突入(2)=救出劇の裏側を知らされる。
何故引き戸式とわかったか。
答えは簡単。両開きのはずの扉のどこにも、蝶番らしきものがなかった事。
それと大きな砦だったら、上に持ち上げるはずの扉が主流なのに、その扉の収納場所がどこにもなかった事。
遠眼鏡で見てかろうじてわかる、溝があった事。
しかし外装はいかにも両開きの扉で、近くで見ればものすごく勘違いしそうな扉だった。
両開きですって侵入者は思うだろう。
もしかしたら、昼は両開きっぽく開け放っているのかもしれない。
両開きの扉を引き戸式に偽造するのは難しいけれど、逆は簡単なんだ。
真ん中から開ければ、いかにもそれだし。
もしかしたらからくりで、昼は両開きにしているかもしれない。本当に。
そんな事を思いつつ、開けた扉を固定しようと、見張りがいたレバーを動かす。
見張りはちょっとつついて気絶させて、縛っておいた。道具袋の中の縄が非常に役立ったわけだ。
ものの数秒で終わった戦闘なので、大した事も言わないけれどさ。
動かしたレバーは正解だったらしく、がちゃん、という音とともに扉が固定されたのがすぐに分かった。
裏側から見れば木製の歯車がいっぱいある扉だった。
仕組みは全然わからないけれども。
「……さて」
おれはこの後どうしたらいいだろう。
幸いなことに、おれが隠れている物陰に気付く人はいないし、石の様に丸まっているおれはその辺のちょっと大きな石っぽい。
扉が開いたと騒いでいる人たちが次々、扉に行くものの、ディオに頼んで騎士たちを近くに誘導してもらったので、騎士たちと冒険者たちが一気になだれ込んできている入口。
入口付近は大混乱だ。
この隙にやった方がいい事って何だろう。
攪乱とかそんなのは、盾師の本分じゃないし。
元々、扉をどうにかするの事態が、盾師の本分じゃないけれど、それはもうしょうがない。
盾師たることを虚仮にされて、おれが腹立った結果である。
ふと騎士たちがここに来た目的を、思い出してみる。
確かお姫様を探しに来たんだっけな。囚われのお姫様。
そうだ……そのお姫様探してみるかな。
おれは腕を動かし、周囲に人目がないのを確認し、近くをうろうろしてた闇の教団の人を物陰に引きずり込んだ。
引きずり込まれた相手は、抵抗の仕方を知らないのか、じたばたと動くものの反撃は出来ないでいる。割と守られた世界に生きているらしい。
闇の教団って、聖地巡礼の時はそれのための護衛とかをつけているのだろうか。
大きな宗教組織だと、付けていたりするんだけれども。
そんなこたぁどうでもいいか。
おれはその相手に問いかけた。
「ねえ、三の姫って人どこか知らないか?」
「ひっ……」
物陰に引きずり込まれた事で、思い切り怖くなったらしい女の子に笑いかける。
「おれさあ、囚われのお姫様の救助隊なのよ。お姫様何処?」
「わ、わたしは、知らない」
震える細い声。女の子は思いっきりおれの事を、怖がっていた。
こんな事考えた事もないって位、怖がっている。
そして、知らないと、自分はお姫様の居場所なんて知らないと言い切ったのだ。
「うんうん、ありがとう。……しらないよねえ、お姫様?」
自分の囚われた場所なんてさ、と鎌をかける気分で笑いかければ、彼女は小さく、どうしてわかったの、と聞いてきた。
「だって結婚式目の前だし、浮かれ騒いでいる奴ら多いし、少しくらいお姫様がどこか噂でも聞いているはずなのに、知らないって断言するから。もしかして本人なのかなって思っただけ」
おれが笑顔のまま、思った事を言っていると、彼女の手がおれの襟元を掴む。
そこで気付くのは、身長が大して変わらないという事。
三の姫は小柄だと騎士たちが言っていた。
つまりに多様な背丈のおれも……小柄……?
認めないぞ。
おれはまだまだ成長の余地があっていい、と思うのは間違いなんだろうか……
「……おねがい、彼を見逃して。私、もう逃げ道がないの……!」
あほらしい事を考えていれば、悲壮な顔でおれにすがる彼女。いかにも訳あり、さてどうしましょう。
おれは周囲を見回して、取りあえずって事で、もう役目がない扉の見張り役の詰め所に、彼女を引っ張っていった。
詳しく話を聞く必要がある、とおれの第六感が告げていた。
そこはお茶も飲める場所だったので、休憩がてらお茶を沸かし、外の混乱何のそので彼女に差し出す。
「話は聞くよ、あんまり絶望的な顔してるもんだから。その顔はどう見ても、助けが来たって顔じゃないし」
おせっかいは気質だ。これはもう死んでも治らないと思う。
おれの促しに、彼女がお茶を飲みながら言う。
「お父様は知らないのだけれど……わたくしの婚約者は、すごいたくさんの愛人を持っているの」
「何で父親知らないんだ」
「婚約者は、友人になりすまして、愛人を囲っているの。それに気付いたのはわたくしが、人より術を見つける瞳を持っていたから。これは先天的な物なの」
聞いた事があるような気がする。帝王の血脈には、なにかしらの恩寵が与えられて、不思議な力を持つ人が多いって。
お姫様もそう言ったものがあって、目が特別にいいんだろう。
しかし問題はそこじゃない。
そのふざけた婚約者が成りすましている友人は、その事実を知っているのか。
知らなかったら大騒ぎだしそれだけでもう、お姫様との婚約破棄できるぞ。
「友人はその事を知っているの?」
「若いうちの遊びだし、自由の利かない時代が長かったから仕方がないって」
そして三の姫に、男の浮気は本能だから諦めろ見たいなことを、言ったらしい。
女舐めてんのか。ふざけんな。
おれの握るカップがみしりと音を立てて、くだけた。
おれは握りつぶしかけたらしい。
彼女が目を見張った。しかし話してしまおうと思ったらしい。
「ほかの女性に愛を囁いて、ほかの女性の肌や在らぬところに触れた婚約者を……わたくしは、とてもけがらわしいとおもってしまって、どうしても諦めろなんて自分に言い聞かせられないで、でも。それが王女の役目なのだと言い聞かせて……」
それでも結婚しようと思ったらしい、命令だから。結婚すれば愛人とも手を切ると信じて。
だが現実は彼女に味方しなかった、らしい。
「この前婚約者は、自分は愛人全てを愛している、君との結婚は命令だから仕方がないだけで、君だけはこれっぽっちも愛さないと。持参金が大事だと」
「くずだな」
おれの断言に彼女の肩が震える、泣き出しそうな彼女。
星の宿る瞳は本当に、泣き出しそうだった。すごく苦しくてたまらないという顔だった。
政略結婚でも、そこから愛が生まれれば幸せだって、誰かが言っていた。
でも彼女はその、希望的観測すら持てなくなったのだ。
君だけは愛さないとか、そういう事だろう?
おれが黙ってカップの残骸を片付けていれば、彼女は続けてくれる。
ここで吐きだしてしまおうと思ったようだ。
それでいい、誰かに聞いてもらいたい、救われたいとは誰もが思うのだから。
「それを聞いて心底、死にたいと思って……! 本当は崖の道で、結婚前の女性の憂鬱のふりをして、飛び降りようとしたの。事実したの。そうしたら、彼が下で寝ていて」
「彼?」
一体話のどこに、彼という人が出てきたのだろう、初登場人物だ。
問い返せば、彼女もそれに気付いたらしい。付け足してくれた。
「わたくしと結婚式を挙げる事になっている彼。彼の上に落ちてしまったの」
「ああ、教祖の親戚」
二人の出会いはそこなのか、なるほど。
「名前をノイというの。ノイは話を聞いて死んじゃったらだめだ、なら自分と結婚した事にしてその外道との結婚を破棄しよう、って言ってくれたの。嘘でもだまされたのでもいい、そう言って助けてくれようとした言葉に、わたくしは生きようと思えたの」
だから結婚式をして、しまおうとまで考えたのか。
だが帝国は彼女を取り戻そうとおれたちを向かわせた。
どうしたものかね。
彼女を本当に助けたいなら、帝国側に引き渡すのはだめだ。
死にたいほどの相手と結婚するなんて、可哀想すぎる。
お兄さんなら何か、いい知恵を貸してくれそうだけれど……ん、お兄さん。お兄さん。
お兄さんだ!
閃いたおれは、彼女の手を握り、言う。
「こういう時に、助言をくれる人を知っているんだ、この混乱だから今すぐにその人の所に行こう、帝国に引き渡すためのだましじゃないからね、ちなみに」
「まって、ノイはどうなるの?」
「この混乱だから、教祖の縁者はとっとと外に出されて逃げ出させられている。断言できないけど、ノイって人もそうだと思う」
おれは彼女をまっすぐに見て言った。
「君が鍵なんだ、これの。君が帝国に捕まったら、君もノイって人も負けなんだ。だからおれを信じて。おれとおれの死んだ親父に誓って、君を騙さないから」
聞くだけで腹に据えかねる彼女の婚約者なのだ。我慢し続けた彼女の苦しみは計り知れない。
おれは扉を攻略するべくたいまつに選ばれたわけで、仕事は十分に果たした。
ここから離脱しても、盾師だからという言い訳もできる。
「……そんなふうに言ってくれたの、ノイと合せて二人目だわ」
泣きそうな笑顔になってくれた彼女を、おれの外套でつつんで、おれは一目散に砦から脱出した。
ディオにはあとで平謝りしておこうと誓った。




