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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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友人=大事な物は目に見えない

なんだなんだと見ていた周囲の人間たちが面白がっていて、おれたちのそれは賭けの対象にもなったらしい。

今のところ、アリーズの方が優勢みたいだ。賭けの倍率がどうなっているのかなんて、激しくどうでもいいけれど。

お姫様の救出なのに、賭けの対象なんて、と周りの騎士たちは渋い顔だけれども、これだけ冒険者みたいなやつらがそろえば、何かを賭けたり勝負を始めたりするのは当たり前。

不謹慎と言われそうだが、これが普通なのだ。おれたちにとってみれば。

ディオはなんとも言えない顔で、おれに言う。


「何か対策があるのか」


「あっても言わない」


「は?」


「アリーズたちは盗み聞きが上手だろう?」


おれは爪先立たなければ届かない耳元に、ぼそりという。

これはお前だって知っている事のはずだろ、と匂わせれば、ああ、と納得された。

アリーズたちは他人の喋っている事を聞いて、それを盗んで、色々なミッションをクリアしてきた。

それが悪い事だとは言えないけれども、ここで秘策だとかがあったらあいつらに聞かれて、負けてしまう。

お兄さんはおれを売ったりはしないだろうけれども、あいつらがそれに納得するわけもないし、いちゃもんをつけたらお兄さんが切れる。

普段滅多に切れないお兄さんは、怒り出すと始末に負えないのだ。

一度だけ怒った場面を見たけれども、あれは怖かった。盾師としてあるまじき脱走をしたくなったほどだった。

だが。

ここで何も言わないのは、おれの言葉を聞いているだろうアリーズたちにとってもいら立ちの原因だろう。

事実、不可侵の結界の事をしつこくミシェルが、砂の賢者に聞いている。

彼女は同じことを何回も言わされて、不愉快そうだ。

結果ミシェルは、自分の戦闘靴に階位=二の術を付加してもらう事に失敗している。

だからさ、さっき言った事聞いていれば、同じ事繰り返させて申し訳ないって思うだろ、ずうずうしく、いかにも名誉な事だと言わんばかりに、自分の靴にもっと強い術を付加させろ何て言えやしないだろ。

あいつの自分勝手、磨きがかかってんな……


「まあ、扉がどんな素材なのかを確認するのも大事だし、扉がどういう仕組みで開くのかも確認するのは大事だろうから、見て見なきゃわからないってのが、一番正しそうな気がする」


「壊す方向だろう、誰もが」


「そこからして変だと思う。壊せない扉壊す方法考えるあたりが。ま、そんなの思っているのおれだけみたいだし、いいけどさ」


「だが、盗賊が中に侵入できないんだぞ、不可侵の結界で扉に弾かれるという」


「だからさ。見なかったら方法なんて思いつかないってのが、おれは正しい」


事実そうだ。見なかったら攻略方法なんてわからない。一度も見た事のない物を攻略しろなんて無茶ぶりは、とてもできない。

だから見てから考えるのさ。

……きっとアリーズたちは、扉を壊す事を攻略だと考えているだろうから。

仲間だったからな、考えは読めるし、全体の作戦事態がそんな方向なんだから。




「へえ、あんたあいつらのチームから抜けたんだ」


「まあね。だからすごいふかーい溝があるのさ」


夕飯の時間、交流という流れで、近くに座った奴らとしゃべっていると、話は当然昼の事になる。

おれとあいつらの勝負の事だ。

鶏肉のオーブン焼きの、滴る油と程よい塩気、それのしみたジャガイモの濃厚な味とさっぱりしたスープに舌鼓を打っていれば。

適当にした、あいつらとの関係を聞いた一人が、首をかしげてこう言ってきた。


「暁夜の閃光は、腕利きぞろいだろ、お前は何をしていたんだ」


「その中でも一番の役立たず扱い」


さらっと言ってみれば、隣にひっぱたかれた、解せぬ。


「お前はあのチームの中で飛びぬけて腕がいい奴だった。あいつらが使いつぶすような真似ばかりして、殺意を持っているとしか思えない事ばかりしていたけれどな」


「それで抜けたら因縁をつけるのか、あいつら……」


おれの左隣と正面の奴が、顔をしかめた。


「よっぽどあんたの実力に頼ってたんだろうな」


「しらね」


ばっさりとおれは切って捨てた。

心底どうでもいい。

そう、おれはあいつらがどれだけおれに頼っていたか、なんてことは知らないし、あいつらはあっちでおれに対する、色々な事実じゃない物を喋っていそうだ。

と思っていたら。


「あんなオーガとの混血に負けるわけがないだろう!」


酔っぱらったらしいアリーズが大声を発したのが分かった。

おれは少し手が止まった。あいつら、人が黙っていたい事大声でしゃべりやがって!

驚いた顔をしたのは回りの奴らで、距離を置かれるのかな、せっかく普通に喋れたのに、だから混血の事実は言わなかったのに、と思えば。


「ナナシ、大丈夫だ」


おれの右隣が腰を引き寄せて小さく耳元で、言った。

抱えて庇おうなんて、盾師相手に百年早い、と思ったのはどうしてか。

庇われたのだ、と気付いたのは言葉が下りて来てからだった。


「大丈夫だ、ほかの誰が敵だろうと、お前を嫌おうと、俺はお前がすごい奴だって知っている」


……始めて言われたよ、そんな事。うっかり泣きそうだ。

隣のディオは回りを見て、問いかけた。


「ただの血の流れだけで、こいつの良しあしを図るならば、あんたらもあいつらと同じ屑だと言うだけの話だ、違うか? 冒険者は人柄と実力が判断材料だが、それ以外で判断している間は、上位職になんて物にはなれないそうだ。この前神官に聞いた」


それを聞いた周りの奴らは、そっと、いかに混血のおれがろくでなしか、向こうのテーブルで怒鳴っているアリーズやミシェル、止めようともしないでもっとひどい言葉を使うマーサ、黙って食事をするシャリアを見たようだ。

そして一様に同じ感想を抱いたらしい。


「あんな連中と同列扱いはさすがに……」


「あれちょっとひどすぎる物ねえ」


「人間として疑いたくなる言動だから、同じにしないでくれないか」


そう、あいつらと同じだと思われたくない、とう感想を。

あいつらみたいなやつらが、一般的ってわけじゃないのか。混血ってだけで見下されるのが当たり前って考え、おれの間違いだったのか。

そう思うと不思議な事がある。おれは知らない事。


「……なあ、おれ、オーガ族が怖がられる理由、いまいちわからないんだけど」


「ああ、先の大戦で帝国の敵の陣営に参加した、オーガ族があまりにも強くて容赦なかったから、あいつらは化け物だという風に帝国側が広めたのが始まりだな」


おれの疑問に答えたのは、隣のディオだった。


「その強さと頑丈さゆえに、恐怖の対象になった。そしてもともと、オーガ族が人間とほとんど交流を持たなかったことも災いして、オーガ族は恐怖の対象、混血は差別の対象になってしまったわけだ。大体二百年ほど前の話だったはずだな」


……ひどい話だ。戦争はどうあがいても殺し合いなのに。

それだけの理由で、こんな未来まで影響を与えるなんて。


「……おれ、見た人間全部ぶち殺したりしてないんだけどな」


「あいつらの方が殺しているだろうにな」


ディオが同意する。仲間を皆殺しにされた奴の言葉は、真実でしかなかった。

さっきまでおいしいと思っていた鶏肉もスープも、聞いた後とても不味いものに感じてしまったおれは、こんなにも精神が弱かっただろうか。

考えてもわからなかった。



そんな風に三日間交流していると、あいつらと同じテーブルの奴らはおれを見下し、差別し、嫌悪するようになった。

逆におれと同じテーブルの奴らは、おれと打ち解けて話してくれるようになった。

逆に、あいつらより先に扉を攻略したら、仲間にならないか、と誘ってくれる人も現れた。

隣の男目当てだろうな、なんて思いながらも、求められて悪い気はしない。

三日間ディオは、さりげなく扉の攻略の話をして、アリーズたちに、おれが何の対策も見つけられないという状態を漏らしていた。

あいつらはそれで、余裕が出てきたんだろう。奴隷が手に入る日は近い、と思っているようだ。

時々、シャリアが何か言いたげにおれを見ても、気にするわけがない。

話したければあっちが近付いてくるのが、当たり前だ。

おれは行かないぞ。

そして当日、真夜中から闇の教団の砦に向かう事になり、おれは話すようになった奴らとディオたちと同じ馬車に乗った。

皆装備道具の手入れをしている。

おれもデュエルシールドを出して、刃の確認と重さの調整をしていれば。


「あんた盾師ってまじだったんだな」


「疑ってたのかよ」


「盾師は普通屈強な野郎か、か弱げ女子だからな」


「なんでか弱げ女子が盾師なんて重労働なんだよ」


「一番戦わなくていいから。一番戦線離脱しても許されるからだな」


「やっぱり最近の盾師って、何か間違ってる気がするよなあ」


最後の重量確認を終えて、腕に装着しながら言えば、ソグドという斧使いが苦笑いをした。


「お前のその、前衛も守る在り方ってのが、盾師の概念覆してる感じがするだけだろうよ」

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