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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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通報=おい待てそれは馬鹿だろう!?


「それでは、話を聞こう。いったいどういう内容が、このギルドの信用にかかわるのか」


ジョバンニさんがおれらに椅子を進めた後に聞いてくる。

マイクおじさんも近くで聞く構えだ。


「マイク、お前もほかの受付に通達できるように、詳細を一緒に聞き、メモを取っておくように」


「わかってますよ」


「それでは……」


お兄さんが、カーチェスから聞いた話を一つ一つ話していく。

最初は平然とした顔をしていた、ジョバンニさんも最後まで聞くころには苦い顔になっていた。

どこの馬鹿がそんな事をしたんだ、と言い出しかねない顔だ。


「それで、その内容に間違いはないのだろうか」


信じたくもないんだろう。冒険者として、護衛の依頼でそこまで依頼主を危機に陥らせて問題ない、と報告する馬鹿どもだから。


「これで全部だろうか、カーチェス」


お兄さんがカーチェスを見やる。

彼は首を横に振り、さらに付け加えた。


「それに間違いはないのですが……付け加える事として二点ほど。彼等は俺が強制帰還用の魔道具を使おうとすると、まだ大丈夫と言い張り、そして最後には取り上げました。そしてもう一点、俺は彼らが報告する前にこれを、知らせようとして……一服盛られて眠らされました。あともう一つ」


言いながらカーチェスは上着の裾をまくった。

そこには……


「何というひどい傷跡……」


おれでもついていない位の、大きな爪痕がついていた。たぶん回復魔法を使っていたから、カーチェスは今でも生きているんだろう。

使われなかったら即死だったはず、と思うほどの大きなものだった。それは横腹一杯に広がっている。


「彼らは俺を守り切れずに、これだけの傷をつけさせました。そしてなんと、回復魔法を使わなかったんです」


ジョバンニさんどころか……マイクおじさんが信じられないというように叫んだ。


「待ってくれ、それじゃあ依頼主が死ぬところだったんだろうが! ミッションとしてあまりにもずさんな達成だ!」


「そうだな、どうしてその傷で生きている?」


「自前の蘇生ポーションを使いました。あとそのチームの魔法使いが、回復魔法も使えないのに出血を止めようと頑張ってくれたので、いま俺は生きています」


「そこのチームの治癒師は何をしていた」


ジョバンニさんの声が鋭い。ここで鋭くしてどうする、と思うのだが彼としても、そんな声になってしまうだろう。

だってあまりにもずさんすぎるし、能力に欠けているし、中層に入るには実力不足過ぎた。

自分たちだけならまだしも、護衛対象がいるのにその体たらくなのだから。


「魔力回復のポーションは、一日に三度が限界でしたよね、彼女は三度目まで飲んでいて。さらに魔力の温存のために、治癒を拒みました」


誰もが黙った。それはあってはならない事、やってはいけない事、治癒師として絶対にダメな選択だからだ。

この場合最善は、カーチェスが傷を負った時点で治癒し、強制帰還の道具で迷宮から逃げ出す事だったはずだ。

それを拒み、ミッション達成を優先する。

そんな問題のあるやつらがいるなんて……信じられない。

おれが開いた口が塞がらないでいれば、ほかの人達も似たような反応だった。

マイクおじさんが愕然としている。色々なチームを見てきたおじさんでも、ここまでの奴らは知らなかったんだろう。


「そんな輩に中層の許可は出した覚えがない、そいつらは何故弾かれなかった」


ちらりとマイクおじさんを見て、ジョバンニさんが言う。彼からしたらもっともな事だ。

ギルドマスターが許可を出していないのに、タブレットに許可証は添付されない。

でも例外があって、受付が独断で許可証を出した場合、ギルドマスターの知らない間に入れるようになるチームもあるのだ。

だがそれは厳重に罰せられる行為だし、出した受付はただじゃすまないし、チームはギルドから追放される。そして三年はギルドに再加入できないのだ。

普通はやらないし、受付はやりたがらないのだが。

マイクおじさんが、この場合の可能性を考えていく。


「受付の中で、ジョバンニギルドマスターが考える不正は、ここ数年の間は起きていません。一応それが起きた場合の警報器を、どこの受付にも設置しているので。となると……チームとして許可が出されていたけれども、メンバーの編成が変わった、というのがあり得そうな事かと」


「そこまで大きなメンバーの入れ替わりなら、受付から報告が入るだろう」


チームの実力を確認し直すために、一度許可は消えるはずだ。


「カーチェスと言ったな、君は。その愚か者たちのチーム名はなんだ?」


ジョバンニさんが言う。カーチェスは息を吸い込み、ためらいなく言い切った。


「暁夜の閃光です」


「マイク、取り扱ったミッションは該当するか」


「……該当します。担当はエミリシア。メンバーの大きな変更はありませんが……たしか、盾師を一人追い出したのがつい最近ですね」


「なるほど、カーチェスの話と一致するな。おそらくそいつらは、前方以外の敵を全部盾師に押し付け、いままでやってきたんだろう。……となれば階級を三段階引き下げろ。中層の許可証も取り上げ。それからそいつらの名前をブラックリストに乗せる。……採取ギルドの方にも連絡。慰謝料などが発生した場合はそのチームの貯金や不動産で支払うように。……全く、信じがたい馬鹿ぞろいのチームだったんだな」


ジョバンニさんがそこまで言った後に……おれはようやく復活した。

それまで、チーム名を聞いた辺りからおれの時は止まっていたのだ。

あり得ないと思ったせいで。


「あ、あり得ない」


おれが初めてこの場で声を出したから、誰もがおれを見た。


「ありえない、だってその盾師は、おれだ。おれは役立たずってずっと言われてきた。ミッションの失敗も全部おれのせい、にされてきた。一番弱いのはおれだって、言われてきた。なのに、なのに?」


おれは信じられなかったんだ。カーチェスの話は真実なのに、おれの今まで言われてきた言葉の数々が、暁夜の閃光がそのダメチームだと信じさせない。


「おれがいないだけで、そんなに弱体化、なんて」


呆然としたおれ。でもそこで、お兄さんが口を開いた。


「いいや、ありうる。子犬は盾師として強い。十分すぎるほど強い。前方以外の敵を全て平らげてしまうほどの力を持っている。子犬を追い出した結果がそれだ、という事に、私は何の疑問も持たないが」


「砂漠の隠者、その言葉に間違いはないな?」


「事実、ともに迷宮に入ってこれだけ、目の前の敵だけに集中できる盾師は普通居ないぞ」


「たしか無名の盾師のランクは……」


「チームランクとしては蛍石。階級としては下から三番目ですよ。ですがソロとしてのランクは鋼玉。上から二番目ですよ。……単独の実力は申し分ないので、チームランクを上げようとしても、文字が読めないので書類が提出できず、蛍石のままだったはずです」


「ああ……実力で自動的にランクが上がるソロタブレットと違い、チームタブレットは書類を書かなければならないからな」


ジョバンニさんが溜息をついた。


「そんな落差を……エミリシアは知っていたと思うか」


「いいえ。普通チームだったら、チームタブレットだけを確認しますからね」


彼等が何とも言い難い顔で、おれを見ていた。

カーチェスだけが興奮したように言う。


「え、ソロで鋼玉クラスって、凄腕じゃないですか!」


……皆様いろいろ言っているんだが。

おれはここで、きっと問題になりそうなことを聞く事にした。


「あの、すみません、蛍石とか鋼玉とか、なんなんです?」


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