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勇気と無謀は紙一重4

前回の一部をちょろっと修正しましたが話の大筋には影響ナシです。確認しなくても大丈夫にはなってます。でも一度見てくれた方にはごめんなさい。

 本日二体目のドラゴン退治スタート。

 雪崩の危険や吹雪の影響で制御が厳しそうなので今回は魔法を使わずに戦う。あと、できるだけ丁寧に。


 相手を警戒しつつ突き刺さった鎌を抜き、構える。

 間合いをとっていたドラゴンも様子見をやめて、乱入者アキトに迫ってきた。

 鎌を盾にして、ドラゴンの突進を食い止める。


「うわっ、凄っ……!」

「ぼやっとすんな! ミケルス!」


 アキトが足止めをして、バウドとミケルスが横からドラゴンに攻撃を加える。彼らのパーティにはもう一人魔法使いがいて後ろの方にいるが、魔力切れで現在はお荷物のようだ。


 状況の不利を感じたか、ドラゴンが全身を振り回すように回転してアキトたちを薙ぎ払う。アキトは踏ん張ろうと思えばできたが、無理はせずにバックステップ。


「――ッッッッッゴオオオオォォォォォォォオオオオアアアアァァァアアウウウウゥゥゥッッッッッ!!!!!!」


 突如、明後日の方向を向いて叫ぶドラゴン。

 アキト以外の面々は急に何だと頭の中に疑問符を浮かべる。


 アキトはドラゴンの突拍子もない行動に少しだけ予想がついていた。

 どこか、別の何かを呼んでいるような立ち振る舞い。おそらく、このドラゴンは別のドラゴンを呼んでいる。


 そのドラゴンはきっと、アキトが倒した雌竜だろう。

 既に亡き妻を呼び続ける夫。悲劇と言えば悲劇。だが容赦はしない。人間に恨みを持ったドラゴンほど厄介なものはない。


 不意をついて、ぐんと間合いを詰めたアキトは鎌を両手で縦横無尽に捌き、ドラゴンを圧倒する。

 ドラゴンとしても鎌は慣れない得物らしく、完全に後手に押し込んでいる。他の面子はその勢いに圧倒されて、少し観戦しているような形になる。


 そこだ。

 逆手に持った鎌で逆袈裟に斬り上げる。

 ドラゴンの右目が深々と穿たれ、永遠に光を失う。


「ゴオオオオォォォォォォォオオオオ!!!!」


 悶絶するドラゴンに畳み掛ける。順手に持ち替えて脳天に一撃。逆手で斬り上げて顎を裂く。今度は柄で横薙ぎ払い、牙を砕く。最後に鎌を前方に構えて突進。体制を崩す。


「やれっ! バウド!」

「っ!」


 俺に命令するんじゃねえ。と内心反射的に思ったバウドだが、流石にこの好機でゴタゴタと余計な事を考える暇はない。

 彼が渾身の力を込めて振り下ろした大剣は、ドラゴンの首筋を深々と裂いた。


「ギャウウゥゥァアアアアッ!」


 慟哭するドラゴン。斬られた首から鮮血が迸る。

 よろめいた所に、ミケルスの放った火薬矢が連続して襲う。

 連続する爆裂音と硝煙の中を切り抜けて、アキトが一足飛びでドラゴンの胴の上に乗る。


「じゃあな……」


 すっと、大鎌を左肩に担ぐように両手持ちで振りかざし、そして刃を相手の下から掬い上げるように右へと斬り払った。


 その一閃でドラゴンの首が胴を離れ、遥か横方向へと吹き飛んだ。

 首の断面から噴水のように竜の血が飛び出す。体温と外気の差から湯気がもうもうと溢れ出し、吹雪で吹き飛んでいく。

 少し遅れて遠くから、どささっ。と雪の上を竜の頭が転がる音がした。


「……」

「……」

「……」

「……」


 十秒ほど、吹雪の音だけが盆地に響く。

 それから、頭を失った竜の胴体が力を失い四肢を折りたたむ。

 ずん。という音がして、雪の上に臥せった竜は永遠の眠りについた。


「……〜〜〜っ、はぁ〜〜〜っ、あーっ……」


 緊張から開放され深々と息をついたミケルスがどすんと尻もちをつく。力を抜いて、そのまま仰向けに倒れ込む。


「寝たら死ぬぞ……」

「もぉ〜〜っ疲れた! あーッもう! こんな無茶は二度とやらないからな!」

「……スマン」


 疲労やら憤りやらで半ギレのミケルスと、それに対して流石に素直に謝るバウド。


 小屋を出てからそれなりの時間が経ったからか、少しだけ吹雪が弱まってきた。ここに来るまででいくらか標高を下っているので、これならもうそのまま下山したほうがいいか。

 と、お疲れ様ムードのバウド一行を放ってアキトはこの場を離れようとする。


「お、おい!」


 あ、そうだ。

 一行の方を振り返り、さっき通った道を指差す。


「……あ?」


 説明は面倒くさいから、いいか。

 困惑しているバウドを放って、今度こそ下山を開始。


「……な、なんだってんだ?」

「さぁ……?」


 意味がわからず呆然とする二人。

 そんな時、後ろの方でほぼ観戦者状態だった魔法使いが「あれ」と言って、アキトの指差した方を見る。


「あ……?」


 その先を見て、バウドが目を見開く。


「くっ、クリマ!」


 見た先の林の影から姿を現したのは小柄な剣士。

 バウドは持っていた相棒の大剣をぽーいと放り投げて、剣士へと駆け寄る。


「無事だったか!」

「うん」


 剣士クリマの肩を掴んで「そうかーっ……」と安堵の息をつくバウド。


「バウドこそ、大丈夫だった?」

「あ、ああ。当然だろ、余裕だぜ!」

「……『死神』」

「!」


 クリマの一言を聞いて、バウドの表情が一気に曇る。


「あの野郎……突然現れたと思ったら、また急に……!」

「そっちも手伝ってくれたんだね」

「! クリマ! お前、まさか!」

「……助けてくれたんだ、『死神が』」


 バウドは一瞬の硬直の後、なんともいえない猛烈な表情で歯を食いしばる。


「――〜〜ッ! クソッ!」

「……」

「まーまー、バウドも意地張るなよ」


 今回は命があっただけ儲けものだろ、と遅れてやってきたミケルスが言う。


「大丈夫? クリマ」

「平気。足をやっちゃったけど、もらった薬が効いた」

「! お、お前! 何使ってんだ! 毒とか入ってるかも……!」


 ふふっ、と苦笑するクリマ。


「しっかし、ほとんど死神がやってくれたねえ。ドラゴン相手」

「なっ……! お、俺の一撃が効いたんだぞ!」

「はいはい、バウドはスゴイスゴイ」


 ヘラヘラ笑うミケルス。それからクリマが言う。


「やっぱり、相当な腕前だったんだね……」

「あ?」

「何でもない」

「? まあいいか……しかし、あれだな……『死神』のヤロウ、あんな外見で前衛だったのか」


 先程の鎌捌きを思い出してバウドは言った。

 正直、凄まじい腕前だった。

 この率直な感想は口にしなかった、というより一戦士としてのプライドが許さなかったが、心の中ではそう思わざるを得ない。そういうレベルのものを目の前で見せられてしまった。内心、穏やかではない。


「いや……」


 顎に手をあててミケルスが言う。


「なんだ?」

「『死神』は魔神徒アルコーンって職業ジョブ……ドが付くマイナー職なんだけど……確か魔法がメインの中衛なんだ」

「んなっ……どうみても動きは本職の戦士ばりだったぞ!」

「……要はそういうこと、なのかな」

「……!」


 ざわりと全身の体毛を逆立て憤るバウド。やり場のない感情を握り拳に込めて歯軋り。


「俺たちとは、それほどまでに格が違うってか……!」

「あと、これは……」

「あ!?」

「いや、何でも……」

「言え! ミケルス!」

「……俺達の討伐対象は雄の飛竜だ」

「それが!?」

「……飛竜は基本的に、雌の方が体が大きく、強い……」

「……」


 ミケルスの言葉の後、今度は無表情で押し黙るバウド。

 自分たちとは別の人間が雌のドラゴンを相手に山に入る。

 クエスト前に、麓の町にあるギルド支部で聞いた情報。

 ドラゴンの血の臭いをつけて、自分たちに目もくれず横切った『死神』。

 それらの記憶がバウドの頭の中で想起され、反響する。


「――クソがああああああッッッ!!!!」


 絶叫と共に、すぐ側の木を殴りつける。


「バウド、やめて。意味がないから」

「ッ……!」


 クリムの冷静な一言。バウドは背筋をわなわなとさせた後、どかっと両膝をつく。


「……『死神』……」


 己の無謀と非力を噛みしめる。

 自分の意地で仲間を危機に晒し、あげく助けてもらったという紛れもない恥。

 一冒険者としても、男としての器量も負けているという逃れられない現実がバウドの前に突きつけられる。


 この苦い経験を糧にして先に進むことが出来るかどうかは、本人次第。


 若き冒険者たちの今後を憂いたかのように、吹雪は止んだ。

 雲間から優しい月明かりが四人を慰めるように射し込み、照らしていた。

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