到着=すでに頭痛の案件発生。
ちょっと訂正入ってます。呪い本の出番が増えました。
転移陣が発動して、帝都の転移装置に無事渡れたようだ。
ちょっと意外だったのは、そこが転移の部屋ではなく、開けた場所だった事。
いろんな人たちが、転移の順番を待っていた事だ。
ざわざわとしているのは、人込みの特徴だからだろうか。
それにしては、やけに興奮しているようなしてないような……?
「ここは……?」
「公共の転移施設だ。ここから俺たちが出て行かないと、次の人が使えない。出たらもう少し詳しく説明する」
一体ここは何なんだろう、周囲を見回せば幾つもの転移の術の陣が床に描かれていて、その前に術者が立っていて、順番待ちしている人たちから何かを受け取っている。奥の方では、装備品を片手に大騒ぎが起きている。あっちは何なんだろう……?
見回して動かないおれの肩を押しながら、ディオが陣の外に出る。
「はい、無事に転移完了しました、ようこそ、帝都へ」
おれらのいた場所の近くにいた術者らしき女性が、笑顔で挨拶をして来る。
それからおれの背後を見て、驚いて目を見開いた。
「オーガ……!」
「オーガだからなんか文句があるのか?」
驚いて動けなくなっている人を上から見下ろしながら、師匠が言う。
師匠、そのツラだと脅迫しているみたいですよ……なんでそんな怖い顔してるんですか、笑顔なのが余計に怖いですよ……と思いながらも、口に出せば殴られるので言わない。
しかしそう言った事に気付きやすいお師匠様。
何も言っていないのに、おれの頭をひっぱたいた。
「ってえ!」
「いまかなり俺に対して失礼なことを思わなかったか。ちびすけ」
「だからといって、思っただけで暴力をふるってほしくない。考える事まで止めさせるな」
師匠の事に食ってかかるディオ。おれはディオまで殴られるんじゃないかとはらはらした。
おれは慣れているからいいのだ。というかこういう扱いしかできないお方だとわかっている。
嫌なら防がなければならない、それだけの事になってしまうのが我らの師匠なのだ。
これで数百年、いろんな弟子を独り立ちさせてきた盾師なので、いまさら性格を変えろと言っても変わらないだろう。三つ子の魂百までっていうだろ、あんな感じだ。
「おお、ちびすけ、お前の彼氏はお前思いだな」
腹を立てて、ディオを転がすかと思った師匠だが、そうはならなかった。
おれとディオを交互に見て、にやにやしながら、よく分からない事を言いだす。ディオのやや黄色みがかった肌に、さっと朱が走った。
なんだ、と思ってまじまじと見ていると、剣だこのある大きな手がおれの目を隠した。
「あまりこの状態の顔をじろじろ眺めないで欲しい」
「あ、わかった」
「おお、いっちょ前に照れてるんだな」
「あなたもよけいな事を、どんどん言わないでもらいたい」
「すみません、そこを退いてもらえませんか? オーガの方。あなたがそこにいると、転移陣を発動できないんです」
「あー、悪い悪い」
おれとディオは転移陣から完全に出ていたけれど、師匠の片足が陣の中に入ったままだったようだ。術者の人に注意され、確かに悪いと思ったのか、師匠が軽く頭を下げて陣から出る。
「見ろよ、五つ角のオーガだ」
「本物かよ」
「百年に一回見る方がまれという、珍しい特徴だぞ」
「すごい装備だな、硫黄狼の毛皮なんて普通お目にかかれない……あれは、伝説として知られているななつ星の盾じゃないか?」
「ななつ星って扱いがとりわけ難しいっていう話の盾だろ?」
「すっげえ……あのオーガまさか百年前に帝都を救ったっていう伝説の?」
転移陣から離れるや否や、あちこちから色んな声が聞こえ始める。
それも師匠の事ばっかりだ。
あなたどれだけあちこちで、有名になる事してるんですか?
「師匠帝都で何かをしましたか?」
「最近は帝都に入ってないからな」
「……ナナシ、質問の仕方が少し違うと思うぞ」
「お、彼氏はどういう風に聞けば、欲しい答えが返ってくると思ってんだ?」
「だから彼氏と言われると困るんだ……ナナシがそうだと思っていないから。質問は、こうじゃないだろうか、“帝都で何か面白い事があった事はありますか?”だ」
「勘がいいな、気に入る質問だ。確か百年ちょっと前に、神殿が解き放っちまった巨大な竜を一匹殴って正気に戻して、生まれ故郷への道を教えてやった事がある」
「それ……か?」
「それだ、間違いなく。ナナシ、お前の師匠は簡単な事のように喋っているが、一般的に、封印されるような物を、殴って正気に返らせる相手は、滅多にいないからな」
頭が痛いと言う顔をするディオ。いろんな意味で一般的な物を知っているこいつが聞いて、頭が痛いと思う位、さらっとした喋り方だったんだろう。
おれはと言えば、師匠がとんでもない実力だとかいうのは今更すぎて、あんまり驚かない。
おれが疑問に思ったから、ディオはさらに頭が痛くなったんだろう。
どっちにしても、早くアリーズを見つけ出さなければ。