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悪役令嬢VS神 その③

 視力や思考速度の制限を解除した神は、光を数億どころか数兆倍、超越した神速で行動する。

 現実世界で動けば、移動するだけで、万物を破壊しつくす領域になった神は、要らない雑誌を拾いセーラを叩き潰そうとする。1つの宇宙そのものという、鈍器は重い方が威力を増すという誰もが知っている法則が最悪に作用する。

 速さにまるで対応できず呆けているような表情のセーラに向け雑誌を振り下ろそうとするが、すぐ目の前で止まる。


「あ、そういえば人形で倒すって宣言してたんだった」


 まるで人形では倒せなかったみたいな形になるのは嫌だったので、再び2体のフィギュアを操作する。

 

「じゃあ、これでお仕舞っと」


 腕の長さにも満たない小さな人形の持つそれぞれの剣が、脳天と心臓に突き刺さる。

 

「はあ、面倒くさかったな。なんか久々に運動したわね。さて、どういう断末魔を上げるか面白そうだから、動体視力を制限し直すか」


 人の領域に一部の能力を落とす。止まっているように見えた流血が、ゆっくりと動き出し加速していくように見えた。

 

「世界をもう一度作り直すのに比べれば、釣り合わないけど、笑えるリアクションを見せてよね」


 

 神の希望は叶えられなかった。悲鳴一つなく地に倒れる。



「えーーノーリアクションなの。つまんないの」


 と、突如、セーラの体が炎に包まれた。


「ひ……」


 火を目の前にしてうろたえる。体はがくがくと震えだし、冷や汗が止まらない。

 顔をうつ向かせ、目を背けようとしたところ、視界の隅に炎が本棚に燃え移ろうとする光景があった。


「わ、私の本が……」

 

 懇願は意味をなさず、本棚は燃え上がった。

 




(よし、危なかったけどなんとか上手くいったわね)


 セーラは隠ぺいの術を施しながら、ベッドの下に潜り込みんでいた。


「いやーーーー。やだ、そんなことしないで!!」


 燃えているものなど全くない部屋で、錯乱している神を見て、良い様だほくそ笑む。

 セーラは火をつけてはいなかった。セーラは本が燃えている映像を見せていただけだった。

 普通に幻覚を魔法で見せるのなら、神の高すぎる体制に弾かれ失敗する。だが、映像を作ることで、相手に光の情報として見させるのならば聞くと考えた。

 光で目くらましをして、神も人間と同じように光を目で感じ取って認識していることを確認したセーラは、分身を作り、ベッドの下に潜り込み、作成途中の映像は完成させた。用いたのは、セーラを救ったアングラス王国が寄越した機械が使った映写技術である。


「お母さん、やめて、私の宝物を燃やさないで!!」


 泣き叫ぶ神だったが、セーラに同情はない。


「いい子にするから。ちゃんと部屋も綺麗にするし、早起きもするから、だからやめて……」


 トラウマがどれほどのものなのか、どんなものなのか、セーラにははっきりとわからない。もしかしたら、世界を物語にした原因もそこにあったのかもしれない。

 

「だが、私に比べればこんなもの……」 

 

 確かに言えることは、どんなものであろうと自分が受けた苦しみには及ばないということだけだった。


(そう、これはあくまで布石、次は……『ボイス』)


 すると、神の耳元に『すっごい燃えてるね。どうする迂回する?』という男の声がした。これはゲーム序盤ダンジョンで火で道をふさいでいる時の、ランが言ったセリフだった。そのシナリオでは水の魔法で消化して通過するという解決方法だったが、


「そうだ。火を消さないと」


 精神が不安定な神は、簡単に誘導される。偽りの光景を見せて実際の光景は見えていないので、セーラは悠々と本棚の前に立つ。


「清浄なる水よ――『ウォーター・ショット』」


 唱えようとしているのは水の下級魔法だったが、必死に全力を込めただけあって、宿る力はけた違いの物だった。

 そして、涙声で詠唱された魔法はしっかりと成功し、放たれた。セーラは避けようとしない。

 

(火を消す方法はいくらでもある。それこそ酸素の供給を取って燃焼を止めたり、魔法で火を操って場所を移したりするみたいに、たくさんある。それらだったら、私には何の益もないけど、水を使うなら話は変わる。私は水を吸収できるんだから!)


 そして、目論見通り、強大な魔力の塊を全身で受け止めた。


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