神の寵愛を受けし操り人形
セーラはラスボスのいる部屋で、氷で作った椅子に座っていた。
繰り返される世界で50年以上鍛錬してようやく神を殺せる散弾ができたのに、くだらないやり取りで待たされるのに、苛立った。
「『アイスブロック』」
拳大の氷弾を生み出し、音速の速度で放つ。そして一直線に進み、扉を破壊する。
砕かれた先、王子たちのパーティーの姿が視界に入る。
本体越しではない、数十年ぶりに見た級友たちに対しセーラは、
「可能性は低いけど、私を除けば人間の中で最も強いあなた達なら、この世界のいびつさに気づくのではないかと思ったんだけど、がっかりだわ」
失望した。なぜなら、
「リナ、最後の戦いが終わって無事、生き残ったら誰が一番好きなのか決めてほしい」
扉を破壊されたことなど全く気にせず話をしていたからだ。
「よし、それじゃあ、リナの答えを聞くためにもサクッと邪神を倒そうよ」
アサシンの少年が言う――扉の残骸に左手と左足を潰されている状態で。
血を流し倒れ伏しているあはずなのに、仲間たちはまるで頓着しない。変化を作ったセーラでさえ不気味と思う光景だった。
「『ログ』」
念のため、システム魔法を使う。神の理『ログ』の模倣・改造したこれは、心を読む魔法である。
「うん。やはり何も変に思っていない。体を潰された彼でさえ、頭の中は聖女への恋心と邪神を倒そうということだけ。所詮彼らも命のない操り人形なのね」
結局、この世界が物語であることに気づき、自らの意思を持つことができたのは自分だけなのだと確認した。
「なぜ私だけなのかは何十年経ってもわからなかったけど、人という存在が私だけだというのなら、もう全て壊しても問題ないわよね」
世界を破壊する――そこに存在する神のおもちゃには何の慈悲もいらない。
そして、セーラが独り言をつぶやいている間に王子たちの最終決戦前のイベントが終了した。
「よし、行こう!」
まるでパントマイムのように何もない空間で扉を押して開けるような動作をして、部屋に入ってきた。
左の手足を無くしたランは上から糸を吊るされるかのように、見えない何かに引っ張られていく。
「貴様が邪神だな」
王子が輝く黄金の聖剣を構えながら言う。それに対して、セーラは無言。
「け、馬鹿にするんじゃねえ。俺たち人間は貴様を倒せるまで強くなることができるんだ」
「修行をして、強くなった僕たちの力を見て腰を抜かすんだね!」
彼らは、セーラが先に倒しもう存在していない邪神がいる前提で会話をしていた。
このまま会話が終わり戦闘パートに入れば、すぐに敵を倒したという判定になり、次のシナリオに進むのだろう。
シナリオデータを読み取っていたセーラは、この後のハーレムエンドの展開を知っていたが、
「もう神の遊びはうんざりなのよ――『アイスブロック』」
中空にいくつもの氷弾が出現し発射。
一発も外れることもなく、全員の四肢のいずれかを1か所ずつ粉砕する。
「ねえ、そこから見てるんでしょ」
左手が吹き飛んだのにも関わらず苦痛の表情を見せない聖女に向けて言う。
「このゲームは聖女の1人称で進んで行く、それなら聖女の中から見ているはずよね。早く出てこないなら今度はこいつらを本当に殺すわ。それがいやらな出てきなさい」
※
「ど、どいういうことよ」
予想通り、聖女の目線で物語を観測していた神は、混乱していた。
視点をゲームの中から、ゲームの外に戻して、神の住む領域でこれからの対応を考える。
「悪役令嬢のセーラはトゥルールートに入ってすぐに魔物に殺されている。それが蘇ることなんてないはずだし、邪神がセーラの姿を取るなんてことも変よね。いや、そもそもなんでゲームのキャラクターが私のことを知っているのよ」
シナリオのデータを読もうかと悩むが、すべてのストーリーがもうすぐ終わるということもあって、ネタバレを自分ですることには躊躇する。
「とりあえず、バグチェックね。『管理モード起動。ウイルスチェック実行』」
世界を管理するシステムに対して、点検を命じた。
「でもチェックには時間がかかるわね。どうしよう。この間、もう一回ロードしてプレイしてみようかしら。でも、もう一回王子たちがやられたら嫌よね。よし、それならあのモードを使おう!」
方針を決めた神は、世界を改変させる。
※
神からの干渉をセーラは感じ取った。
「『ロード』か」
王子たちの手足が再生されていく。そして、神の力で扉の向こうに引っ張られていく。
「扉の前でのイベントが始まる前に、セーブをしていたはずだったわね」
壊した扉も元通りになった。
神の思惑を邪魔するためにももう一度破壊してやろうかと思ったが、
「今度は『スキップモード』ね」
世界の時が8倍に加速したことを認識したことで、ゲームのキャラクターを殺すことよりも、神が何かをしてくることに注意することにした。
セーラ自身はシステム魔法『仮想マシン』で、世界から自分を切り離していたことで、加速の対象にはなっていなかった。
王子たちが、今度は五体満足で部屋に入ってくる。
セーラは加速した中でもはっきりと彼らの言葉を認識する。
口上はシナリオ通りだったが、先ほどと中身が変わっていると察したセーラは、『ステータス』と唱えた。
「……これは、『楽々モード』を使ったわね」
セーラが確認している間に、最終決戦前のイベントが終わった。
「『アイスブロック』」
なるべく神に持てる手札を見せたくないので、三度目の同じ魔法を発動する。
また四肢を損壊させるべく放たれたそれは、
「はあ!」
失敗に終わる。
「チートの効果は抜群みたいね」
彼らのレベルでは音速の氷弾を弾いたり避けたりすることはできないはずだったが、余裕をもってダメージを回避して見せた。
「『楽々モード』――ステータスを3000倍にするなんて、人の努力をあざ笑うにもほどがあるわ」
この世界の基になった『流れ星に願いを込めて』というタイトルのゲームはRPG要素があるものの本質は乙女ゲームだ。
プレイヤーは女性の方が多く、RPGに興味がない人は困難な敵を倒すことの爽快感等には無縁だった。
そういった人が快適にゲームをプレイしてくれるために、製作スタッフはいわゆるチートモードを用意した。それがキャラクターたちの強さが3000倍にも上昇して、あらゆる敵を苦戦なく倒せるようになる『楽々モード』だった。




