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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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提案=いい加減にしてほしいから持ちかける勝負


あ、くたびれてんな、と思ったのが最初の感想だった。

一緒にいた頃に見ていた、自信に満ち溢れていて、他人を気遣う事も出来るという態度はどこにもない。

苛立った顔をしていて、さらにおれがここにいるのが気に食わないと、前面に押し出されていた。


「なんでお前がここにいるんだ、役立たず!」


「知らないさそんな物。呼ばれたくなかったんだけど、帰ったらいけないみたいだから参加してんだよ」


しれっと受け流して答えれば、それが気に食わなかったらしい。

間違いなく。

アリーズはおれの隣が不愉快そうな顔になったのにも気付かないで、おれに殴りかかってきた。

おれに対しては通常運転で暴力をふるうっていう、習慣は変えられなかったらしい。

そして、周囲の人間が、いきなりおれに殴りかかるアリーズをみて仰天していた。

そりゃそうか。これから一緒に砦を攻略しなければならない人間が、仲間になる相手を殴るなんて普通はない。

それもおれの言葉は大して、人を不愉快にさせない一言でしかなかったんだから。

迫ってきた拳を、おれはだまって受けようとした。

でも。

おれにぶつかるその直前、隣の手がその拳を受け止めた。

殴打の音が嫌な程響き、周囲のどよめきも大きくなる。


「なぜ殴った?」


隣の聖騎士が問いかける。でも噴き出した文句は飛び出す事を今か今かと待ち構えていたんだろう。頭に血が上ったアリーズは、彼の問いかけに答えず、怒鳴る。


「お前なんかがいなくなったからってなんで、俺たちのランクが下がらなければならなかったんだ! お前がありもしないでたらめをギルドに申告したんだろう!」


「ありもしないでたらめはしてないさ。事実だけ」


ここでカーチェスの事は言うまい、と決めていた。言えばカ―チェスが殺されてしまうかもしれなかった。

あいついい奴だったから、殺される可能性なんて欲しくなかった。


「アリーズ、落ち着け。ここでその話題はおかしい。意味がない」


聖騎士が静かに言うと、アリーズは彼の顔を見て思い出したらしい。

彼が修行にいっていた仲間だと。

そして豹変したように親し気な笑みを浮かべ、笑う。


「何だ、ディオじゃないか! はは、すまなかったな、頭に血が上ってしまっていた。そこの役立たずが、こちらに非道な真似を散々したんだ。聞いてくれるか?」


「非道な真似?」


そうか、剣士はディオって名前だったのか。なんて思っていたら、彼がちらりとおれを見たのちに言う。


「いや、非道はお前たちの方だ、アリーズ。いきなり殴りかかるほうが悪い」


「なんだって、お前は昔から役立たずに騙されているんだ、その性悪に」


おれはいい加減聞くのも無駄な気がして、ちらりとアリーズを見てからディオを見る。


「庇ってくれてありがとうな、剣士。じゃ」


おれの会話は打ち切りだ。アリーズがいる状態で話すものは何もない。

アリーズってあんな嫌な奴だったっけ、それともおれがもっと優しくてまっとうな人たちを知ったから、そう見えるようになったのだろうか。

いまいちわからなかった。

ただ一人そこを後にして、壁にもたれてそこを眺めれば、アリーズがあの手のこの手の話題でおれが、いかに非道かをまくしたてているらしいのが見えた。

そして、周囲のたいまつに選ばれた人間たちも、おれを侮蔑のまなざしで見つめてくる。

慣れっこだこんな物。アリーズたちに延々、こんな視線を、向けられていたのは古い記憶じゃない。

でも。

ディオはいい加減聞き飽きたのか、アリーズに何か言って黙らせた後、おれに近付いてきた。

ここで近付いてくるのかよ、神経太いな。

その辺にあった飲み物のジョッキを片手に、彼は言う。


「気にするな、アリーズの不当な評価はいつもの事だっただろう。しかしなんであんなにお前嫌いが加速している?」


「おれを粗大ごみ置き場に捨てた後から、散々な目でもあったんじゃないの」


「お前を捨てた?」


「そ。吹雪く真冬の夜に、粗大ごみ置き場に、装備を身ぐるみはがして捨てた」


軽い言葉の中の重さは、結構な重量だった。どこかがずきりと痛んだ気がしたけれども、ディオがおれの頭を撫でてきたので何も言えなくなる。


「良く生き延びていてくれたな」


「拾ってくれた奇特な人がいたから」


「今はどうしているんだ」


「その人の家で番犬をしてる」


「番犬?」


「変な客を追い返したりするから、通りがいいのが番犬なだけ」


おれはジョッキを受け取り、中身の水を飲んで呟く。


「おれひとりいなくなった程度で、酷い目に合う程度の実力なのに、それに気付かないでいたなんてあいつら、馬鹿だよな」


「馬鹿はあなたじゃないのかしら」


また聞きたくない声が近くからかかり、いい加減こいつら、おれに絡むのやめてくれないかなと思いつつ、そちらを見る。

マーサも何処かくたびれていた。目の下に隈が浮いている。


「どうせどこかの人間を騙して、転がり込んでいるんでしょう。正体を知られれば追い出されて暴力なんて、私たちの比じゃないのに」


ジョッキの中身を飲む事で黙っていれば、マーサもイライラしていたらしい。


「あなたいい加減、家に戻ってきてもいいわよ。あなたみたいな役立たず、どこに行っても役に立たないんだから、わたしたちの役に立つのが最善よ」


「あっそ。……ふとったね、ちゃんと栄養の偏らない食事しているなら、太りやすいマーサも太らないのに」


次に来たのはメイスの殴打で、彼女は癇癪を起したように怒鳴る。


「うるさいわね! 女性に体重の話なんてなんていうどうしようもない奴なの! 屑がチームから捨てられて、自由でいい気分なのかしら? あなたみたいな蛍石程度のランクのっ……!?」


メイスの殴打を手甲で遮っていたおれは、面白半分でソロタブレットを見せた。こいつに見せたらどうなるんだろう、って興味がわいてしまった結果だ。

そして相手は、鋼玉のタブレットを見て凍り付いた。


「な、なんですのそれ……あなたは低級の役立たずでしょう!?」


「書類が必要なチームランクはね。でも自動的に実力で更新されるソロタブレットはこの通り。あんたらの柘榴石よりはずいぶん高いよ」


「どうせ体で支払ったんでしょう、汚らわしい!」


「ランクは体でも金でも手に入らないだろうに」


隣でディオが呆れているが、マーサはそれに気付かないでおれだけを見ている。

膨れ上がった憎悪がはじけそうだ。

やばいな、恨みを買うってあんまり得意じゃないのに。

そしておれもいい加減、こんな風にありもしないでたらめを並べて、風評被害がひどいのも、いきなりの暴力も、嫌になっていた。

だから提案を持ち掛けたのだ。


「じゃあ実力で勝負しようよ、ちょうどいい物があるんだから」


「勝負ぅ? 雑用が何を言い出すのかしらぁ」


騒ぎを聞いて現れたミシェルが、にやにやとしながら言葉の続きを待つ。

仲間二人がおれと対峙しているから、近付いてきたアリーズもこっちを見る。


「簡単だよ、おれとあんたらと、どっちが扉を攻略できるか。白黒はっきりつけられるだろ? おれが勝ったらありもしないでたらめを周りに、べらべらしゃべるのも、おれのせいって何でも責任押し付けるのもやめろよ。さっきから聞いていて見苦しくてしょうがない」


「じゃあ、私たちが勝ったらお前を正式に奴隷として今の主から買い上げよう」


アリーズが何か思いついたらしい顔で言う。おそらく、この薄汚れた感じからして家もきちんと維持できていないのだ。

だから、暴力を振るいたい放題の奴隷……奴隷って禁止されてるけど……を手に入れたいんだ。鬱憤が晴らせる相手を。


「買えるものならね」


よし、乗ってきたと思っていれば。


「まて、四対一では不利が過ぎる。俺はナナシの側に付こう」


ディオがおれの隣で、おれの肩を抱いて言い始めたから、誰もがぎょっとした。


「お前が付いたらこちらが不利だろう!」


「そちらには遠距離からも攻撃ができるシャリアもいただろう。それとも、四人でもナナシ一人に勝てないからそんな事を? つまりナナシの実力はお前たち四人まとめたものより上というわけか?」


挑発が過ぎる、と思っていれば。アリーズはわなわな震えて、怒鳴った。


「そんな事があるわけないだろう、そこの役立たずに」


「ならば役立たずに少し手助けが入るだけだろう」


「ちっ」


アリーズは舌打ちをして、結局同意した。


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