選別=いや、選ばれたくなかったんですけど
それでおれは、寝ていたはずなんだが……なんかがやがやすると思って目を覚ました。
がやがやしてるのを認識してから、一秒ではね起きたわけだ。
異常事態だからである。
立ち上がる、いつでもどこでも家の中でも、肌身離さず腰に下げていた道具袋の確認はすぐだった。
すぐに中に手を突っ込んで、そこでやっと周りを見る余裕が出来た。
そこは石造りの大きくて広い建物の中で、おれの目の前では青白い炎を燃やすたいまつが置かれている。
置いている道具も銀色の豪華な物で、一目見てなんか重要そう、と感じるものであった。
何が起きたのかさっぱりわからなかったんだが。
そのたいまつの隣に、昨日見た女の子を見つけて、驚いた。
「あれ、砂の賢者さん」
「あなたは昨日の子犬さん? あなたもしかして、名前のない冒険者なのかしら」
「名前は確かに持ってないけど、それがどうかしたの?」
彼女はたいまつを見て言う。
「名前が出て来るタイミングで、名前が何も出てこないから何らかの不具合が起きたのかと思ったら、あなたが転移させられてきたから」
「じゃあ大丈夫だと思うよ、不具合は発生してない。おれ名前もってないもん」
「そう。じゃああなたはそこから退いてくれるかしら。そこがちょうど転移陣が出て来る場所で、次の人が出て来るのよ」
「えーっと、その前に、聞いても?」
なんだか嫌な予感がするなあ、と思いつつ聞いてみる。当たってなきゃいいけど。
「おれ、もしかして、“選ばれしもののたいまつ”に呼ばれちゃった感じ?」
「まさにそれよ、いま選別を行っている所なの」
「拒否は」
「たいまつが選んだ時点でないわね。諦めなさい」
「お兄さんに連絡の一つも取れてないって!」
「大丈夫、私からあなたの事を連絡するわ。これからあなたも作戦会議に入れられて話を聞く事になるもの」
砂の賢者がそう言ってくれて安心した、文字のかけないおれの所在を教えてくれるらしい。ありがたい。
おれはそのまま転移陣が出て来るというところを退いた。
そこでほかの人たちも、選ばれたんだろう人達なんだけれど、興味深そうにこっちを見ていた。
「知り合いだったのか? 砂の賢者殿と」
「昨日彼女を、使者だった騎士の人に案内したばっかりでして」
しれーっといえば、なるほどと返ってくる。だがおれを上から下まで眺めて、言われたのは腹が立った。
「君は何の職業なんだい、見た所剣士や武闘家といったたぐいでも、盗賊や僧侶でも有得なさそうなんだが」
「盾師」
「またそんな、時代遅れの職業なのかい、新人だろう、やめた方がいい、儲けもうま味も何もない、貧乏くじばかり引かされる職業だ」
「まあ貧乏くじは引きまくったけど、今楽しいからやめる気はない」
肩をすくめての言葉に、剣士だろうおじさんは何も言わなかった。
たいまつはその後、次々と人を転移させてきた。
みんなびっくりしてたけれども、たいまつを見て納得していた。
そうか“選ばれしもののたいまつ”は、見るだけでそれが何なのかわかる人の方が、多いのか。
おれ全然わからなかった。修行でも足りないんだろうか。
まあいいか。
そんな風に見ていたのだけれども。
最後に呼び出された面子をみて、おれは人陰に急いで隠れた。
だって。
なんで暁夜の閃光のメンバーが呼ばれてくるんだよ。
……あ、たしかにいい武器使っていて、階位=三以上の術を付加してあった。
だから呼ばれたんだろう。実力としては低くても、武器を基準にたいまつは選んだんだろう。
彼等は回りを見回して、たいまつに選ばれた事に胸を張ったようだった。
あいつらに気付かれないようにしないとなあ。
いちゃもんつけられたら、たまったもんじゃないし。
そして、暁夜の閃光のメンツでたいまつは選び終わったらしい。
ふっと青白い炎が消え去り、そこでえらそうな男女が前の方の壇上に上がり、言い出した。
それはおれが使者の騎士の人から聞いた中身と、全く同じであり、三日の作戦会議と交流の後、闇の教団の砦に入ることを宣言した。
ざわめいたのも一瞬であり、物語のようなお姫様救出劇に、面白そうだと感じている人間の方が随分と、多かった。
おれとしては帰りたいんだが。誰か帰っていいって言わないかな。
集められたのは十九人。そこからさらに、帝国の騎士とかも加わるから、数は十倍くらいに膨れ上がるかもしれなかった。
ぞろぞろと、さっそくの作戦会議のための部屋に向かう時。
「ナナシ?」
背後から声をかけられ、おれは思わず振り返った。
「あれ、剣士?」
意外過ぎる再会だった。そこにいたのは、一年間修業をして来ると言ってチームを抜けた、友人のような剣士だった。
かなり鍛えられたのだろう。どことなく雰囲気が違うし、持っているものも剣士の物より上級だ。職業があがったんだろうか。
めでたい事だ。
「久しぶり。一年ぶりってわけか」
気安く肩を叩けば、彼は目を見開いたままだった。
どうやら彼は、おれより後に呼ばれていて、おれを集まった人の中から見つけていなかったらしい。
人が多いとそう言う事もよくあるわけだし、それにしても懐かしい。
「懐かしいな、修行どうだった? 大変だった?」
懐かしさで軽口を叩けば、一人の騎士がおれを剥す。
彼とのやり取りを見ていたらしい。
「無礼だぞ、聖騎士相手に」
「聖騎士……! へえ、あんた聖騎士になったんだ! 何にも信じてなさそうだったのに」
目を丸くすると、彼が目を細めて笑った。
「ああ、信じているものがあったらしくてな、聖騎士になった。それにしてもお前は変わらないな。相変わらず切り捨てたくなる平和顔だ」
「あんたに切り捨てられるほど、弱い覚えはないけど」
「知ってるさ」
噴き出して、本当に懐かしそうに笑うこいつ。おれの知っているこいつで間違いなくて、おれは背伸びをして肩を組んで、言った。
「じゃあ、作戦会議に参加しよう。って言っても、おれには何の対策も見つからないけどな」
「そうか。……お前は一年で少し変わったな、背丈が伸びた」
「まじ? やったね、ちびじゃないのは嬉しいんだ」
肩を組んで作戦会議の部屋に入るおれら。
視線が一瞬集中したけれども、隣が気にしていないから気にしない事にして、座っているメンツの背後で会議を聞く事にした。
会議では、砦の出入り口である扉をいかに攻略するかに重点が置かれていた。
そこが一番のかなめの様だ。
確かに、たくさんは存在しない出入口だから、いかに開けるかは重要だろうが。
砂の賢者が判断した事を、会議に参加していた本人が告げれば、また難しい顔になった。
攻略の難しいものがあるんだろう。たぶん。
おれからすれば。
ちらっと周りを見て思う。ここにいるのは“選ばれしもののたいまつ”に選ばれた、階位=三以上の術を持っているか付加された武器を持つ面子。
一斉攻撃すれば、さすがの扉もただでは済まないと思うんだけれど。
そこのところどうなんだろう。
おれがそんな事を思っている間、いかに速やかに扉を壊すか、といった議題で、結局、一斉攻撃ではなく、連続で攻撃を加えて、扉を壊すという事で話が終わった。
その後は誰をどの順番で持っていくかだった。
みんなそれぞれ得意な攻撃とかがある中、おれはちょっといたたまれない。
だって得意攻撃、打撃だもの。デュエルシールドでの殴打だぜ、おれ。
皆順番に言っていき、それをメモにしてまとめていた騎士が、最後におれにも聞いてくる。
「あなたの得意とする攻撃は?」
「打撃」
「は?」
今までの面々が、いろんな術をまとった攻撃を並べたなかで、おれのこれは実に簡単すぎて、は、ともう一回言われる。
「打撃? ただの? 加護とかついているわけじゃなくて」
「全力で殴るのが得意」
彼等は聞かなかった事にしたらしい。
周囲がなんか、ざわざわしてた。こんなのが聖具に選ばれたなんておかしい、といいたそうだが、おれだって言いたい。
……でもおれとしては、お兄さん曰く“無知の防御”が出てきそうな自分の攻撃は、緩和されたりしないで扉にぶつかるだろう、とは思っていた。
そして、役立たずは中盤でやってみるだけでいいという雰囲気で、おれのぶつかる順番は決まった。
これに対して、剣士は何も言わなかったけれども。
作戦会議が終わった後、彼はおれの所に着て、言った。
「お前が役立たずなんてありえないだろうに」
「まあまあ。事実として打撃しかできないってのは派手でも何でもないから、しょうがない」
「お前は俺よりも強いだろうに。……ランクが上がったのか? ソロタブレットが鋼玉になっている」
なだめる調子のこっちの首に、手を当てたと思えば、剣士はおれのソロタブレットを見つけたらしい。
少し目を丸くした後、言う。
「ソロだとこんなにも上位なのか、お前」
「上位だって判明したのつい最近だから、最近になってつけるようになった」
「俺はまだ黄玉だぞ」
「その順番何処」
「お前の一つしただ」
「大丈夫、直ぐにおれを超えられるよ」
努力家を慰めれば、足音荒く複数の人間が現れた。
「おい、能無し!」
怒鳴ったのは、ずいぶん久しぶりに見たアリーズだった。




