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2週目の始まり

本作品、唯一のほのぼの回かもしれません。

(ここは私の部屋?)


 気づくと王都にあるクレイス家所有の屋敷にいた。

 時刻は夜更けに当たり、今のセーラはベッドの上に座っていた。


(でも、何か変……)

 

 時刻は夜で回りがよく見えないらはっきりと断定できないが、どこか部屋の様子が変だと思った。

 周囲を見渡して違和感を探ろうとしたところ、


(体が動かない……あの人が言っていたとおりね。ならば、まずは肉体の複製をしないと)


 教わった通り、まずは肉体の複製を試ようとした。

 だが問題が一つあった。それは自由に喋れないことだ。

 魔法とは自分自身や自然に宿る魔力を呪文で変質させ、発動するという手段を踏む。

 現在のセーラは詠唱ができず、魔法を用いることが一切できなかった。


(たしか、知識の中には無詠唱魔法についてもあったから、それを使えば魔法もできるようになるけど……それだと思った以上に時間がかかりそうね)


 セーラの頭の中には神に滅ぼされたアングラス王国の叡智の数々がある。だが、セーラには使うための技術がなかった。

 無詠唱魔法は、アングラス王国における魔法体系の4段階に設定された難易度の中で1番難易度の高い最上級魔法に魔法。

 少なくても1、2年で会得できるものではなかった。

 いきなり、出ばなをくじかれるような形になってしまった。


「失礼いたします。お嬢様、起きていらっしゃいましたか」


 ノックの音と、部屋の外から若い女性の声がした。


(こんな声のメイドうちにいたかしら?)


「寝てるよー」


 セーラには、その声が誰がわからなかった。

 自分の口を動かした感覚はあった。

 だが、その舌足らずで高い声は自身のそれとはかけ離れていた。

 

(え、もしかしてとても小さいときに戻ってるの?)


 そう思えば、自然と納得した。

 部屋もベッドやタンスといった大きなものは変わっていなかったが、鏡や飾っている人形などは、火炙りにされる少し前の自室とは違っていた。

 また、座っている自分の視点も低かった。

 本来ならすぐに気づいたはずだが、気づくのが遅くなった。


「お部屋に入らせていただきます」


「だから寝てるんだって~~」


(いえ、この答えじゃ起きているって教えてるじゃないの)


 ドアが開き、メイドが入って来る。セーラに礼をしたの後、明かりを灯した。


(そういえば、こういう顔のメイドが何年も前にはいたわね。結婚するからやめたのだったかしら? 確か名前は……)


「もう、駄目なんだよージェシカ。うーんとね、『しゅくじょ』の部屋に良いよーって言われたなきゃ、入っちゃダメなんだよ!」

「申し訳ありません。ですが旦那様より言伝を承っておりまして――」

「またお父様なの! さっきもうるさかったじゃないの! 今日のお父様イヤ~~。今日はお空に住む精霊様たちが流れ星がたくさんビューって降らせるすごい日だって言ったのお父様でしょ!」


(流れ星がたくさんと言えば、そういえば昔流星群を見た記憶がおぼろげにあるわ。たしかすごく綺麗だったわね……あ、流れ星といえば!)


 流星で、セーラは昔聞いた話を思い出した。

 星見で予知された流星群のことを知った王子とその友人達がそれぞれの屋敷を飛び出し、郊外にある丘に集まったということがあったらしい。

 子供だったセーラは知る由もなかったが、当時かなりの騒ぎになったという。


(そして、その丘であの聖女と出会った)


 抜け出した王子たちは同じく家を飛び出した少女と出会い一緒に遊び、そして将来再開することを誓った。


(これがストーリーの始点ね。それから十年後、学園の入学式で再開するね……神の意志がなければ随分とロマンチックな話ね。さて、状況を把握するのはこれくらいにして、。無詠唱魔法の練習をしましょう。外に魔力が漏れないように練習できると知識にはあるし)


「だから早く部屋から出てって!」


「仕方ありませんね。実は旦那様も簡単に諦めないだろうと予想しておられました」


「え、起きてて良いの!」


「ただ条件がありまして、明日のおけいこは、いつもの倍、つまりいつもの時間2個分にするということで夜更かしを許すだそうです」


「えー、やだー」

「わがままはいけませんよ。素敵な淑女にはなれませんよ」

「もう、ジェシカもうるさい。オッパイ、ペチャンコのくせに。ふーんだ」

「な、お、お嬢様、私の胸に何の関わりが」

「このペチャンコジェシカ~~!」


 いきなりジェシカに飛び掛かり、その慎ましい胸を揉む子供のセーラ。

 そして、奇怪なる歌を歌いだす。


(……)

 


「ペチャンコジェシカはペッタンコ! ペタペタ、ペッタン!!」


(きゃあ! や、やめて!」


(……これは)


「やめないよーだ。これでもくらえー」


「そ、そこはつねらないで!」


(集中して練習できない! すごくムズムズする!」


「本当にツルーンペターンとしているね。恥ずかしいこんなペッタンコの大人にはなりたくないわねー」


(心に突き刺さる痛みがあるわ……)


 約10年後のセーラの胸は、ジェシカとそこまで差がない。

 流れ星が現れるまでの20分間、子供のいたずらは止まらなかった。

 その間ずっと、ジェシカとセーラの羞恥は続いた。

 



 ……セーラの復讐は前途多難だった。

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