捨てられた本
「ここは……」
セーラは真っ暗な空間に居た。
ここは、ごみ箱の中にある世界だった。
破壊の光より逃れるためにセーラは、神の支配する世界のどこかに逃れることを考えついた。神は自らの創造物は非常に大事にしているのは分かっていたから、攻撃は物を壊さないようにしていたのではないかと思った。
ただ、本やゲームの世界は、外装という世界の外郭がしっかりしており、中に入り込む隙間がなかった。故に、口が開いているごみ箱を目指し、入り込むことに成功したのだった。
そして、セーラは治療の魔術を使う。
体を修復しながら、周りを見る。
「『ライト』」
適性が低く戦闘には役立たないということでほとんど修行していなかった光魔法だが、初心者でも使える光源を生み出す魔法は、ダンジョン探索にも役立つので覚えていた。
魔法の光が、辺りを照らすと周囲にあるものが見えてきた。
この空間には、星々が無数に浮いていた。
セーラは宇宙を連想したが、すぐに普通の宇宙空間とは違うことに気づいた。
「時の流れがとてつもなくほど遅いわね……」
世界は絶えず動いている。大きくは星の回転から、風による天気の動きといったように、常に変化をし続ける。
しかし、ここには、自然から星に存在する生き物まで全てが凍ったかのようだった。
「でも、『一時停止』のような流れを制御する魔法がかかっている気配はない。別系統の力で止めているのかしら。」
『スキップ』や『一時停止』は速さや範囲といったように細かく設定できるが、使用する魔力は大きい。長期間動かさず、止め続けるだけなら、力の消費を抑えられる方法があるのかもしれない。
「ここには、生命力がとても弱く感じるわ」
セーラが見た世界で最も活力があったのは、神の居城の外に繋がる庭に有る花の形をした世界だった。それには、多数の生命が存在する星があり、世界に命の力が満ちていた。また、この暗闇の世界は、命が1つの惑星にしか存在しない物語の世界よりも活力がなかった。
その差は何なのか、それは世界の形が意味しているのだと思った。
「ここはゴミ箱の中、つまりは神にとってはいらないものなのね。いや、もしくはアングラス王国にあったリサイクル技術のように、再利用するために利用するゴミなのかもしれないわね」
つまり、神が捨てた物語が行き着く先の場所。
「『ログ』」
星の歴史を読む。
そこには、何度もの繰り返された星や、途中で終わってしまった星も存在した。
繰り返し読みまれた本が、好みに合わなかったのか序盤の段階ですぐ打ち切られたゲームがあった。
捨てられた星が千や万を遥かに超える数で、存在した。
「よし、怪我は治ったわね。 ……『アイスボール』」
氷弾を生命体がいない小さな衛星に放たれ、木っ端みじんに破壊した。
「『一時停止』だと物体が変化しないように力がかかるから、簡単には壊せない。でも、この世界は確かに物体は止まっているけど、固いわけではないようね。これなら星々を壊して力を取り込むのは簡単にできるわね」
エネルギーが少ないならば、数で補えばいい。幸いにもこの世界はいくつもの物語の宇宙が廃棄されており、存在する魂の数はとても多かった。
「じゃあ、さっそく――」
ブラックホールで星を吸収しようとしたその時、
「え……」
セーラの体から何かが飛び出してきた。
「あれは目玉の機械、壊れたはずじゃあ……」
一週目の最後、セーラに世界の事実を伝えたロボットがいた。
体感時間で数十年前の出来事だったが、自分の転機になった経験だから、はっきりと覚えていた。
「人間ニ『ログ』ヲ!! 人間ニ『ログ』ヲ!! 人間ニ『ログ』ヲ!! 人間ニ『ログ』ヲ!!――」
「人にログを……? どういうことなの?」
かつてのように王が流暢に喋ることはなく、不自然な人工音声が同じ言葉を繰り返す。
「答えてくれないようね。 ……分かったわ。どうしてここにいるかとか疑問はあるけど、あなたには助けられたから、その通りにしてみるわ」
セーラは見当をつけてから、飛行の術で大気圏に突入し地面の上に立った。『仮想マシン』のシステム魔法で自らを異界として世界から隔離してあるので、突入の際の摩擦熱や衝撃波は起こらなかった。
そして、目の前には一人の若い女性が動きを止めた状態でいた。
「『ログ』」
綺麗な花畑を見て笑顔を浮かべる女性に向け、言われたとおりに、『ログ』の魔法を発動する。『ログ』は魔法抵抗が弱い相手なら、心を読むことができる。
すると――
『寒い』
「え、なんで!?」
想定外の心の声を読みった。
『いやだ。もうこんなのは嫌。なんで寒いの? 私の体がどこにいったの?』
「どうして、こんな苦痛の表情なのよ。今は花を見て楽しい気分になっている場面のはずなのに?」
セーラの問いには答えない。どうやら、体が動かないだけでなく、周囲の光景を聞くことも見ることもできないようだ。
『誰か助けて』
「あ……その言葉」
その言葉は、かつて火炙りにされた時、体が操られ声に出なかったセーラの本心と同じだった。
「あなたも、なの? 私と同じように世界の不条理に気づいたの?」
生きている人間では自分だけだと思っていた。
セーラは飛翔し、人間が集まる街の中心部へ向かう。そして、多くの人間を同時に対象にして『ログ』の魔法を使う。
「痛い」
「助けて」
「嫌だ」
苦しみの声が聞こえた。
いずれも凍った空間で、痛みを訴えていた。
そして、
『憎い』
誰かが言った、その声にセーラは驚く。
『誰がこんな目に……絶対に許さない』
今度は別の小さな子供の声がする。
「今、憎いって、許さないって言ったの……?」
そこで、セーラは、アングラス王国の魔法でテレパシーの魔法があったことを思い出す。ずっと一人で戦ってきたから、使う機会はなかった魔法を、慣れない手つきで使用する。
「あなた達、憎いの?」
セーラの呟きに、人々が一斉に答える。
「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」「憎い」
膨大な怨嗟の声。しかし、セーラには福音に聞こえた。
「ああ、居たのね。私以外にも世界が操られていることを知っている者が。滅茶苦茶にされていることを憎んでいる者が」
歓喜。心を読める魔法で自分の世界の人間たちの心を読んでいたセーラは、己以外に世界の真実を知る者はいないと絶望し、自分以外に人間はいないと諦めた。
諦めていた心が、同じ存在がいることを知り、ここに呼び起こさせる。
それは、仲間を求める心。
「さあ私と一緒に復讐をしましょう。私達は同じ苦しみを分かち合う仲間よ! ふふふ、」
「憎い」「殺してやる」「死ね」「許してやるか」
憎悪を心中に抱きながらも、歓喜に震える。
今までをはるかに超える憎悪と歓喜が湧き上がる。
「あはははハハハハハ!!!!!!」
人々の体から黒い靄のようなものが飛び出して来た。それは命の形だった。
セーラの元に集い、入り込む。
一人殺すよりも、靄一つ取り込む方がより強い力を得ることができた。
光に虫が引き寄せられるかのように、方々から集まってきた。
あっという間に星の命を全て取り込んだセーラは、星を破壊して栄養にすることなど考えず、すぐに別の星へ光速を超える速度で進む。
そして――、
――いくつの星を巡っただろうか。
「――――――――――――――」
セーラへ向け、人間でも機械でもない何かの声がした。しかし、それは、かつてない喜びの感情を全身に宿すセーラには聞こえなかった。
頭の中に、知識が入ってくる。セーラは、それを人々が編み出した叡智と勘違いした。
※
また一つ、星の命がすべて、生きたままセーラに取り込まれるのを宇宙空間から、単眼の機械は観測していた。
「レベルアップニヨル条件達成。コレニヨリ、仮称『神ノ親』ヨル、神ヘノ進化ノタメノ干渉ヲ確認。任務完了シマシタ」
役目をすべて終えた機械は、今度こそ機能が完全に停止した。




