悪役令嬢VS攻略対象 その①
「一番乗りは俺に任せろ!」
ルーカスが大剣を大上段に構えながら、セーラの元へ駆け出す。
人類最高峰の人間の脚力を3000倍にしたもので、その速度は踏み込みの音が届くよりも速かった。
「『ロードNo.1』
見失うことなく、余裕をもって魔法を発動。 地面に魔法陣が出現し、そこから三つ首の竜の姿をした氷像が現れる。
これは本来のストーリーでは迷宮の最深部に待ち構えていた邪神の姿を模したものであり、戦闘能力も同等になるようにセーラが作成していた。
全種類の敵モンスターの中でも最強の攻撃力を誇り、防御力に関しても、セーラが最初のボス戦で生み出した氷の亀と比べ物にならないくらいの堅牢さを持っていた。
両者の間に出現した邪神像が3つの首を伸ばし、噛みつき攻撃を仕掛けるが、ルーカスは余裕をもって回避しながら突き進み、
「うおらああああ!」
戦闘中にランダムで喋る汎用セリフの一つである雄叫びと共に放たれた大剣の一撃は邪神の氷像を一撃で砕き、すぐさま大剣を下段から切り上げてセーラに襲い掛かる。
「『アイスレイピア』」
氷のレイピアで受け止める。
「ねえ、この程度かしら」
筋肉隆々のルーカスが両手で力を籠めるのに対し、セーラは片手でのみレイピアを持っていた。
「皆、邪神の力は危険だ。『加護』を全力で使うんだ」
王子がルーカスだけでなく、メンバー全員に向けて言う。
加護――それは人間には到達不可能な領域にある精霊たちから力を受け取る人間だけが使える術理で、この場にいる人物たちは全員持っていた。
真っ先に使用したのは、鍔迫り合いをしている
「うおおお『頑強なる土の聖霊達よ、俺に力をくれ!』」
自らの肉体を目印に土の精霊の領域に接続することで、距離を超越して力が注がれ、能力が強化される。
(よし、発動した! これで精霊のいる場所を探れる!)
自分が持っている水精霊以外の属性の精霊が住む領域については、50年以上の年月を歩み探知能力も高まったセーラもわかっていなかった。そこで太いパスを持つ主要キャラ達に加護を使わせ、精霊の領域をパスを遡って、辿ることにした。
そして、別の場所に待機させている意識体に向け無詠唱で指示を出す。
表には出さず探知の手段を講じていた間、鍔迫り合いをしていた両者だったが、徐々に大剣がセーラの体に迫ってきた。
セーラは左手を刃のない部分い添えて押し返そうとする。その瞬間――、
「良いタイミングね」
ルーカスの脇の間を縫うように木製のナイフが飛来してきた。
セーラは左手で受け止めた。
「ぼくも忘れてくれないで欲しいな『深緑の聖霊達よ僕と共に!』」
ランが精霊の力を引き出した瞬間、ナイフから植物の蔓が生えてきて左手に巻き付く。
「命を吸い取るドレイン効果ね。なら、『フリーズ』」
大剣と蔓の同時攻撃を対処するための魔法の対象は2か所。
1つは自らの左腕ごと、蔓の生えたナイフを凍らせ、もう一つは地面と自分の軸足に対して発動した。
土の聖霊の力を使っているルーカスは物理・魔法に対する耐性は上昇しており、フリーズの魔法が弾かれることもあり、彼自身を選択に入れなかった。
左足はダンジョンの地面と固定され、大剣の重みを片足だけで受け止める。
そして余裕のできた左足で――ルーカスの金的を蹴り上げた。
「ぐあっ!」
乙女ゲーム世界では概念が存在しない想定外の一撃を回避もできずに、もろに受けたルーカスは倒れる。集中が乱れ、加護の力が弱まる。
そして、セーラはレイピアを背中から心臓に突き刺した。




