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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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突入(4)=そして道具袋の有効活用である。

「暑い……ここは冬でしょう、どうしてこんなに暑いの……?」


拭う汗が不愉快そうだけれど、ルヴィーは信じられなさそうにいう。

実際に体験してもそうなのだから、しょうがない。

おれもそう思うのだから。

ここは冬でも、ほかの地域の冬と比べると信じられない位に、暑い。

普通の街の夏くらいは軽く暑い。

そしてこの沙漠の夏は、灼熱地獄以外の何物でもないのだ。

おれもどうして、ここがこんなにいつでも熱いのか、ちっともわからない。

今度お兄さんに聞いてみれば、何かわかるかもしれないな。


「ここ、南の沙漠はいつでもこれ位は熱いんだ、ギガントオークみたいなやつが暮らすには、暑すぎるだろ」


「……事実そうだわ」


彼女は一口水玉を口に入れた。


「食べ過ぎないでくれよ、手持ちが少ないんだ」


「ええ……」


今までも結構強行軍で来ていてからか、ルヴィーはふらふらしている。

ちょっと不安を感じるくらいだ。

彼女はちょっとよろめいた。


「おいおい、大丈夫?」


そのまま熱をため込んだ砂に顔を突っ込む前に、おれは彼女を担いだ。


「ちょっとごめんね」


言いつつ服の裾から体温などを確認する。

ちょっと熱をため込み過ぎだ。

ここらへんに木陰はないし……それに周囲から、嫌な気配が漂っている。


「ねえ、ルヴィー、ちょっと冒険する気ある?」


「何を言いたいの?」


「おれの道具袋の中に入っていてほしいんだ」


「……え? そんな事可能な事なのかしら」


「お兄さんは出来るって言った。道具袋の中に部屋を作るっていう事できるって言ってたし。だから入ってもらえれば、この暑さを耐えてもらえそうだと思うんだけど、そこまでおれの事信用してくれる?」


道具袋の中に入る、なんて彼女からすれば前代未聞、みたいな顔をされた。

おれは普通にやっていた事だけれど、お兄さんに言われてしょっちゅう荷物整理をしていたけれど、これも普通じゃなかったのかな。

顔を見ていると、彼女はこの暑い砂漠でも青ざめた顔で言う。


「あなたの事はとっくに信じ続けているわ」


その頼もしい声に、おれはなんだか泣き出したくなった後言った。


「ありがとう。それじゃあ、中に入って。中から望めば、外の事も見えるよ、窓が出来るって念じれば勝手に作れるんだ。家具とかは作れないけどさ」


「やってみた事あるの?」


「昔々に」


盾師の師匠の所で、世界を歩き回っていた時代に。やってみようと思ったけれども、無から有を作り出すのは不可能って師匠に叩かれた。この若輩者がって。


「中に入って、ドアが一つあるから、そこが部屋。いろいろ散らかってるだろうけれど、あんまり悪戯しなかったら大丈夫、あと、本とかに触っちゃダメ。割と呪われる」


「わかったわ」


彼女は神妙に頷いた。ちょっと暑さでやられているんだろう。

早くこの暑さから逃れたいっていう顔だ。


「オアシスに付いたら、出すからさ」


約束をしたおれは、彼女に道具袋に入ってもらった。

入ってもらってちょっとだけ、街道の方に歩いていく。いままでは街道を無視して進んでたんだ。

そして。

ちょっと街道の方に行くと、物々しい集団にであう。胸の印は帝国を象徴する牡鹿。牡鹿に女神の星というそれは、帝国に属するという証明だ。

彼等はおれを見て、いたぞと叫ぶ。


「見つけたぞ! 三の姫をどこに隠した!」


「あんたらの届かない所」


おれの道具袋だなんて、欠片も思わないだろう。普通、道具袋は道具を入れる場所であり、人を入れる場所じゃない。


「残念だな、あんたらが二度と届かない場所に隠したよ」


そして付け加える。


「ルヴィー、すごい婚約者の事嫌ってたな。話だけでも最低だ、実物の最低具合は想像を超えそうだよな」


「何を! フォン・ブラント公爵令息様を馬鹿にするのか!」


「だって友人の皮被って愛人漁るんだろ、最低じゃん」


おれの言葉をどう聞いたのか、色めき立った騎士や兵士たちが、おれを取り囲む。


「おれは戦いたくないよ、おれは盾師で守るのが役割なんだ、あんたらと戦う理由がない、おれは帰るんだ、どこか行って」


取り囲まれても怖くない、この人数なら叩きのめせる。

実はルヴィーに隠れてもらったのは、こいつらの声が聞こえて来ていたからだ。

本物のお姫様が見えていれば、こいつらは意地でも連れて帰ろうとするに違いないし、彼女の主張なんて聞きやしないだろうから。

おれは絶対に、ルヴィーをこいつらの眼に触れさせるわけには、いかなかったんだ。

顔を上げ堂々と、言いきる。言い切って見せれば、彼等はざわめいた。


「こいつ、状況が分かっていない」


「頭がおかしいんだろう、聞けばオーガとの混血だと聞く」


「姫様をたぶらかして、何処かに売り飛ばしたに違いない!」


失礼な事ばっかり言いやがって。

おれは奴隷売買とか大嫌いなんだよ。

大っ嫌いなんだ。

目が座るのが自分でもわかる。

そしてその据わった眼をみて、周りがおびえたようにざわめくのも伝わる。

デュエルシールドは装備済み、しょうがないからぶちのめしていくしかないのか。

でも、こいつら、きっとある意味ではルヴィーの事心配してるんだろうな。

命令だからとかじゃなくて。

だって風に乗って聞こえてきた声たちは、心底心配そうだった。

怖い思いをしていないか。

ひどい思いをしていないか。

寒くないか、暑くないか、苦しんでいないか。

そんな声が風に乗ったくらいだもの。

でもおれは、ルヴィーをお兄さんの所に連れて行って、助言をもらうのだ。

こいつらがいくら心配していても、ルヴィーの苦しみを理解していないまして男連中だから駄目だ。

男だからだめってわけじゃないけれど、浮気とかで考え方が違うのは男女のよくある違いなのだから。

こいつらここでぶちのめしたら、きっとその後魔物の餌食だろうな、いくら魔物除けの石を使用した街道とはいえ、そこから少し外れれば途端に魔物が舌なめずりをするのだ。

街道に放置しても、熱中症とかになりかねない。

砂漠の暑さとか対策になれたおれと、そうじゃないこいつらじゃ、致死に至るまでが違う。

だったら……

おれは腰の道具袋ではなく。

腰の鎖を軽く引っ張った。

そして素手で呪いの本に触れる。呪いの本の集合体。たぶんどんな怪物よりも怪物なお喋り野郎に。

お喋り野郎は、ルヴィーがいるから喋れなかった鬱憤を晴らすように、おれに意識を流し込む。


『気が立ってんなあ』


「当たり前だろ、ここを逃げる方法が見つからないからお前と会話してんだよ」


『ほう、めくらましが入り様か? どんなめくらましがいい?』


「おれがどの方向に逃げたかわからない位の一瞬」


『おもしろい! おもしろい! では俺様を開け、わが宿り木!!』


「宿り木じゃねえよ」


言いつつおれは、腰の鎖とお兄さんのくれた紐を引きちぎり、本を開いた。

おれにはただのシミにしか見えない文言が、周囲を取り巻き、おれの周りをまわる文字らしき物に騎士や兵士が下がる。


「あいつ、呪いを使えるのか!?」


「下がれ、だめだ、見るな!」


「ただのオーガとの混血だろう! 呪いはオーガが最も苦手とする戦闘方法だぞ!」


「精霊がこの世の理で最も嫌うのが呪いだろう、どうしてこいつは!?」


彼等の怯えが手に取るようにわかると思っていれば。

おれの周りをぐるぐる回って、おれにはわからない何かを展開していた文言が止まり。

どくん、とおれにも伝わるような脈を打った。

どくどくと血が流れだすような感覚を味わいながら、おれはそれが完成するのを見たのだ。

脈うった文言は、ぱっと光ってそして、彼等は一斉に目を覆った。

「眼に砂が、目に砂が!」


「目の前が何も見えない!」


「くそ、なんて呪いだ!」


……命に別条のない呪いらしい。

おれはこれをチャンスと、思い切り砂を蹴って走り出した。

目指すは街道をはるかに外れた、お兄さんの家。

ここ一か月目指し続けたそこへ走り、おれは呪い本を片手に掴んだまま、オアシスに入った。



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