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【二巻発売中!】追放された勇者の盾は、隠者の犬になりました。  作者: 家具付
第一章 いかにして盾師は隠者の犬となり、元の仲間と決別したか
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追放=粗大ごみ置き場に転移

アルファポリスでも掲載中です。


「お前もう出てってよ」


言われた言葉の意味は、半分しかわからなかった。おれに出て行けって言っている。

でも。

理解できる内容じゃないのは、確かだった。


「外はあんなに吹雪いているのに、出て行けっておかしいだろ」


「お前が今日、ちゃんとしなかったからミッションに失敗したんでしょーが!」


この声とともに、椅子にすわっていたおれの体は吹っとんだ。一瞬何が起きたかわからなかったくらいの早業だ。

次に始まったのは一方的なリンチだった。起き上がろうとしたおれの腹に、重装備でも軽々と動く筋力の足のつま先が突き刺さったと思えば、おれは床に転がった。

おれの装備がひしゃげたんだ。

元々たいした装備じゃなかった、でもつま先はそのままおれを蹴りまわす。

おれはその蹴りで家じゅうを転がされる。

痛くて痛くて痛くてたまらない。なんとか受け身をとりたいのだが、受け身も取れないほどの激しい蹴りなのだ。


「ミシェル、蹴り飛ばし過ぎだろ、家が汚れる。吐かれたらどうするんだ?」


それをにやにやとしながら見ている、この家の持ち主たち。おれも持ち主だったんだけれども、この調子だとそれはおれの妄想だったかもしれない。


「だってだって、アリーズ! この盾になるしか能がない奴が、今日あたしたちの盾にならなかったから、ミッションクリアできなかったんでしょ!? あんな上級クラスの依頼を一度失敗するなんて、この“暁夜の閃光”の名前に瑕がついたみたいで、すごくすごくむかつくんだけど!」


おれを蹴り飛ばしまくっている武闘家のミシェルが怒鳴る。それに対して、チームリーダーである勇者アリーズがまあまあ、と言った。

庇ってくれるのかな、なんて一瞬期待してから、言われた言葉に息が止まりそうになる。


「そうだな、確かに盾になるしか能のない奴が、仕事を失敗させたんだ。それはとても問題な事だ。だからここで家を汚すと分かっていながら、蹴りを入れ続けるのは非合理的だ」


「じゃあこのムカツク感じをどう消化すればいいっていうのよ!」


ミシェルの怒鳴り声に、割って入ったのは治癒師のマーサだった。ミシェルの活動的な衣装が似合う曲線美の体と少し違う、慈愛の象徴のようにゆったりと優しい体の彼女だが。

彼女もおれを蔑むような顔で見ながら言う。


「簡単よ、外の粗大ゴミ捨て場に、シャリアの術で転移させればいいの」


「ま、まってくれよ!? シャリアは転移を極めてなかっただろ!? 習得していない術を使って失敗した時の代償は」


「転移されるのが嫌なら、さっさと出ていけ、屑」


マーサの言葉の後に、まだ痛み続ける腹を押さえていたおれにたいして、シャリアが淡々と容赦なく言う。嗜虐的な笑みを浮かべながら、声は淡々と。


「十数えるうちに、装備を置いて私たちの家から出ていけ」


「っぅ」


おれは転移に失敗した時、ひき肉になるのが嫌だったから、何とか必死に装備を脱ごうとした。

だが、さっきから蹴飛ばされ続けて、激痛の走る体で、十秒以内に装備なんて脱げなかった。


「遅い。二十秒は過ぎた」


言いながら立ち上がったのは、アリーズだった。アリーズもおれを殴り飛ばしたのちに、おれの装備を手荒く剥した。


「こんな装備でも、薪の代金にはなるだろう」


と言った後、シャリアに合図したのだ。


「シャリア、手間をかけさせるが、このゴミを粗大ごみ捨て場まで転移してくれ」


「いいよ。さっきから目障りだったんだ」


「転移しないんじゃなかったのか!?」


言われた通りにしようとしたじゃないか、と叫ぼうとしたら。痛くて声は小さくなった。

そんなおれに、おれ以外のパーティメンバーは蔑んだ顔でまた告げた。


「出来なかったんだから、ゴミを送るのは当たり前だろう?」


「十秒以上かかっても、肩当の一つも外せなかったのに、何を言っているのかしら」


「聞こえなかったわよ、何を喋ってるのか。ゴミは人間の言葉だって話さないものね」


彼等が言っている間に、おれは逃げ出そうと立ち上がろうと這いずったのだが。


「“転移”承認」


シャリアの詠唱が終わるほうが早かった。

その、未修得の不完全な術がおれを取り囲み、おれは人生が終わるんだな、と絶望的な気分になりながら彼等を見ないようにした。

おれは彼らを仲間だと思っていたのに、彼等はおれを仲間だなんて思ってなかったのだ。

今の会話で十分わかった。ゴミ扱い。きっとサンドバックの一種だと思われていたんだろう。それか、動くときは動く盾。人間扱いなんてしてなかったんだ。

涙が出そうになる物の、涙を流せば悔しくて死にたくなるから、唇を噛んで、世界が暗転する。

さようなら、おれ。転移に失敗してひき肉になったら、粗大ゴミ捨て場でカラスの餌になるんだろ。

最後は烏の餌という事で、有益になってくれ。



なんでおれが、こんな目に合わなかったら行けないんだよ。

魔法もできない、剣術もできない、格闘術もできない、治癒系術も使えない、盗賊の知識もなければ、賢者の知識もない。

何もないから、皆の盾になってたんだろ?

皆に攻撃が来ないように、おれに攻撃を引き寄せ続けていたんだろ?

なのにどうして、おれはこんなひどい最期を迎えなかったらいけないんだろう。




誰かに必要とされたいなあ、せめておれのこと、人間扱いしてくれる人に。



はい、そんな事を思って意識が途切れたはずでした!

なんか次に目が覚めたら、すごい寒いです!

吹雪の季節に、おれは無事に粗大ゴミ捨て場に転移できたようです!


「……きせきだ……」


うすっぺらいぺらぺらの下着だけで、おれはかちかちと歯を鳴らしながら呟いた。

だが立ち上がるには寒すぎてそして、体も痛すぎた。

だからおれは、ゴミの影にかくれてこの冷たすぎる鋭い風をやり過ごそうと、ほかに粗大ごみ置き場に何かないか確認した。


「なにもねえな!?」


そう、今日の朝八時が粗大ごみ回収の時間で、夜に粗大ごみが置かれているわけがない。

風よけもないのだ。

なんか……おれの意識がだんだんと……遠くなってきたような。

思考がどんどん薄くなっていく気がする、やべえ、本気でここで凍死する。

せっかく転移は成功して、生き延びるチャンスが出来たのに。

そこでおれは、もう一回思ったのだ。


「だれかにちゃんとひつようとされたいなあ」


声に出していたらしい。だがこんな吹雪のなか、誰かが聞いてくれるわけがない。

おれは目を閉じようとして、いきなり頭から被せられた、人肌の温度の布に仰天した。

誰かが、おれに外套を着せ掛けた!?

ぎょっとして伏せかけた目を開けば。

吹雪の中過ぎて、よく見えない状態の中でも、誰かがフードを被っておれの事を見下ろしているのはわかった。


「捨て犬がいるようだな」


捨て犬扱いですか、犬扱いか、もう何でもいい、この人肌の温かさの布に、おそらくこの人物の優しさを感じた。優しさが温かい、このまま凍死しても、最後に温かい心に触れられて……


「ちょうどいい、捨て犬なら拾ってもどこからも苦情は来ないはずだからな。さっそく拾っておかなければ」


おれがぎゅっと外套を抱きしめていると……なんとその人物は、意味不明な事を言ったのちに、おれを持ち上げたのだ。

持ち上げてだっこです。ひょいと幼児のように抱きかかえられております。

相手のしなやかな筋肉を感じる、この人物結構鍛えてる、名のある冒険者かもしれない。

だがしかし、役立たずのおれを、名のある冒険者が拾うわけもない、そしてそれ以上に、誰もおれを拾うわけがない。

夢は最後に素敵な夢を見せてくれるらしい。

おれは相手の胸に頭を預け、うっとりと目を閉じた。

ああ、人生結構悪くなかった。

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