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イメージアップ大作戦2

『えーっ、皆さん聞こえてますですー?』


 港町の中心部、噴水広場。

 そこにぞろぞろとガン首そろえて(強制連行されて)集まる冒険者たち。姿形様々の剣呑な空気をまとった猛者の集まりは、一般市民の目からはかなり異様な光景に見えていることは間違いない。


 そんな中で、噴水池の外堀の上に立ってメガホンを構え声を張るクルラ。その眼下の冒険者たちは既にまとまりなく、早くもざわざわと勝手にくっちゃべったり思うがまま好き勝手しだしている。


『――町のみなさんにご迷惑をかけた奴の顔は、キッチリと覚えておくですよ――』


 クルラの一言の後、さっきまでの賑わいはどこへやら、噴水の噴き出す音だけが広場に残る。


『……えー、では改めまして冒険者のみなさーん! おはようっございまーすっ!』


 明るく元気なクルラの挨拶が広場に響き渡る。


 ……。

 いや、なんというか。

 その、なんだ。

 日頃血生臭い世界に生きている冒険者には、少々キツイノリである。

 それに対しクルラがぽつりと。


『――返事しろよ』


 一同、即座に背筋を伸ばして絶叫。


「おっっっはようございやーーーーーーーーーーっっっっっす!!!!!」


 うっひょーーーーーっと半ばヤケクソ気味に騒ぎ出す冒険者ども。

 なんだこの茶番感。お上にいいよう操られる社会の縮図を垣間見ているようだ。


『はーいおはようです皆さん! では! 本日の段取りの説明を……っとその前に! まず、この清掃活動の理念と発足の経緯について説明しましょうっ!』


 わーパチパチー。

 クルラが自分で拍手。遅れて冒険者たちからもまばらな小さい拍手。


『えーっとじゃあ、そこですっごく不機嫌そうにしているバウドさんっ!』

「あ?」


 たまたまクルラの近くにいた、狼獣人冒険者のバウドが心底面倒そうに返事。


「なんだよ。こんなしょーもねーイベントに付き合わせて、まだ何かあるのか?」

『まあまあ! ではそんなムッツリバウドさんに質問! じゃじゃん!』


 ノリノリのクルラに対して、思いっきりメンチを切って不機嫌なバウド。それを気にせず彼女が続ける。


『ぶっちゃけ、冒険者って普通な人からどう思われてると思うです?』

「……ハァ? 意味わからねえよ」

『……えーっと、バウドさんは町の人たちとお話しとかしたことないです?』

「あ゛あーっ? 話だあ? 武器屋とか鍛冶屋のオヤジとかしか会わねえよ」

『うーん、バウドさんったら灰色の私生活です……』

「あ゛あ゛ッ!?」

『まあそんな可哀想なバウドさんはともかく、他には……えっと……じゃあそこの、テミカさん!』


 バウドを無視してクルラがテミカを指さす。集まりの中に埋もれるようにして立っていた緑髪の少女に、一気に注目が集まる。


「ひゃっ!? ひゃひゃぇっ!?」


 周りの注目を感じた途端に顔を真っ赤にして汗を噴き出し困惑するテミカ。


 つーか、何言ってるか全然わからんぞテミカ。

 そんなことを思いつつ、遠くからアキトが彼女の様子を生暖かい目で見つめる。質問されたくないので彼はやや中心地から離れている場所にいる。陰キャの鑑な男である。

 あとさっきの質問でキレたバウドが仲間に取り押さえられている。あ、クリマのパンチが鳩尾に入った。いいぞもっとやれ。


「わ……わたし……わたし……」

「あー、代打行きますメリアでーす」

『うーん、しょうがないです……じゃあメリアさんお願いします』


 テンパっているテミカの代わりにメリアが挙手。質問は彼女が答えるようだ。まあそうしないと話が進まないよね。テミカ、ドンマイ。


「しっかし、普通の人ってねえ……あれよ、ぶっちゃけあんまり印象良くないよね。冒険者わたしたちって」

『そう! そこです!』


 メリアの答えにクルラがビシッと指さす。テンションの急激な変化にあのメリアも面食らっている。


『ぶっちゃけ言っちゃいますが! 冒険者のみなさんは、普通の人たちからは色眼鏡で見られています!』


 ダンッ。と足を大きく一歩踏み出す。

 おーいクルラちゃんパンツ見えちゃうぞー、と周りからの善意の指摘が飛ぶが、熱が入りまくってて聞こえていない模様。


 しかし、言われた方の冒険者たちは皆「ふーん」という感じ。

 あれれ? とクルラが首を傾げる。


『……以外と反応薄いですね、みなさん』


 まあ、そりゃあね。と大半の冒険者が思う。

 危険の少ない町の中で普通の生活を送る庶民からすれば、あちらこちらと旅して周り切った張ったの世界で生きる冒険者はそこらへんのゴロツキやチンピラとかと変わらない印象の危険な人種だ。多少の自覚は流石に言われる側にもある。


『ええとですね、ここいらで一番大きな冒険者ギルドのあるこの町でも! 日々冒険者の皆さんに対するクレームや誹謗中傷などが年中ひっきりなしに届いているのです! 衝撃の事実ですよこれは!』


 ふーん。そうなんだ。

 衝撃の事実と言われても大体の冒険者はこういう反応。世の中の光と影を反復横飛びする職業柄、風評とか体面を気にしてはとてもこの世界ではやっていけない。面の皮の厚さは自然と身に付く業界なのだ。


『クレームの内容は主に皆さんの普段の佇まいや町の施設の利用態度! イチャモンのようなものもありますが、クルラから見ても明らかに問題があるってところも! です!』


 とは言われてもなあ。ピンとこない冒険者たち。


『みなさんは多分自覚ないでしょうけど! 冒険者というのは独特の空気というか存在感がありまして! 正直、普通に町中にいてもかなり浮いています!』

「……そうなのか?」

「イマイチわかんねえ」

「でもどうしろっていうんだよ、そんなの」


 次々に出てくる意見というか文句。ただ立っているだけで問題って、どうしろと。それもまた正論だ。


『もちろん冒険者さんたちに全ての責任があるわけでなく、町の人たちの不理解もあってです! ですから……!』


 拳を握りしめるクルラ。熱の入りっぷりがいよいよ最高潮である。


『町の清掃活動を通じて! 町の人たちとの交流、普通の人たちに冒険者のいる景色に馴れてほしい! 冒険者さんたちも町の様子を知って、風景に馴染んでほしい!』


 そういうこと、ですっ!

 そう〆て、荒い息を抑えて少し息継ぎ。


 ずいぶんと熱の入った説明だった。

 時折脱線しそうになってるが、話のベースは至って真剣。

 はいはいさいですか、で流してしまうには一理どころか二理三理ある話だったなとアキトは思う。


 町で生活している以上、そこに住む大多数の人々と関わることは避けられないし逃げるべきではない。しかも、これをきっかけにアキト自身の風評も少しは改善できるのでは、と少し私的な欲まで頭をもたげてくる。


『ギルドの職員として、改めて言いたいです! 皆さんに対する言われなき誹謗中傷などは見過ごすわけにはいきません! 私個人としても! 冒険者さんのたっくさんある良い所や魅力をアピールしたいと思っているです!』


 始めは嫌々ムードが隠しきれなかった冒険者たちも、クルラの真剣さに感化されたか、だいぶ話をちゃんと聞いている面々が増えてきている。


『ギルドがこの町にある以上、町とその人々との関わり合い、接点はどうしてもあります! 摩擦やすれ違いも多々! ですが! はなっから諦めているのとなんとかしようと行動するのでは間違いなく天地の差があります!』


 クルラの話、というか最早演説が更にヒートアップ。握った拳がふるふると震えている。

 これだけ真剣に話していても、どーでもいーから早く帰ってメシ食いたいとか考えている現金なヤツもそれなりにいるのはもうしょうがない。比較的真面目な面々は演説パワーで結構それなりにやる気が出てきているようだ。


『――とゆーわけで、この清掃活動を。って話なわけなんです!』


 あと単純に、この町に人多すぎで掃除が行き届いていないのが個人的にヤなのってのが半分ぐらいです! そう付け加えて、演説が終了。


 おい最後。画竜点睛を欠いた気がするが。

 まあこの際それは無視しよう。演説のクオリティは中々素晴らしかった。


 しかしまあ、掃除かあ……。

 おそらくこの場の冒険者の半数以上は掃除などロクにしたことがない。そもそもの大前提が大丈夫なのか? とやる気になった(ちょろい)面々から不安の声がちらほらとのぼる。


『そんなこともあろうかと! カンタンなお掃除スキル研修も設けてあります! とゆーか今からやります!』


 わあ、至れり尽くせりだあ。


『タダで新しいスキルが入手できる! こう考えれば冒険者のみなさんならやる気になるでしょ! でしょ!』


 食い気味に問いかけるクルラ。

 いや、いくらタダでも掃除スキルはいらねえよ……。

 多くの冒険者たちの思考が完全にシンクロする。


『はい! じゃあちゃっちゃと準備していきましょう! えーっとそっちはその辺で分かれて! いやそっちはそのほう! こっちはまだ待って!』


 グループ分けが開始したようだ。二人組作ってとかじゃなくてよかったとアキトはこっそりと思う。もしそうだったら死んでいた。


『――こんな所ですね! では、張り切って行きましょう!』


 エイ! エイ! オーッ!

 高らかに鬨の声をあげるクルラ。

 それに遅れて各自それっぽくオーッ。と返事。


『声がちっちゃいですよ! もう一度!』


 結局、鬨の声は十回あげ直しになった。

 にしても、掃除かあ……。

 アキトは掃除が得意な方ではないので、今更になって不安を抱いていた。

 あと、グループに知り合いがいない……。


「……つーか、活動十周年ってあったけど」


 ふと、一人の冒険者が思い出したように言う。


『あっ、それは私が一人でやってたのを合算してるです!』


 募集は毎年やってたのに、酷いですよお皆さん。とクルラが言いながらいじける。


 いや、健気っちゃあ健気だけどそれは盛りすぎでしょ。

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