システム魔法
システム魔法、それは世界法則の具現だ。
アングラス王国の研究者たちが見つけ出し、実現したそれは神の力を人間の手で行使できるようになる術である。
今、セーラが使ったのは『オート戦闘』というシステムを改造したものだった。
この世界『流れ星に願いを込めて』はRPG要素のある恋愛ゲームだ。
このRPG部分については、製作者サイドでは意見が割れたらしい。
やはり女性がターゲットでこのようなものを入れるのは好ましくないのではないかというのが、半分のスタッフの思いだった。
最終的に戦いをゲームに組み込んだが、反対するスタッフの意見に対する折衷案の1つとしてできたのが、このプレイヤーが動かさないで済む自動戦闘システムだった。
セーラは事前に自分の危機に対しオートで反撃するように設定していて、狼の魔物に近づかれたときに発動した。
ただ、それが世界法則とそのまま同じものだとしたら、自動的に自分のスペックそのままの力を発揮するだけで、自分よりも強い敵を倒すことができない。
そこでセーラは法則を改良した。
利用したのは、アングラス王国が残した達人たちの戦闘データである。
対人、対生物、相手の人数といった戦況に応じたパターンをいくつも作成した。
それにより、魔物が接近したとき、自動で回避しながら、レイピアで首に刺突した。
魔物の首には頑丈な骨があり、今の力量差では骨を突き破ることができないので、一流の技術をもって、固い部分を避け、貫通させることに成功した。
※
オート戦闘を問題なく発動して安堵したセーラ。
すると、ダメージを負っていた残りの2匹が立ち上がり、唸り声をあげる。
「あら、逃げないのね。弱い相手に負けるはずがないとまだ思ってるのかしら」
同時に突撃してくる相手に対し、
「ウォーターカッター」
高い水圧で相手を切り裂く技を放つ。
これまで使った水魔法よりも殺傷性に優れており、1匹の敵の命を容易く奪う。
攻撃範囲がここまで使った面攻撃できる水魔法よりも狭い線の攻撃という弱点があったものの、それは『オート戦闘』で狙いをつけているので問題ない。
そして、もう一匹に対しては今度はレイピアによる攻撃ではなく、魔法を選ぶ。
無詠唱とはいえ、魔法の発動には多少の時間がかかり、通常ではしない選択であったが、この問題には、
「『ロード1』」
さらなるシステム魔法を発動で解決した。
『ロード』それは、『セーブ』と対になった世界の法則である。
元々は、気に入ったシーンをセーブで保存して、いつでもロードで場面を鑑賞できる機能だった。
完全再現こそできなかったが、準備をして発動直前の魔法をそのままの状態のままで保存して、ロードで放つという戦闘向けに転用させた。
「ギャン!」
高速で回転する巨大な水弾が、魔物の全身の骨を粉砕した。
※
3匹の魔物を倒したセーラは、自分が能力が急向上したことを感じた。
レベルアップと称されたこの事象について、人々は創造神の御業として誰も疑問に思っていなかったが、アングラス王国においては、この現象についても詳しく調べていた。
導き出した結論によると、レベルアップというのは他者の存在を吸収した結果、起きる事象らしい。
人は皆、吸収能力というものを持っており、呼吸や食事を体外から生きるために必要な要素を食らう。
そして、もっとも吸収効率が高いのは同じ生命体であり、命を殺せば殺すほど、強くなると人殺しが強くなれる仕組みだった。
ちなみにこの九州については、研究では神が設定したという痕跡がないということから人が元来持っている力ではないかという考察になった。
そして、神は億を超える生命体を滅ぼしていることから、それに追いつくにはセーラはそれ以上の命を奪わなければいけなかった。
「でも、相手がモンスターだけなぶん楽ね」
社会というのは人が複雑に絡まり構成されている。
一人が消えるだけでシナリオに支障が起こる可能性があり、セーラが実力をつける前では乱すわけにはいかなかった。
ダンジョンのモンスターはランダム順次出現してくるので、シナリオには影響がない。
「さて、次はボスの部屋に行こうかしら」
そして、セーラは道中の敵を無傷で倒し、また宝物を回収しながら進んだ。
乙女ゲームのキャラクターが大真面目な顔で『オート!』とか『ロード!」とか言いながら戦うのって面白そう!! というのが拙作を始めたきっかけでした。最初はギャグ要素の多い作品だったんですが、ラスボスの力をゲームのシステムがあるというコンセプト通り考えてみたところ、「あ、こいつ宇宙をどうこうできるレベルだこれ」という結論になりました。そのせいで、どうやって倒すのか大変苦労したんですけど、どうして宇宙規模になってしまったかについては、今後のストーリーで明かされるかと思いますので、どうかこれからもよろしくお願いします。