悪役令嬢VS神 その②
(『スクリーンショット』)
セーラは無詠唱でシステム魔法を使った。
(攻撃魔法だけでなく、状態異常魔法も無効化されるでしょうね。でもこの方法なら……)
左右から挟み込むように迫る人形の攻撃をジャンプで躱しながら、神を倒す方法を考える。
「ちょこまことムカつく女ね!」
地団駄を踏む神。みっともない姿だったが、もし地面が衝撃を完全に吸収するようにできていなかったら、宇宙を揺るがす衝撃が伝播して、セーラの命を奪っていた。
(念のため、効くかどうか確認しておかないと、『フラッシュ』)
セーラは、ブラックホールで取り込んだ光を解放し、部屋を光で満たす。
「うわっ」
相手をひるませることに成功し、自分の作戦がうまくいくかもしれない希望が出てきた。
だが――
「うっ…目がうまく見えない。ねえ、マシーン! どうしてこんなの効かないはずなのに、私の目が痛いのよ!」
ノートパソコンの形をした機械から少しずれた方向に向けて叫ぶ。
「ソレハ、主様ガ自ラノ能力ヲ落トシテイルカラデス」
感情のこもらない機会音声で答える。
その答えに、セーラよりも神自身が驚いた。
「はあ! そんなこと、してたっけ!?」
「ハイ。主様ガ物語ヲ楽シムタメニ、ゴ自身デ為サイマシタ」
「何のためによ」
過去の自らの行いが分からず問いかける。
セーラは、光を放ちつつ起死回生の術式を構築しているが、会話から何かとてつもない嫌な感覚がした。
「主様ノ目ハ、最モ明ルイ等級ノ星ヲ間近デ見テモ失明シマセン。ソシテ、暗イ闇ガ覆ウ宇宙ノ端々マデ見通ス事モデキマス。ソノ視力ハ、アマリニモ人間トカケ離レテイテ、ヒロインノ1人称視点デ進行スル物語ニオイテ、視力の差ガアリスギ、物語ニ支障ヲキタスカラダト、昔ノ主様ハ仰イマシタ」
「ああ、そういうことね。確かに暗闇で相手の顔が見えないシーンなんかがあっても、元々の視力だと普通に見えちゃうわね。うん、そうだった。ちゃんと主人公になるために、人間と同じくらいにしてたんだった。 ……あれ? もしかして私、動体視力や自分の動作の速さも落としているかしら?」
「ハイ。ソウシナケレバ、人々ノ行動ガ遅スギテ、会話ヲ認識スルコトハデキマセンデシタ」
ダメージを与えられないから、セーラの攻撃は警戒せず、会話に集中していた。
「そうだった。そうだった。じゃあ、制限を解除すれば、この目障りな光も、ちょこまかと動き回るアレも簡単に対処できるのね」
自分を簡単に片づけられると聞いて、かつてない危機感を感じ、限界まで動作を加速していた術式の構築をさらに急がせる。だが、神に使うなら妥協は許さず、細部まで設定する必要があり、まだ完成しなかった。
「ハイ。敵対対象ノ速度ハ光ノ3倍ホドナノデ、制限ヲ解除シタ主ナラ、止マッテ見エルデショウ」
「ええ、そうね。宇宙を横断するのに百億年以上かかる光が数倍になったくらいだと、確かに遅いわね」
相手が意味不明なまでの速さになると聞いてたセーラは、
「『一時停止!』」
相手の動きを止める魔法を使ったが、
「じゃ、さっそく……」
効果はない。『一時停止』の魔法は相手を力ずくで抑える技であり、自分よりもはるかに強い相手には、まさしく力不足だった。
「『制限解除』」
セーラの抵抗むなしく、神は力を解放した。




