神の力は宇宙を超える
「ここは……!?」
神の領域へと繋がる白い空間を過ぎてた先にあるのは、人間の部屋だった。
貴族であるセーラの私室と遜色のない広さの空間に様々なものが置かれている。
ベッドがあり、机があり、椅子がある。天上からはシャンデリアが吊り下げられて、壁を背にして存在するいくつかの本棚とそれに収まる本、ベッドには動物をデフォルメ化し可愛らしく象った人形や精巧な美男子の人形があった。
アングラス王国の知識に合った数世紀進んだ娯楽品があった。金属でできた音楽を再生する装置や映像再生する機械もあった。
整頓されているというわけではなく床の敷物の上には本が乱雑に置かれていた。
そしてなにより、
「管理マシーン。これをスキャンしなさい。直接呼び出したんだから、精度は上がるはずよ」
体中を覗かれるような不快な感じがした。
「なんなのよ! どうしてバグなんて起こったのよ!」
(そう、こいつだ。こいつが私を殺し続けた存在だ)
この部屋に来て真っ先に気づいた。
すぐに攻撃を加えなかったのは、周りに罠があるか警戒をしていたからであり、怒りのままに愚策な行動をしまいと必死に激情を抑えていた。
まさしく数十年待ちわびた機械を前に、失敗し無様に散ることを良しとしないからだ。
だが――、
「『危険性度ガ一番高イ外宇宙ノ神々カラ送ラレタ尖兵ノ可能性ハ、アリマセンデシタ』
「それなら、一体何なのよ! こっちはトゥルーエンド目前にゲームが台無しになって最悪なのよ!」
机に置かれたノートパソコンに話しかけ、命令する女。神の威厳などかけらも感じない寝ぐせのついた黒髪と黒目を持つ色以外はセーラが今まで見てきた人物と変わりない姿。
ウサギがプリントされているパジャマも、とても神が着るものではない。
容姿も特に優れているというわけでなく、髪の色を金髪にして雑踏の中に入れれば人込みに溶け込むだろう。
「詳細不明? もう、どうしてよ。これじゃあ、世界を作り直しても、またエラーが起きるかもしれないじゃない。このゲーム、最後まで行くのが面倒なのに、もう!」
無詠唱で相手の能力を参照する『ステータス』の魔法を使う。物理・魔法の攻撃及び防御、またスピードといったあらゆる全項目が測定不能。
微生物を観測するのに望遠鏡を使うように、強さの尺度を間違えたかと思い、『ステータス』の表示を変えようとしたが――、
ヒステリックに呟く女。隙だらけな姿を前に、とうとう感情が振り切れた。
「駄目だ」
もう待てない。この時のために60年以上鍛え続けていたのだ。
空腹の猛獣の眼前に極上の肉を置かれれば、罠など警戒せずに食欲のままに飛び掛かるように、セーラも行動に移した。
『ロードNo.2』
使うの最強の魔法――『ブラックホール』 あらゆる存在も圧殺する究極の破壊術。
惑星も攻勢も星を作る権能を持つ存在さえも抵抗できずに殺した技を保存状態から元に戻す。
「死ねええええええ!!!!」
重力の奔流が部屋に及ぼす。黒い恨みの塊がすべてを滅ぼそうとする。
しかし――、
「え?」
目の前の光景が理解できなかった。
「うわっ、これさっきやったブラックホールね!」
驚く神。その姿は健在だった。
それはまだわかる。何らかの手段でふさがれるかもしれないと想定はしていた。
だが、
「ねえ、強さはどれくらい?」
「通常ノ単一宇宙ニオケル、ブラックホールと同ジ規模ト観測シマス」
神の問いに観測結果を述べる機械。
「なんで……呑まれないの!?」
取り込まれるはずのノートパソコンは無事だった。
いや、それだけではない。
セーラのブラックホールは部屋の中にある、ベッドも机も、本も、それどこどか机の上にばらばらにある筆記用具すら取り込むことができなかった。
「もう、目障りよ!」
床に落ちていた本を拾い、投げた。
それは、狙い通りまっすぐ飛び、セーラのブラックホールを破壊した。
「な!」
意味が分からない。どうして修練の果てに会得した最強の技が、本がぶつかっただけで壊れるのか。
「もしかして、ソフトに傷でもついたのかしら」
神は自分の成果を誇るでもなく、ノートパソコンからから円盤状で片面が光を反射する物体を取りだす。
(え?)
そのディスクに複数の反応があった。一瞬分からなかったが、それは転移魔法における転移先の目印だった。
「でも、どうしてあそこから――」
それは、自分が滅ぼした星々のあった空間にあるはず。
「うーん? 傷なんてないわよ……ね」
セーラは神が手に持っている片面が光る円盤を透視魔法で見る。
「うっ!」
セーラは、数えきれない星々が宇宙空間に存在している光景を見た。それは、夜空に浮かぶ星の数などと比べられない大量の星々が、集合し、いくつもの星団を構成していた。
「ああ、そういうこと」
自分の致命的な失敗を理解してしまった。
「私は……『世界』の大きさをあまりにも小さくとらえていたのね」
セーラは、神が創造したのは創造神の住む、恒星や精霊たちの住む星々の位置する範囲だと思っていた。
「よく考えればわかってたはずなのに!」
世界はそれだけでない。
物語の開始地点は流星群が降り注ぐ夜だった。それはシナリオデータにも記されており、遥か先に存在する流星も神の創造物であると思考を働かせておくべきだった。それができたのなら、流星以外の星の光景も、同じ日にちになっているなら別のルートでも同じ位置になるように調整していると推測できたはずだった。
「ああ、もう分かんない! 最悪!」
セーラをよそに喚き散らす神。
「星々の果てまでが『世界』であり、あのゲームソフトが私のいた世界というのなら、まさか――」
最悪の想像が働き、セーラは本棚に目を向け、収納されている本を透視する。
「これも同じ広大な世界になっている。つまりこの本棚にあるのは、1冊が1つの世界になっているということ……」
この部屋には本が百冊を軽く超え、またゲームソフトやアニメ作品を収録したディスクがあるが、それらが世界であるということなら、神が支配している宇宙は、何百も存在していることになる。
そして、それだけのことができる神自身もとてつもない力を持つはずで。
ブラックホールに呑み込むことができないのも当然だった。宇宙と同じ重さを持つものでは重すぎて取り込めない。
「私は無意識のうちにこれくらいの強さでいたらいいと思っていたのかもしれない。あまりにも相手を弱く考えていた!」
「ああ、もういい。他の神が私の宝物たちを奪うために送ってきたやつではないのなら、面倒だけどもう一回作り直すことにするわ」
数百にも及ぶ宇宙の支配者が、意思を決定する。
ゆっくりと顔を動かし、セーラと目を合わせる。
「理由は後で考えるとして、先にバグを消すとするか」
そしてその隔絶した力が彼女に牙を向ける。
アドベンチャーゲームにある一時停止って、現実で行うとしたら、宇宙全体でやらないと停止の範囲外と範囲内の位置がずれるよなと思ったのが、この物語が宇宙規模になるきっかけでした。
あと、外宇宙の神がどうとか文章中にありますが、この作品中ではあまり重要ではないので、同格の存在がほかにもいるんだなくらいの認識で大丈夫です。




