、と自虐的に下を向いたんだ。視線を合わせられなくて。

だけど。


「番犬がそっちの道にいるものを、皆倒したから簡単に倒せた、いいこだな」


なんてお兄さんは言いながら、おれを子犬のようによしよしと撫でた。


「盾師はほかのメンツが戦いやすいように、相手の攻撃を引き受けると聞いていたが、なるほど、強い盾師は魔物を倒すのも仕事なんだな」


おれの倒したダークワームの群れを見ながら、お兄さんが感心したように言う。


「あれくらいだったらどこの盾師でも、きっとできますよ」


照れくさくなって謙遜すれば、お兄さんはおれを見下ろしながら忠告した。


「自分の力をきちんと見てやらないと、後で痛い目に合うから気をつけたまえ」


そしておれたちは、今倒したものをさばいて、換金できる部分とそうでない物にわけ、穴を掘って死体を埋めて、一度迷宮を後にした。

迷宮から外に出ると、光が眩しくて目が細くなった俺だった。




「あれえ、凡骨、どうしたんだよ、何か知らないが、お前の所属していたチームがお前を脱退させたと思えば、一人でそんなに素材を持ってきて」


ギルドの換金所に、今日とれた素材を担いで持って行くと、おれの事を凡骨という割に、かわいがってくれている受付の、マイクおじさんが声をかけてきた。

マイクおじさんは、昔はチームで結構ぶいぶい言っていたらしい。

今はソロで仕事をしたり、こうして換金所の受付や鑑定を請け負っている。

何でも、昔酷い怪我をして、動く時に足が痛くなるからだそうだ。


「捨てられたんですよ、この前のミッション失敗した責任を取らされて。これはおれとおれなんかを雇ってくれた人とでとってきた素材です」


簡単にこの前会ったことを説明すれば、マイクおじさんがにやりと笑った。


「見る目あるんだな、その雇ったやつは。凡骨は骨があるから、頑丈でいい盾師だ」


「そうでもありませんよ、ミッションこなせなかったんですから」


「大方お前が動けなくなっても、誰もポーションなんて使わなかったんだろ。それで途中から防御のメンツが足りなくなって、撤退したと見た」


「おじさん、ストーカーですか、それとも千里眼ですか」


マイクおじさんが言った事は、大体当たっていた。あまりにも的中しているから、怖くなって問いかければ、彼が何を言うんだというように、おれを見た。


「お前の所属していたチームのメンツと職業を見れば大体、読める戦い方だろう。それとお前が年がら年中重傷状態でも、迷宮だのフィールドだのに、足を引きずりながらほかの元気なメンバーと歩いていれば」


「おれ、そんな弱々しい所見せた事、なかったと思うんですけど」


「見る人が見ればわかるんだよ、馬鹿だなお前は本当に。ほれ、これが換金した金だ、バディスタイルなら、大事に使えばしばらくは何もしなくても暮らせるぞ」


おれは渡されたお金を見て驚いた。


「え、多くないですか」


「新鮮だし、このままでも十分商品としておろせるくらいに見事に処理されている。おまけに専門職がやるような防腐処理まで完璧だ、これ位出すのは当然。……その代わり、同じように素材を持ってきたら、またここに換金しに来るんだぞ? 色付けてやる」


最後はこそこそと付け加えられて、その中身が魅力的だったこと、そしてお兄さんの処理を褒めてもらった事がうれしかったから、おれはこくりと頷いた。

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