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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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神様=信じられなかったら認知されない。

賢者と騎士が去っていく。それを見送ったおれは、お兄さんの言葉を思い出して問いかけた。


「お兄さん、おれの相手、楽しいの」


「楽しいとも。何しろ目に見ているお兄さんの部分だけで、何でも評価してくれるからな」


「お兄さん実は、身分とかいろいろ縛り多かった系ですか」


「さてどうだろう、見たままが答えとしか、言いようがない」


お兄さんのはぐらかしだ。でも、なんとなく。

何となーく、お兄さんは見たままで見てほしいんだろうと察する程度の、洞察力もおれにはあったから、答えなかった。


「騎士はここの場所が分からなかったから、自力でここまで来るしかなかったが、街から帝国の都まで、賢者を連れて行くなら転移陣が可能なはずだ。おそらく明日には、“選ばれしもののたいまつ”が灯され、選ばれたものがたいまつによって都に転移させられる」


「え、“選ばれしもののたいまつ”って転移までできちゃうんですか」


てっきり、炎の中に名前が浮き上がるだけかと思っていれば。

そんな能力も持っているのか、たいまつ。

すごいな、聖具というだけあって結構珍品だ。

感心していれば、お兄さんが首をかしげておれを見下ろしながら、言う。


「じゃなかったら、遠くにいるかもしれない、目的に見合う人間に命じる事も何もできないだろう?」


「へー、確かに」


そうだ。

言われれば納得。


「じゃあ、目的によっては顔も合わせたくない奴らと、会っちゃったりするわけですね」


「だな。出来れば選ばれない方がいい組み合わせも、たいまつは無視する。実力だけで判断するからな、あのたいまつ」


お兄さんは、選別を見た事があるような言い方をしたあと、おれに言う。


「子犬、お腹が空かないか」


「今日は何にしましょうね、何が残ってましたっけ」


お兄さんの空腹を訴える言葉ににやっとしたおれは、さっそく台所の中身を探し始めた。


「待ってる間、お兄さんは、これの具合を見てもらえませんか? 砂が中にもぐりこみ過ぎて、重量感が変な感じなんです」


おれは道具袋の中から、デュエルシールドを出して見せた。

ちらりと見たお兄さんが、それをもって、手入れ用の布を床に敷き、解体して調べ始めた。

それをちらっと見てから、おれも調理に取り掛かる。

ヨーグルト残ってた。匂いを嗅げばそこそこ危ない。オアシスに生えているきゅうりと合せてサラダにしよう。昨日仕留めた名前の分からない四つ足の肉もある。毒はないからお兄さんには無許可で昨日焼いて出したら、さっぱりしてておいしかった。

肉は熱くした石の上に乗せて焼く。これが結構おいしい焼き方だ。

あとは……何にしよう。

割と真面目に考えつつ、おれは食事を作り終えた。

結局粘りのあるモロヘイヤをすりつぶしてスープにした。何故っておれは長い事大変な思いをしていたけれども、毎日スープだけは飲んでいたからだ。

温かいスープは腹にも優しいわけだしな。


「中の隙間に砂が溜まっていたな、あれによく気付いたものだ。普通気付かない」


「あれ、第二の腕みたいな感じですごい、しっくりきて、だから気付いたんです。なんか可動部分じゃりじゃりするなって」


「……そうか」


お兄さんはおれの言葉が、説得力があるようなないような感じだから、なんとも言えなさそうだ。

確かに、普通気付かない事に、魔物を相手にもしていないのに気付くって、結構変だと思う。

でも、気付いたのだ。じゃりじゃりするなあって。

でも、こう言う武器は分解するのも技術者の方がいい事が多いから、自分で分解するのを我慢して、お兄さんに面倒見てもらったわけである。

ほんとじゃりじゃり。

二人で囲むご飯は、おればっかり話す事もあれば、お兄さんの知識披露の場だったりする。

今日はおれの番のようだ。


「時々、あるんですよね。武器とか持つと、あ、こいつ砥ぎが悪いとか、中にゴミ溜まってるとか、油さしてないとか、弦が古いから付け直さないといけないとか」


それを仲間に言ったら、だったらお前が手入れしろ、と全部投げられたっけ。

だからおれも、大体の武器の手入れは出来るんだが。

お兄さんのくれた奴は、何と言うか、おれが今まで相手にしてきた物と違う気がして仕方がないから、やっぱりお兄さんに預けるわけだ。


「とくにお兄さんのくれた奴、分かりやすいんですよね」


お兄さんはそれをじっと聞いていた。考えているらしい。お兄さんは考えるのが好きだから、やっぱり考えるんだろう。こういうの。


「子犬、何かしらの加護を持っていたりしないか」


「おれが? ないない。……信じてもいい神様なんて、この世のどこにもない」


加護は、信じていなければ付けられないと言われているから。

おれみたいな、何の神様も信じる気にならない奴に、そんな物がついているわけがなかった。

だって信じて助けてもらえるのだったら、親父と母さんを助けてほしかった。

生き別れの母さんが、今どうしているのかなんて、知らないけれど。


「子犬は信じたいものがないのか?」


「お兄さんだったら信じる」


この返答に、お兄さんが目を見開いた。その反応は新鮮だった。


「私を?」


「そ。お兄さんが神様だったら、信じてもいい。助けてほしいとかとは、ちょっと違うけど、お兄さんなら信じる」


最後の一匙まで飲み干して、おれはお兄さんの底なしの暗闇色の眼を見る。


「忠犬にとって、捨てられて絶望して震えてる時に、手を伸ばして拾って救ってくれた相手は、神様みたいなものでしょう?」


「子犬、本物の犬と同じ基準で、自分を考えないでくれ……」


お兄さんの表情が呆れたものに変わったけれども。

おれは目を見たまま続けた。


「だって事実ですから」


命を懸けても後悔しないものが、神様に対する思いなら。

お兄さんへの思いは、それにとてもよく似ている気がした。



「あー、やっぱりこれですよね」


「私としては、床に毛皮一枚を敷いて寝転がるのは、背中が痛くなりそうなのだが」


「もっと薄っぺらな毛布一枚とか、マント一枚の時代が長すぎて、お兄さんのベッドふわふわ過ぎて寝返りが打てないんですよね。体かちかちになっちゃって。この前毛皮持ってるやつ見つけて、本当に、よかった」


寝る時間に、おれは壁に丸めて置いておいた毛皮を広げる。これはでかい羊みたいなやつの毛を刈り上げた時に、手に入れたものだ。そして職人ギルドに、編んでほしいと依頼したら、快くやってくれた。たぶん一緒に見つけた、聖百合の根っこのためだろう。

あの羊は、聖百合の群生地で用を足して、一斉に去っていくらしい。聖百合はそれを養分にするから、とりわけ大きかった。


「じゃあおやすみなさい、お兄さん」


砂漠の夜で、結構冷えるから布を一枚かぶれば、もうおれは眠れる。

お兄さんも寝台に入ってから、おれは明かりを消した。

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