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勇気と無謀は紙一重

ブクマとポイントありがとうございます。マンモスうれピー(古代言語)

 今日も今日とて、足しげく冒険者ギルドに通うアキト。

 しばらく町を離れようかとも思ってた彼だったが、旅のお供とするクエストに頃合いのものがなかった。


 結局、いつもの感じな生活に逆戻りしたというわけだった。逆戻りというか、元の鞘。ほとんどお尋ね者扱いの塩辛い日々。


 閑話休題。

 風光明媚な港町の潮香が漂う大通り、そこを道なりに進んでいくと一際大きい建物がある。冒険者ギルドだ。


 高さがアキト1.5人分はある入口の両開きドアを通ると、中は年中活きのいい冒険者でごった返している。

 陰キャのアキト的にはとっても暮らしにくい空間。


 ギルド内の喧騒を壁際に這うよう避けて奥のクエストカウンターとクエストボード設置点に向かう。

 その間、無駄に大きな図体の背筋を曲げて極力目立たないようにする努力も怠らない。


「ん? アイツ……」

「シッ、目を合わせんな!」


 近くのテーブルに座っていた冒険者に見つかったようだ。

 幸い、あちらから突っかかってくるような輩ではないらしい。


 まあ仕方ない。有名人(マイナス方向の)だし。

 さて、気持ちを切り替えてクエストボードを物色……。


「あっ!」


 背後から少女の声。アキトにも聞き覚えのある、先日に聞いた奴のだ。


「……」

「……」


 声の主から放たれる視線が背中にビンビンと突き刺さる。クエストボードの内容が頭に入ってこない。

 そのまましばらく聞こえなかったフリをするアキトの即腹部に衝撃が走る。原因は少女の回し蹴りだった。


「ちょっと! 無視しないでよ!」


 挨拶代わりと言うには強烈な一発でよろめく彼が恐る恐る振り返ると、そこには金髪のツインテールが。


「あれ、アキトじゃん」


 その後ろから赤髪褐色肌が。


「あら。久しぶ……ってそんなでもないか。三日前?」


 その隣から青い長髪が。


「ひゃっ! あ、アキトさん……!」


 その背後からメガネの緑髪が。

 四人揃って、美少女(自称)冒険者サークル『トゥインクル』御一行様だ。


「乞食みたいな見た目のデカ男が居るなーと思ったら、やっぱりアンタね! アキオ!」


 言葉と同時にメリアが己の金髪ツインテールさらりと払う。

 つーか、名前が違う。これ前もだぞ、とアキト。


「アキト、だ。いちいち訂正させるな……」

「あら、随分とナマイキな口を聞くようになったわね、使用人の分際で」

「いや、それはお前の思い込……」


 メリアの手が指パッチンの構えをとる。


「待った待ったそれはやめろやめてくださいお願いしますシャレにならない許してくださいメリア様」


 慌てふためくアキトを見てハンッ、とメリアが鼻で笑う。


「とゆーか、アンタここに何しに来てんの?」

「いや、クエストを……あのな、俺は冒険者だぞ」

「あ、そっか」

「そっか、て……」


 脱力するアキト。

 ふと、頭垂れる彼の耳に周りのヒソヒソ声が聞こえてくる。

 ちょっとこれは、マズイかもしれない。


「四人とも」

「「「「?」」」」

「ここでは、俺と話すのは……その……マズイ……」

「は? 何で?」

「その……聞いたことはないか……『死神』の冒険者……」


 四人が向き合う。そしてダナエが。


「なんか聞いたことあるなー。ウチら、最近この町に来たからさー」


 そうか。だから自分に対してなんの迷いもなく関わるのか。

 アキトはこれまでの顛末を心中で納得して、続ける。


「俺は……ここでは……悪い意味で……その……有名人だ……」


 回らない口を動かしてなんとか説明を捻り出す。


「で?」

「……いや、だから……」

「いや、だから何なの?」

「……俺と関わると、面倒な事に……」

「何よそれ。意味わからない。つーかどうでもいいし」


 不機嫌、というよりは憤りのようなものを覚えているらしいメリアが言う。


「アンタがどうだろうと、アタシがアンタと会って面白いって思ったんだから外野がどうこう言おうと、どーだっていいし興味ない関係ない!」


 何故か偉そうに胸を張って誰に向かってか、ドンッと宣言する。

 我の強さは生来のメリアだったが、それは良くも悪くもブレない芯の強さとも言えるもの。

 今回は、それの良い面が出ていた。


「私は、自分の見たもの聞いたもの感じたもの、しか信じないの!」


 はーっはっはっ。何故か高笑いも追加である。


「あ、アキト。メリアたぶん自分でも何言ってるかわかってないからあんま気にすんなよー」

「ちょっとダナエ!」

「無駄に偉そうなんだから……バカなのに……」


 頭につけたカチューシャの位置を調節しているウェヌスが、はぁーっとため息を吐く。


「あ、アキトさん……」


 他の三人の背後から、ようやくテミカが恐る恐る姿を出した。


「お、お久しぶりです!」

「三日前だけど……前に会ったの……」

「ご、ごめんなさい! えっと……ま、また会いました、ね?」

「……まあいいや……」


 アキトは別に重箱の隅をつつきたいわけではなかった。だがそのせいで話がしにくくなる。これがコミュ障の本気だ。


「そ、その……」


 近くのテーブルの上に置いてあった、フリル付きハンカチの被さった手提げ木編み籠を差し出すテミカ。


「これは……」

「あ、えっと……! その……あの……」


 つまらないものですが……。

 そうゴニョゴニョと口をすぼめて言う。顔は真っ赤で手も震えている。


 籠を受け取り、ハンカチを払うと中には。


「……クッキー?」

「は、はい……私が焼いたもので……そ、その! よろしかったら……えっと……ど、どうぞ……」


 ……。

 どうしよう。


「……」

「あ、い、いや別に要らないのならいいんです!」

「いや……」


 いや、小腹は空いていたんだよな。

 だがしかし、なんというか、えーっと。これは、その。


「……」


 想定外の展開でアキトは対応に困り、硬直してしまう。


「固まってる」

「固まってるな」

「これは、テミカのせいになるわね」

「あううううぅ……」


 着ているローブのフードを被ってうずくまるテミカ。

 

「……! そ、そうだ、クエストを受けないと……」

「あ、逃げた」

「逃げた」

「逃げたね」

「ごめんなさい〜っ……」


 とりあえず籠は持ったまま、クエストカウンターへと逃げるように向かうアキト。


「あっ、こんにちは! 御用は……」


 受付嬢はいつもの少女クルラ。

 アキトを見て若干表情が固くなるが少しは慣れてきたようで、仕事には支障がない。


「13番のクエストを……」

「わかりました! 少々お待ちください!」


 そう言うと、テキパキとカウンター下に収納してあるクエスト資料を探して、いくつかの書類を取り出す。


「どんなクエスト受けてんの?」

「うわっ」

「あっ、メリアさん!」

「おいっす、クルっちー」


 横からひょいっと現れたメリア、それと親しげな挨拶を交わすクルラ。仲が良いようだ。

 人とこうやって気さくに話せたら、凄い楽だろうなとアキトは二人を見て少し羨ましく思う。


「アキトさんが受けたクエストは、これですね!」


 クルラが、カウンター上の資料を選んではいとメリアに渡す。


「ほんほん……」

「ちょっ、あの……俺のプライバシーというか、守秘義務的な物は……」

「――あっ」


 銀髪の下にある、まだまだ幼さの残るクルラの顔がぽっと赤くなる。


「め、メリアさん、その資料……!」

「へえ、なんか難しそうね」

「あああ、もう読んじゃってるぅ……」

「討伐クエストねー、相手は……」


 渡され(てしまっ)た資料を読み込むメリア。何かに気がつき、そこを注視する。


「!? えっ!? ドラゴン!?」

「あああ大声出しちゃダメですぅっ、守秘義務がぁっ」

「アキトってちょっとアンタどうせ一人でしょ!? ナニコレ死ぬんじゃない大丈夫!?」

「ど、どうせ、って……」


 さりげなく酷い物言いを食らい、ガラスのメンタルを負傷するアキト。


「しかも指定地が結構遠いわねー。北の山脈って、今の時期でも雪降ってるんでしょ」

「そうですね……アキトさん、大丈夫ですか?」

「まあ、多分……」

「最近この辺も暑いから、避暑にはなるんじゃない?」

「んな脳天気な目的じゃあない……」


 的外れな意見を述べるメリアになんともいえない気分にさせられる。

 その一方でクルラが、カウンターから少し身を乗り出してアキトをじっと見る。


「とにかく、魔物以上に天候と山の事故に気をつけてください、アキトさん」

「ああ、うん」

「あ、それと……」

「?」

「同じ地域で別個体のドラゴンを討伐するクエストを受けたグループがいるので、よかったらアキトさんもそちらに合流というか、協力したほうが安全なのでは……」

「いや、そういうのは無理……」

「ですよね……」


 あはは、と困った笑顔を浮かべるクルラ。

 今回もソロプレイだな、と自嘲するアキトに「てゆーか、期限的にもう出発しないと時間キツくない?」とメリアが指摘。


「そ、そういえばそうだ……」

「あ、防寒装備を忘れずに!」

「アッハイ」


 段々と親みたいな気遣いをしだしたクルラにクエストの受領書へとハンコを押してもらい、サインをして確認。


「んじゃ……」

「じゃあねー」


 ギルドを去るアキトにメリアがぶんぶんと手を振る。


「またなー」

「さよなら」

「き、気をつけてください……!」


 ダナエ、ウェヌス、テミカのトゥインクル面々も見送り。


「……行ったか、『死神』」


 アキトが去ったギルドにて、ドア近くでたむろっていた冒険者グループの一人がそう言った。

 それに対し、同じグループの別の男が反応する。


「ドラゴン討伐って、一人でできるものなのか?」

「無理無理。分も持たねえよ」

「じゃあどうするんだ? あの男……『死神』」

「知るかよ。他のグループのネコババか漁夫の利かでもするんじゃあないか?」

「でも、今回あいつと同じ北の山に行ったのって……」

「――ああ、一悶着あるかもな」


 そして、そのやり取りを見ていたメリア。

 少し経って、メリアたちトゥインクルもクエスト受領の手続きを行っている所にて。


「ねークルっち」

「? 何ですか」

「アキトのことなんだけどさー」


 先程聞いたことを、かいつまんで説明するメリア。


「なんか知らない?」

「え、何って……」


 一瞬困った顔をしたクルラだったが、次の瞬間。


「って、ああっ!?」

「え、どーしたのよクルっち。急に大声出して」

「あああ……アキトさんに言い忘れたぁ……!」

「な、何よ」

「いや、同じ地域に行った冒険者のグループが、ちょっと……」

「ちょっと?」

「……なんというか、あうう……悪い人じゃないんだけど……」

「???」


 落ち込んだ時の癖である、額の小さな双角を握る仕草をしてカウンターに突っ伏すクルラ。


「アキトさん、大丈夫かなぁ……」


 うーっと小さく唸りながら、反省しつつクルラは彼を心配する。

 一方の、心配されている側はというと。


「……クッキー、返し忘れた……」


 テミカにもらったカゴ入りクッキーを持ったまま町を出てしまっていた。

 仕方がないので食べたら美味しかった。今度礼を言わなきゃならないが、なんと言えばいいのか。普通でいいのかおべんちゃらを言ったほうがいいのかその中間か。


 せっかく可愛い女の子に心配されているというのに、現地に着くまで、ドラゴンや雪山の対策を放っておいてそんなことばかり考えていた彼だった。

三日坊主は脱したかな(意識低い)明日もガンバリマス(書き溜めなんてない)

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