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その後の話 3

盾師が足を止めた時、突如神殿の方で爆発が起きた。

あ、また何か起きたな、と誰もが分かるくらいの爆発だ。それを見ている盾師は、それが元勇者の引き起こしたものだと、だいたい想像がついた。


「あいつ今度は何してんの」


『さあなあ、ここから見たって何のことかさっぱりだ』


「でもあいつ、爆発する友達なんていたっけ?」


盾師のつぶやきに、大真面目に呪いの本が答えた。


『爆発は……今までいなかったんじゃねえか?』


「ここで新しい友達が出来てても、いくらなんでも砂荒神の神殿で動くほど、上位じゃないだろ……?」


『じゃあアリーズの友達じゃないんだろ、あれ』


結論をさっくりと言う呪いの本だ。まあ行ってみれば何のことかわかるだろう。

盾師はそのまま、がやがやと騒がしい人々の間をすり抜けながら、神殿の方を目指す。

神殿に祈るために、列を作っていた人たちもまた、突如の爆発に驚き、列は乱れに乱れ、もうどこが列だったかわからない。

そんな状態なので、間をすり抜けていくのを咎める衛兵はいない。

そして到着し、砂の神殿の一角の爆発の方から現れた、埃まみれの女性を見て、盾師はそっちか、と呟いた。


「今度は何をしたんだよ、砂の賢者」


「あら、かみおろしの盾師さんじゃないの。彼だったらとっくにお勤めを終わらせて、市場の方に向かっていたわよ? なんでも友達のお祝いの日だからって」


埃まみれの女性は、普段ならば化粧も美しく、衣装も見事な物をまとう階級の女だった。

彼女はこの砂の神殿の、新しい賢者だった。

賢者と言うだけあって、色々な文献を読み漁るのは趣味だろう、と思っていたが。


「まさか爆発を起こすなんて思わなかった。周りにけがはなかったか」


「ええ、幸いなことに近くの皆はもう慣れていて、あの実験の途中で離れていったわ」


「あんたは?」


「わたくしは、守りの結界を得意とする砂の賢者だもの。自分の身くらいは守れるわよ」


にこりと笑った赤い唇の彼女は、そして周りを見回した。


「皆さんを驚かせてしまったみたいね。早く直さなきゃ」


「その様子だと、なんだっけ? 固定=トキトメ、でも使ってたのか?」


固定=トキトメとは、物を一定の状態に固定する術である。これをかけておけば、壊れてもすぐに元通りにできる術であるが、制御の難易度はひどく高い。

一般的にホイホイ使える術では、当然ない。


「ええ。大掛かりな実験をするときはいつでも、それを使っておくのよ。これを使うと、使った薬草とかは補填されないけれど、建物は元の通りに戻るから、便利なのよ」


「あんたでも、いつでもかけておくってのは出来ないのか?」


盾師は興味本位で問いかけた。賢者と言う肩書を持つ、強大な力の持ち主でも、一時的にしか使っていないように聞こえたためだ。


「そうしたら、力が枯渇して干からびてしまうわ。一時的な術だから、まだ人間でも扱えるのよ」


さらりと答えた賢者が片手をふるい、指先が淡く輝く。そして物の一秒で元の通りに建物が戻された。壊れた形跡などどこにも見当たらない。見事な術だった。

おお、とどこかでどよめきが聞こえたが、それもこれも賢者の能力が高いから出来る事だ。

一般的な魔法使いでは、こんな真似は逆立ちしたって出来っこない、と盾師ももちろん知っている。


「市場の方に使いを出しておきましょうか。あなたのかみおろしは、いくら一緒にいる聖騎士が常識的でも、あっちをふらふらこっちをふらふらして、行き違いになってばかりだもの。あなたがここで待ち構えていた方が、早く合流できるわ」


「そう言うの出来るのか?」


「ここは砂の賢者の領域ですもの。どこの誰に何を伝えればいいのか、きちんと分かっていれば簡単な事」


「魔法使いってそう言うのがすごいよな」


「あら、あなたの方がすごいわ。わたくしは今でも、あの可愛いかみおろしに距離を置かれているのだもの。近寄れないって謝られた時、あんまりにもぼろぼろの魂をしていたから、一体どんな環境で育ったのか疑問だったけど。この前ララさんから手紙をもらって、納得したわ。そうだ、数時間前に、新しい勇者一行が来たのよ。お祈りをしに」


「新しい勇者はどっち方面出身なんだ?」


「海辺の沙漠よ。お祭りの時にはここにも何人か来るくらいの距離の。黒髪と褐色の肌の青年ね。剣じゃなくて弓を使う勇者よ」


「それは迷宮と相性が悪そうだな」


「迷宮は狭い物ね。本人もそれを気にしていて、新しく剣を鍛えるべきか悩んでいたわ。勇者だって分かるまでは、狩人をしていたそうなの」


「……気性はどんな感じだ?」


「快活な人だったわ。あと面倒見のいい感じの人」


「……あんまり揉め事起こしたくないな、そいつと」


盾師が言う間に、賢者が地面の砂をつまみ、さらさらと風に流す。


「アリーズさんかディオさんに、盾師が来て神殿で待っているって伝えてちょうだいな」


風に流された砂は意思を持ったように動き、市場の方に流れていった。

数分後、息せき切って現れたのは、金髪のかみおろしではなく、一緒にいたはずの聖騎士だった。

彼は目に見えて青くなっており、盾師を見るや否や言った。


「アリーズがまた暴走して、今度はどこかに姿をくらませた……」


「ちょっと待ってくれ、それってどういう状況で!?」


「わからない、老婆に道を聞かれたアリーズが答えていた時……あいつがいきなり遠くを見て、蒼くなって、声をかけようとした時にはもう、影に飲み込まれていた」


「影にのみこまれてたぁ!? 近くに美女がいたとかじゃなくて?」


流石の盾師もそれは想定外だ。声がひっくり返った彼女とは逆に、賢者が思案する顔になった。


「もしかしたら……」


彼女の続けた言葉に、聖騎士と盾師は真顔になった。


「……どこ行ったかさすがに、追いかけられないよな」


「ナナシの呪いの本くらいだろう、それが出来るのは」


『今から探すのは出来ないぜ、もうじき夜だ。相方や聖騎士が追いかけられるって言ったって、できないぜ』


「なんで?」


『アリーズを隠したのは神だ。神が危険な時間に、自分のかわいこちゃんを外へ出すか? 十中八九朝が来るまで、自分の領域で守ってる』


朝になれば相方たちの所に現れるぜ、と呪いの本は太鼓判を押した。

それを聞き、盾師はしみじみと呟く。


「神々っていろいろわけわからねえな……」


「訳が分からないついでに、どうして迎えに来たんだ、今回はアリーズの同伴を俺だけにしておくように、とララさんが言っていただろう。いくつか、盾師でなければできない事を頼みたいと言って」


「それがな、ちょっと勇者関係で、放っておけない話を聞いたのさ」


盾師は深さの知れない白い瞳を、みどりの聖騎士の瞳に向けた。



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