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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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到着=初めて入った二階です。


冒険者ギルドはいつでも騒がしい。素材を持ってくる人やミッションを受注する人、それから新たな仲間などをもとめてたむろする人々。

そう言った人たちが集えばどうなるかなんて簡単で、軽い酒場のような状態になるのだ。

でも、お酒は出ないというところが酒場じゃないという違いか。

以前は酒も出していたそうだが、酒に酔って問題を起こした冒険者が数人いたため、お酒の類は出さなくなったらしい。

その代わりに、軽食くらいなら出してもらえるように変わったとか。

酒は高いのだ。色々。

おれはまだ飲んだ事が無い。お酒はきっとオーガの血が入っているから強いだろうけれど、あえて試したりはしない、これでもぎりぎり未成年。

そんな冒険者ギルドは、受付が複数あって、奥の方に軽食を出すカフェテリアがあって、別の一角には紙に書かれた依頼が貼ってある。

依頼とミッションの何が違うかって言ったら、たぶんここだろう。ミッションはギルドの受付の人が提案する。依頼は冒険者側が自分から、これをやりたいと選んでくる。

その違いは割と大きいらしい。ミッションは自分の実力に見合ったところや、超危険な物は振り当てられない。

でも依頼だと、危険な物も受けられる。

依頼は、命の保証をギルドはしませんよっていうやつなのだ。

うん。

おれ初めに、いつも人気のないマイクおじさんの受付がどの席なのか確認した。

毎日のように受付をしている、ベテラン受付のマイクおじさんは、ほかの受付の人と違って美女でも可愛くもないから、そんなに待ったりしないのだ。

だが、ベテランだし色々気配り上手だし、マイクおじさんと相性がいい人はずっとマイクおじさんに、ミッションを紹介してもらう。

おれはソロだったらマイクおじさんだったけど、暁夜の閃光時代は美人のお姉ちゃんにやってもらっていた。

リーダーが美人のお姉ちゃん大好きだったからだ。

男の人で美人が嫌いな人って、あんまりいないよなあ。

それはさておき。

マイクおじさんは、端の受付に座って、何か書き物をしていた。

列はない。話をしても取り合ってもらえそうだ。


「お兄さん、それじゃあおれ、ちょっと取り次いでもらえるか確認とってきますね。誰が誰に、という形がいいですか」


「砂漠の隠者が、ジョバンニに話があるという取次でかまわない」


お兄さんはここでも深く、フードを被っていた。

いかんせんお兄さんは目立つ顔なわけで、ここで騒ぎにならないようにという気遣いなのだろう。

隣の青年……名前はカーチェス、彼も頷く。


「お願いしてもいいですか、俺も冒険者ギルドは慣れていなくて」


確かに、カツアゲされそうな見た目してるものな。

胸に採取ギルドのタブレットが無かったらカツアゲされているに、違いない。

そう言うガラの悪い人たちも、一定数いるのが冒険者なのだ。

お兄さんたちは、がらんとそこだけ開いていた長椅子に座り、おれを待つらしい。

慣れている俺がやった方がいいから、大して変な話でもない。

おれはさっそく、マイクおじさんの所に向かった。


「久しぶり、マイクおじさん。今日はちょっとお願いがあってきました」


「いつもの資材の買取じゃないのか?」


「うん。えっと、沙漠の隠者が智のギルドマスタージョバンニさんに、話があるそうです」


マイクおじさんが固まった。沙漠の隠者のあたりで固まり、ジョバンニさんの名前で引きつった。


「ジョバンニさん何をした!?」


マイクおじさんの大声で、一瞬ぴたっとあたりが静かになって、おれたちに注目が集まった。

いたたまれない。

彼も大声を出した事に、失敗したと思ったらしい今度は小声で言う。


「砂漠の隠者が? ジョバンニさんに? 冗談ではなく? というかお前はどこで知り合ったんだ?」


「いま沙漠の隠者の番犬をしています」


おれのなんとも珍妙な答えに、彼は顔を覆ったのちに言う。


「わかった、直ぐに上に伝えてくる、ちょっと待っていてくれないか」


沙漠の隠者の名前は、効果が絶大らしい。おれが知らなかっただけで、冒険者ギルドでも有名人なのだろうか。

このギルドに加入してすぐに、暁夜の閃光に入ったから、あんまり周りの話聞かなかったんだよな。入ったら入ったで、家の管理とか色々あって、なかなかここに一人で来たりしなかったし。

少し待っていると、マイクおじさんが戻ってきて手招きする。


「ジョバンニさんはちょうど、商談が終わって手が空いたそうだ。話をすぐに聞きたいと言っている。……沙漠の隠者はどこに?」


「あっち。呼んでくる」


おれはそこで、あっち、と指さした方で何か、揉め事が発生しているのに気が付いた。

そこは俺の指定席だとかなんだとか。

お兄さんは平然としていそうだけれど、ガラの悪い屈強な冒険者に因縁をつけられて、カーチェスは震えていた。

止めよう、とおれは一歩足を踏み出した。


「そこは俺の指定席なんだよ! てめえ誰に許可とってそこに座ってたんだ、ああ!?」


「あいていたから座ったまでだ、知らないのだから許可などとるわけがない」


お兄さんが平然と当たり前の事を言う。


「それに、ここは共用の場所であり、指定席なんてものが存在しないはずだが」


「俺が指定席って決めて他の奴らも座らないようにしてんだ、俺の指定席に決まってんだろ!」


「馬鹿は馬鹿でも話の分からない方か、困ったものだ」


お兄さんが困ったように言うけれども、お兄さん口元笑ってますよ。

そしてその笑みが、その冒険者の癇に障ったらしい。


「言わせて置きゃあ、このひょろすけが!」


彼がお兄さんに殴りかかろうとする。おれはひょいっと一歩前に踏み出し、お兄さんの前に出た。

突如現れたおれに対応できない拳は、おれに向かう。でもおれは怖くない。

その拳を片手で受け止めて、殴りかかる勢いを利用して、相手をすっころばしたのだ。

大きな体だったため、結構響く音で男が倒れる。


「番犬として最近、ようやく半人前になってきたな、子犬」


「そろそろ一人前になりたいですよ、平手打ちも飽きましたし」


お兄さんの平素と変わらない言葉に、おれも普段通り返す。


「おい、ダメ盾師だろ、あいつあんな事できたのか?」


「使えなさ過ぎてミッション失敗させて、メンバーから追放されたんじゃなかったのか?」


「剛力のザンバルをあんなにあしらえるのに?」


どよめきのような物の中で、そんな声も聞こえてきたけれども。

おれは気にせず、お兄さんとカーチェスを、マイクおじさんの所まで案内した。


「騒ぎを起こすなよ」


マイクおじさんも一部始終を見ていたから、呆れ顔だが。


「相手が騒ぎを起こしてきたわけであって、おれが起こしたわけじゃないんで」


我ながら屁理屈だけれども、俺はそう答えかえした。




ギルドの入っている建物は三階建てである。一階が受付とかで、二階が商談とかに使う部屋があって、資料室で。

三階は受付とかの人たちの住居になっている。だからおれは一階しか見た事が無かったので、二階に上がるのにワクワクしていた。

二階はなんと、床に絨毯が引かれていたのだ。なるほど、二階から靴音がしなかった理由はこれだったのか。

絨毯は音を吸収するから、そんな事もあったんだろう。防音の面でも役に立ってたに違いない。

そんな絨毯、結構豪華だった。色は暗い紺色だけれども、質のいい感じがする。

マイクおじさんが案内して、到着したのは立派な扉の前。明らかに商談に使いそうな場所だった。


「ジョバンニギルドマスター、入ります」


マイクおじさんがノックの後に声をかけて、おれも一度も見た事が無いその空間を、見る事になった。

……立派だった。たしかにこれは立派だった。ソファとかもきれいだし、テーブルも磨かれて汚れた所なんて一つもないし、あちこちに吊るされたいわくありげなランプの中では、高級な事を示す妖精が入っているし。

おれの口からはとても説明しきれない、上等な応接間らしい場所だった。


「で、沙漠の隠者が話があると言ったそうだが」


そのソファの一つに座り、書類を読んでいた男性が顔をあげる。

片眼鏡が智的な印象の彼は、お兄さんと同じくらいの歳に見えた。

ギルドマスタージョバンニさんなのだろう。


「いったいどんな話だ? 沙漠からわざわざ来るのだ、重要な話のようだが」


彼は書類を脇の袋にしまい、ちらりとこちらを見た。


「用事はちがっていたのだが……このギルドの信用にかかわりそうな話を一つ、聞いたから知らせておこうと思ったんだ」


お兄さんも落ち着いた声で、今はフードを脱いで話している。


「長い話になりそうだ、そちらに座ってくれないか。……おや、採取ギルドの青年もいるな、どうしたんだ」


「彼から聞いた話だから、彼にも詳しく話してもらいたくて来てもらったんだ」


「……ほう」


ジョバンニさんが二人に椅子を進める。おれはお兄さんの脇の床に座り、いつでも立てるように調整した。


「その冒険者は? 見たところ関係性はなさそうだが」


「私の家の番犬だ、気にしないでくれ」


「人間にしか見えないが」


「番犬のような仕事をしてもらっているから、番犬で間違いない」


お兄さんはツッコミを封じる笑顔で言い切った。

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