昇級=盾師は本当の証を手に入れた!
「その親は何か特殊技術を持っていたのか?」
ジョバンニさんが問いかけてくる。何でそれを聞くんだろう。
おれは両方に、自分の情報をあまりしゃべったらだめだって言われていたのに。
「言えない。というか……親父と母さんの使っていた物の何が特殊なのか、分からないから持っているとも持っていないとも言えない」
「確かに、何が特殊なのかわからなければ答えようがないな」
お兄さんが納得したように言った後、続ける。
「さて、子犬。知らせたい事は知らせた。手紙を送ろう。それがこんな所まで着た一番の目的だ」
「はあい」
そうだった。なんかカーチェスの事ですっかり忘れかけていたけれども、大事なのはそこだった。
「なんだ、ギルド経由の郵便が使いたかったのか、どこに送るんだ」
「帝国の王宮だ、奴らは私を賢者と勘違いしているから、仕事が違う、やれるわけがないと抗議の手紙を送るだけさ」
「沙漠の隠者、お前ほど隠者として隠れようとする意思のある隠者、滅多にいないぞ。最近の隠者と称するやつらは、売名行為が目立つからな」
「隠れ住むのが真理だ。ジョバンニ。行くぞ子犬」
お兄さんがおれの手を掴み、そのまま扉を開ける。
「ああ、だが子犬の階級を正しくしておけ、それだけは言っておく」
「階級高くなって得になる事は」
「実力を下に見て舐めてかかるものたちには、いい牽制だ」
「蛍石からいきなり金剛石とか、なんか袖の下でも送ったみたいでいやだな」
「首から下げているチームタブレットではなく、ソロタブレットを出してもらえ。たしかギルドに加入している冒険者のタブレットのなかで、使用されていない物はギルドの保管庫に保管されていたはずだな」
「ああ、凡骨のならすぐに見つかるだろう」
鋼玉なんて一握りだからと、マイクおじさんが続けた。
ちなみに、ソロタブレットとチームタブレットは見た目からして違う。だから本人がどっちを優先しているかもすぐわかる。
ソロは剣が一本。チームは複数の剣が交差する。
な、分かりやすいだろ。
二階から下りて、お兄さんに郵便の出し方を教えている間に、おれのソロタブレットは見つけられたらしい。
マイクおじさんが持ってきてくれたわけだ。
「今のうちにつけておくといい。それからチームタブレットは回収するぞ」
「わかった」
「いくらチームタブレットとソロタブレットの術がつながっているとはいえ……蛍石が中層以下に潜る理由を誰も考えなかった辺り、暁夜の閃光の馬鹿さ加減が目立つな」
おれは首から下げていたタブレットを渡して、新たなタブレットを頸からぶら下げた。
これは一度首からぶら下げたら、よっぽどの事が無い限り外れない、呪いみたいな部分がある。不正防止なのだとか。よくわからない理由だけれども。
「鋼玉の単剣か、子犬によく似あう」
お兄さんが、おれの首から下がるタブレットに触れながら、満足げに笑った。
「子犬、嫌な事をされたら、誰であっても迎撃していいんだからな」
じっと目を見つめて確認してくるお兄さん。
お兄さんがしたとしても、迎撃が許されるんだろうか。
そんな確認のために、問いかけた。
「いいの?」
「この沙漠の隠者が許可する。お前にそれをな」
いいらしい。
チームの誰も、嫌なら嫌だと言っていいなんて言わなかったっけ。
いつも我慢しろっていうばっかりだったような気がする。
まあいいか、今はもう関係ないわけだし。
おれの立ち位置は明確で明白なわけだし。
お兄さんの隣はすごく居心地がいいし。
平手打ちくらいは痛いだけだし。
「言っておかないと我慢するからな、この凡骨」
マイクおじさんも苦笑いをしたその時である。
送られてきた書類を見ていたのだろう、見覚えのある美女の受付嬢が、悲鳴を上げていた。
「なんなんですこれ! わたしどう彼らに説明したらいいんですか!?」
「エミリシアだな。凡骨、忘れたのか、暁夜の閃光をよく担当するギルド受付嬢だ」
「……ああ!」
ミッションを受ける時、たいていぼろぼろで周りなんてまともに見なかったから、顔とか声とか全然認識してなかったわ。
そっか、あれがいつもの受付嬢か。
彼女は真っ蒼になって周りの受付嬢で、手が空いている人に相談している。訳が分からないんだろう。
彼女からしてみれば、降ってわいた災難だろうから。
たった一人、誰もが役立たずとののしっていたおれが抜けただけでミッションをまともにこなせなくなったチームとか、考えないだろう。
「彼等のランクもこんなに下がって、あなたどうしたら彼等と穏便に話せるっていうんです? マイクさん! 知恵を貸してください!」
書類を一緒に見ていた、手の空いていた受付嬢もこっちを見て呼ぶ。
「書類に書いてある通りだろう」
「だってこの前まで、中層なんて簡単にこなしていたチームが、こんな不手際をして、依頼主に危害まで加えていたなんて」
「階級が下がることを恐れて行った馬鹿だ。もしもつかみ合いになったら保護魔術が発動して守ってくれるから、毅然と対応するように」
「大丈夫よエミリシア、その保護魔術、ここより危険な奴らにこの前発動して、行動不能にしたくらいだから」
「中身何だったんです」
「耐えがたい悪臭で気絶だったわ」
「強すぎる」
悪臭ってすごいもんな、強さ。
おれが保護魔術の有益さに感心していれば、お兄さんが言う。
「相手も自分も無傷、を歌うのが保護魔術だから当たり前だ、子犬。これで手続きは完了か」
「あ、完了です。で、この箱に入れれば書いた文字に反応して手紙は転移します」
「便利な機能がギルドにできていたものだ」
「おれもそれは同じ思いですよ」
受付嬢たちが慌てている中でも、我関せずのお兄さん。
お兄さん関係ないもんな、あれ。
おれも関係ないか、もう。
「さて、街に出てきたのだからなにか買い物をするか。変な鉱物の鑑定もしたい」
「じゃあおれいいところ知ってるんですよ、鑑定の達人のおばあちゃんの家」
「それは頼もしい」
お兄さんが歩き出したから、それに合わせて歩き出すおれ。
ギルドの外に出れば、吹雪は止んでもさっむい風が首をかすめる。お兄さんも大した防寒着じゃないけど、おれはもっとちゃんとしてない。
うう、服が洗濯してきれいでも、この寒さ、温かいギルドから出ると堪えられない。
ぶるりと震えたおれを見て、お兄さんがおれの腰を引き寄せる。
「寒そうだな、子犬。行きは暴れまわって温かかったのか、それとも吹雪が凄まじすぎて感覚がマヒしたのか」
何て言いながら、同じ外套の中に入れてくれるのだ。
「歩きにくくないですか」
「少しばかり。やれ、働き者の子犬に新たな外套をそろえてやるのがいいか」
「うんと実用的なのがいいですね、おれ、材料はいっぱい持ってるんですよ。これは冒険者ギルドじゃなくて、職人ギルドに出さないと価値がつかないって言われて、出してないやついっぱい」
「それは頼もしい。私もそんな物をいくつも持っているな」